第33話:白銀の学院 基礎課程の門出
――あれから一年。
公爵家の第十二子、アラン・ルクレディア。
かつて“落ちこぼれ”と呼ばれたその少年は、十一歳になっていた。
そして、帝国魔導学院の門前に立っている。
帝都ルメニアの中央区、魔晶塔の根元に建つ白銀の学舎。
それが、帝国最高の教育機関――帝国魔導学院だ。
ここでは、魔導士を志す若者たちが、基礎課程から学びを始める。
在学期間は二年間。
授業内容は――
「魔力量の制御」「符文構築の基礎」「属性適性の習得」など、
魔法の根幹を磨くための初歩にして最重要の課程だった。
アランは新調された制服の袖を整え、ゆっくりと息を吸い込む。
「……ここからが、本当の始まりだ」
その胸の内には、不安よりも静かな決意が満ちていた。
正門をくぐると、敷地の中央に浮遊魔導塔がそびえ立っている。
青白い魔力が空を渡り、光の粒子が風に舞った。
学び舎であると同時に、ここは帝国直属の研究施設。
学生たちは学びながら国家研究にも参加し、魔法理論の発展を競い合う。
まさに知と力の戦場だった。
「おい、あれが例の“光属性”だろ」
「魔力量が低いくせに、よく入れたな」
「制御率九十五パーセント? 誇張だって噂だぜ」
背後からそんな声が聞こえた。
(……構わない。言わせておけ)
アランは振り返らず、まっすぐ前を見据える。
「光が弱い? なら、制御で証明してみせる」
小さく呟いたその瞬間、胸の中にかすかな光がともった。
講堂では入学式が始まっていた。
壇上に立つのは学院長――エルヴァン・クローディアス。
銀の髪を持つ老魔導士が、静かに杖を掲げる。
「諸君。魔導士とは、力を誇る者ではない。理を識り、制御する者だ。
――魔力は剣、そして知識はその鞘である。驕るな、磨け。」
その言葉が講堂全体に響いた瞬間、アランの心に確かな共鳴が走る。
(制御こそすべて――やはり、この学院は俺の居場所だ)
入学式が終わると、学生たちはそれぞれの教室へと向かった。
アランが指定されたのは、光・雷・風を扱う特別クラス――光導基礎課程。
扉を開けた瞬間、静寂。
そして、懐かしい声が響いた。
「……あなた、あの試験のときの」
立ち上がったのは、淡い金髪の少女――リリア・アルヴァイン。
帝国第一公爵家の令嬢にして、かつての対戦相手。
「まさか同じクラスになるなんてね。
次は、勝たせてもらうわ」
アランは口元に笑みを浮かべた。
「望むところだよ」
光の火花が、ふたたび二人の間に走った。
それは、新たな学院生活の幕開けを告げる一閃だった。




