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第36話:余韻 光を解く者たち

共鳴試験の翌日。

帝国魔導学院の一角にある研究棟では、いつもより早く灯りがともっていた。


セレスティア教官は白衣姿のまま、分析装置の前に立っている。

机の上には昨日の符文板――アランとリリアが使用したものが置かれていた。

残留魔力の波形は、通常の“干渉”とは異なる緩やかな周期を描いている。


「……やはり。二つの属性が衝突していない。むしろ共鳴している……」

彼女は目を細め、ペンを取る。

「光が風に乗る。これは従来の理論では説明できない――」


背後から声がした。

「先生、また徹夜ですか?」


振り向くと、助手の青年リオンが資料を抱えて立っていた。

「昨日の試験、全校で話題ですよ。特に“光導共鳴現象”って名前がついてました」

「名前だけ先行ね。だが、それだけ注目されているということ。」

セレスティアは微笑み、符文板の光を見つめた。

「あの少年、光の流れを“感覚”で掴んでいた。普通は理論式を介さなければ不可能よ。」


リオンは興味深そうに首をかしげる。

「……つまり、天性の制御感覚?」

「ええ。魔力量は低い。でも制御率は異常。あの光は“自分の意思”を持っていた。」


昼下がり。

中庭の噴水のほとりで、アランとリリアが並んで腰を下ろしていた。

昨日の騒ぎの余韻が、まだ校内に残っている。


「……あれ、何が起こったのか正直わからなかったわ」

リリアがつぶやく。

「でも、確かに感じたの。光が、風を押し上げた瞬間。」


「俺も同じ。お互いに“合わせよう”としたんじゃなくて――

 気づいたら、光が勝手に動いてた。」

アランは手のひらを見つめた。

指先に、かすかな余光が残っているような錯覚があった。


「制御って、完全に操ることだと思ってた。

 でも……もしかしたら、“感じ取る”ことなのかもしれない。」


リリアは少し驚いたようにアランを見て、ふっと笑った。

「あなた、意外と詩人なのね。」

「詩じゃないよ。本気でそう思っただけさ。」


しばらくの沈黙。

噴水の水音だけが、二人の間に流れた。


研究棟。

セレスティアは符文板の解析を終えると、記録簿に一文を記した。


『光と風の共鳴現象、初確認。

光属性の“非干渉性”に例外を発見。

当該被験者、アラン・ルクレディア。

継続観察を要す。』


彼女はペンを置き、窓の外を見た。

中庭には、笑い合う二人の姿。

その光景を見つめながら、小さくつぶやく。


「――あの子の光は、世界を変えるかもしれない。」


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