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第30話:帝国魔導士団査定 理と光

魔導士団本部の査定ドーム内部は、まるで巨大な魔法陣そのものだった。

床には幾何学模様の線が幾重にも刻まれ、天井の浮遊結晶が淡い光を放っている。

そこに集まった受験者は二十名ほど。

皆が息を潜め、前方の監査席に並ぶ三人の試験官を見つめていた。


中央に立つのは、黒衣の男――雷の監査官ダリオ

彼が淡々と声を響かせる。


「これより、帝国魔導士団一次査定を開始する。第一試験――魔力量測定。各員、順に魔導陣へ進め」


受験者たちが列をなし、中央の魔導陣へと歩み出る。

陣の中央に立つと、床から光柱が立ち上がり、周囲に魔力の波紋が広がった。

測定値が水晶板に浮かび上がるたび、どよめきが起こる。


「三千六百ユル……さすがはアルヴァイン家の令嬢」

「やはり、六大公爵家の筆頭は格が違うな」


リリア・アルヴァインの測定結果が告げられると、周囲に小さなどよめきが起こった。

彼女は表情ひとつ変えず、静かに視線を前だけに向けて戻っていく。


帝国の一般魔導士の平均値は一八〇〇ユル前後。

上級貴族の子弟でも二五〇〇を超えれば優秀とされる。

三千六百――それは、すでに実戦級の魔導士に匹敵する数値だった。


次々と受験者の名が呼ばれ、そして――


「アラン・ルクレディア」


静まり返る空気。

アランは一歩前へ出た。

床の魔導陣が淡く光り、魔力が引き上げられていく。

青白い光柱が彼を包み込んだが――

水晶板に浮かんだ数値を見て、周囲がざわついた。


「……一五〇〇ユル?」

「同じ六大公爵家でも、この差か」

「地方育ちは所詮この程度よ」


囁きが広がる中、アランはただ静かに光柱の中心で立っていた。

(……量では勝てない。でも、俺の光は“質”で証明する)


しかし、光柱の中でわずかな異変が起きていた。

魔力波が、規定の流れを外れて空間に揺らぎを生んでいる。

監査官席で、ダリオの瞳が細められた。


「……制御値、測定不能?」


隣のマリエッタが眉をひそめる。

「魔力量こそ平均以下だけど、内部の魔力循環が異常に安定しているわ。普通なら、幼年魔導士の体は魔力に押し流されて乱れるはずなのに……」


(制御――それが俺の“光”の強みだ)


アランは静かに目を閉じ、体内の魔力を一点に集束させた。

光柱の色が、わずかに金色を帯びる。

その瞬間、ダリオの記録板が微かに震えた。


「測定値変動――安定率、九十二・五パーセント。制御値は、“魔力を暴走させずに循環維持できる割合”を示すが……この年齢で九十を超える例は、過去にも数件しかない」


会場にざわめきが広がる。

リリアが横目でこちらを見た。

「制御精度だけ高くても、実戦じゃ意味ないけど?」


アランは淡く笑った。

「そうだな。なら、次で確かめよう」


筆記試験。

広い講義室に魔法灯が並び、試験官が静かに問題紙を配る。

帝国史・魔法理論・符文構築。

難解な問いが並ぶ中、アランの筆は迷いなく進んでいた。


(……魔脈の流れは、塔群を通して安定化……ここは《理と光の均衡》の応用……)


符文構築――それは魔法を発動させる“理術式”を設計する技術。

単なる暗記ではなく、魔力の流れ・形状・発動条件を理解したうえで、数式と図式を融合させる“構築思考”が求められる。

ひとつの線や角度の違いで、魔法が暴発することすらある。


《灰哭の森》での経験が、理論の理解を深めていた。

紙面の上に描かれた光の式が、戦場で見た現象と重なる。


隣の席でリリアがちらりと視線を向ける。

アランの符文構築速度に、ほんのわずかに眉を動かした。


(速い……? でも、彼の魔力量では……)


時間が過ぎ、試験終了の鐘が鳴る。

受験者たちが一斉に筆を置く中、アランは深呼吸をひとつして席を立った。

胸の奥に、確かな感覚が残っている。


(理を“学ぶ”だけじゃない。俺はそれを“体で理解してる”――)


外へ出ると、セルジオが出迎えていた。

「お疲れさまでした。どうでしたか?」

「悪くない。次は――模擬戦だろ?」

「ええ。ここからが本番です。お気をつけください」


アランは空を見上げた。

白銀の塔の上で《大環アークサークル》が静かに光を放つ。


(あの光に届くまで、俺は止まらない)


――帝国魔導士団査定、第二試験。模擬戦。


その幕が、静かに上がろうとしていた。


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