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第31話:模擬戦 光の片鱗

本部の中庭――円形闘技場に似た訓練場に、受験者たちが再び集まっていた。

朝靄を切り裂くように、鐘の音が鳴り響く。


「本日より、実戦演習を開始する」


試験監督官の声が響く。

「各受験者は順に対戦形式で査定を行う。評価基準は、魔力制御・応用・判断力――三項目だ」


観覧席には査定官の三名、レオニール、マリエッタ、ダリオが並ぶ。

それぞれが記録板を構え、受験者の一挙手一投足を逃さない。


「次――アラン・ルクレディア、リリア・アルヴァイン」


ざわめきが広がった。

帝国第一家と第六家――公爵家同士の対戦。

その名を聞くだけで、観覧者たちの目が一斉に集まる。


アランは深呼吸をしながら、槍を構えた。

リリアは長杖を軽く回し、余裕の笑みを浮かべる。


「昨日の制御試験、なかなかだったわね。でも、“光”なんて、戦場じゃ役に立たない」


「なら、確かめてみればいい」


試験官が手を下ろす。

「――開始!」


号令が響いた瞬間、リリアが詠唱を走らせる。

「《フレア・スパイラル》!」


炎が渦を巻き、アランの足元を飲み込む。


熱風が襲いかかる中、アランは反射的に詠唱した。

「《ルミナエッジ》!」


光の刃が生まれ、炎を両断する。

だが、リリアの追撃は止まらない。

次の詠唱を重ねる。


「《フレア・バースト》!」

爆炎が奔流となって押し寄せた。


(……間に合わない。《ミラージュ》じゃ遅い!)


アランは歯を食いしばり、胸の奥で光を爆ぜさせる。

「《ホーリードライブ》」


金白の光が彼の身体を包んだ。

爆風がぶつかる瞬間、光の外殻が閃き、

衝撃波をぎりぎりで受け止める。


(持たせろ……っ!)


しかし、過剰な出力が回路を圧迫する。

全身が灼けるように痛む。

光が暴れ、意識が白く染まりかけた。


――暴走の兆候。


喉から息が漏れる。

(だめだ……このままじゃ――)


アランはわずかに残った冷静さで、自らの精神を結界で包み込む。

「《リカバー》……内界安定化」


淡い光が彼の瞳の奥で瞬く。

狂い始めた魔力の流れが、静かに収束していく。

外殻の輝きが一瞬落ち着き――再び細い閃光に変わった。


リリアが驚愕に目を見開く。

「自分の暴走を……抑えた?」


アランは息を整えながら掌を掲げる。

「まだ終わってない。《ルミナエッジ》――零式」


光刃が一直線に走り、

リリアの足元の床を正確に一線だけ斬る。


「そこまで!」

試験官の声が響く。

「勝者――アラン・ルクレディア!」


沈黙。

次の瞬間、見守っていた査定官の間にざわめきが走った。


「制御値……九十五パーセントを維持?」

「暴走寸前で自己抑制。理論外だ」


アランは膝をつきながら、わずかに微笑んだ。

(……あれが俺の“光”。まだ不完全でも、確かにここにある)


リリアはゆっくりと近づき、冷たい声で言った。

「認めないわよ。あんな制御、常人にはできない」


アランは視線を上げた。

「俺も――常人じゃないみたいだからな」


彼の足元には、淡く残る金色の残光。

それはまるで、目覚めを予感させる“光の印”のようだった。


――帝都魔導士団査定、模擬戦終了。


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