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第39話:共鳴 学院の渦

昼下がりの講堂。

窓から射し込む陽光が床を照らし、魔導装置の光紋がゆらゆらと揺れていた。

その中心で、アランは机に向かい、符文構築の課題に取り組んでいた。


(集中だ。光の流れを掴む――押さえず、導く。)


ペン先から流れ出る魔力が紙上に淡く走り、幾何学的な線を描いていく。

だが、最後の符文を刻もうとした瞬間、線が微かに揺らいだ。


「……やっぱり安定しないな。」

アランが眉を寄せると、向かいの席から声が飛んだ。


「おいおい、また試してんのか? 昨日の暴走のやつ。」

声の主は同級生のカリス。短い金髪を揺らしながら、半ば呆れたように笑う。


「光を“留める”なんて芸当、普通できねぇって。」

「試さなきゃ、できるようにならない。」


アランの答えに、カリスは肩をすくめた。

「真面目だなあ。……ま、噂になってるぜ。“雷を呑み込む光”ってな。」


講堂のざわめきの中、ちらりと周囲の視線が集まる。

好奇と敬意、そして少しの警戒。

アランは無意識にペンを置き、視線をそらした。


(ああ……やっぱり、目立つのは苦手だ。)


午後の実技時間。

セレスティア教官が教壇に立ち、手にした杖を軽く掲げた。

「今日は、個別課題の提示を行います。各自の魔力特性を分析し、今後の指針とします。」


教官の声に、学生たちの背筋が伸びる。


「まずは――アラン・ルクレディア。」


呼ばれた瞬間、講堂の空気が変わった。

アランは前に出て、静かに立つ。


「あなたの課題は、《光の干渉理論》の再現です。」

「再現……ですか?」


「ええ。あなたが発現した《ルミナ・シェル》は、理論的には成立しない現象。

 今後、意識的に構築できるかを観察します。」


教官の指示に、アランは頷いた。

「……やってみます。」


セレスティアが符文板を起動させ、空間に光の陣を展開する。

淡い光粒が舞い、アランの掌がそれを吸い寄せるように輝いた。

しかし――次の瞬間、光の流れが途切れる。


「うまく……繋がらない。」

「焦らないで。光は命令ではなく、共鳴で動く。あなた自身の“心の波”を整えるの。」


その言葉を聞いたとき、アランの胸の奥に灰哭の森の記憶がよぎった。

あのときも、恐怖や焦りを抑えずに受け入れたときだけ、光は応えてくれた。


深呼吸をひとつ。

目を閉じ、静かに意識を沈める。


(拒まず、恐れず、ただ感じる――)


光がふっと温度を帯びた。

掌の上で、柔らかな光膜が薄く広がっていく。


「……成功、です。」

セレスティアの声がわずかに震えていた。

「それが“制御による創造”。あなたはもう、ただの学生ではありません。」


アランは黙って光を見つめる。

それは揺らぎながらも、確かな意志を持っているようだった。


授業後。

廊下を歩いていたアランの前に、リリアが立ち止まった。


「――見たわよ、さっきの。」

「途中で崩れたけど、なんとか形にはなった。」

「いいえ、あれは完全な成功よ。」


リリアは少し悔しそうに笑う。

「あなた、どんどん先に行くのね。」


「そんなつもりじゃ……」

「わかってる。でも、私も負けない。風だって、もっと先へ行けるはず。」


アランは一瞬だけ、リリアの瞳を見た。

そこには焦りと、それ以上に強い意志が宿っていた。

「……一緒に行こう。光も風も、きっと同じ空を見てる。」


リリアはふっと微笑む。

「言うじゃない。――なら、次は共鳴の先を見せてちょうだい。」


夜、学院の塔の上。

セレスティアは一人、夜空を見上げていた。

指先で描いた光の記録が、淡く流れる。


《観測記録:ルクレディア・アラン》

光の制御は感情共鳴に依存。

理論の枠を超える“調和波”が確認された。


彼女は小さく微笑み、記録に追記した。


“これは新たな始まりである。”


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