第4話:帝国の掟と見守る執事
俺は身軽さを重視して皮の鎧を選び、武器は片手で扱える短槍を選んだ。
しかし、セルジオと協議した結果――皮の鎧の下に、なぜか魔導士用のローブも着込むことに。
(おいおい、なんだこの組み合わせ……。けど妙にサイズぴったりだし、まあ悪くはないか?)
セルジオは相変わらず渋い表情を浮かべている。
さらに小さなバックを手渡され、中には硬そうな携帯食と、瓶詰めの魔力ポーションが二本。
(……このパン、レンガより固そうなんだけど? てか、ポーションの色、青汁っぽくない?飲みたくねぇ……)
「そのパンは、七日間放置してもカビません」
「え、怖くない!?」
準備を終え、ダンジョンへ向かう道中。俺は素朴な疑問を口にした。
「なあ、なんでダンジョンって一人で入らなきゃいけないんだ?」
セルジオは深いため息をついて答える。
「……坊ちゃま。これは基本的な歴史であり、家庭教師からも習っておられるはずですが」
「え、えーっと……そういえば聞いたような?」
(やべ、全然覚えてねぇ!)
セルジオは淡々と説明を続ける。
「この地はかつてリーン王国と呼ばれておりました。しかし王族がダンジョンを支配しようと大規模な儀式を行い、失敗。その結果、国中にダンジョンが発生したのです」
「うわ、国ごとガチャ爆死かよ……」
「軍を送りましたが敗北。ダンジョンは人を吸収し、さらに強大な存在となりました。
その時、貴族たちが単身で挑み、制圧したのです。その功績により、今のルミノア帝国が築かれました」
「へぇ……俺のご先祖もそのメンバーだったってわけか」
「ええ。ゆえに、ダンジョンは貴族が“単身”で挑むのが義務。これは帝国成立の理念でもあるのです」
(くっ……やっぱりソロダンジョン縛りかよ……。しかも俺、攻撃魔法ないんですけど!? お前らの“強くないモンスター”って基準が信用できねぇ!)
セルジオは歩きながら、懐から掌サイズの水晶玉を取り出した。
「……ただし、完全に孤立するわけではございません。外から、これを通して様子を見守ることはできます」
「おお、それは助かる! ってことは、困ったら助けてくれるんだな?」
セルジオは咳払いし、目を逸らした。
「……いえ。規則により、私が干渉することは許されません」
「え、えええ!? 見てるだけ!?」
「はい。坊ちゃまがどのように戦い、切り抜けるのか――その証人となるのが、私の務めです」
(証人って……お前、実況席かよ!?)
セルジオは、俺の言葉に少しだけ口元を緩めた。
「……坊ちゃまがご無事で戻られることを、ただ祈るばかりでございます」
その笑みはほんの一瞬で消えたが、なぜか俺の胸に静かに残った。
こうして俺は、セルジオの監視(見守り?)を背中に感じながら、人生初のダンジョンへと足を踏み入れることになった―――。




