第3話:武器を手にした“異端の貴族”
儀式を終えた俺は、重苦しい空気の大広間から退場することになった。
背中には兄姉たちの冷たい視線が突き刺さる。
「まあ、せいぜい長生きすることだな」
「いや、むしろ早めに終わるんじゃない?」
くすくすと笑う声。
(うおおおお、胃が痛ぇ……! この兄姉たち、口が悪すぎるだろ!!)
俺は精一杯の作り笑いを浮かべながら、膝が震えるのを必死で隠した。
そして、後ろから小走りでついてくるのは、先ほど紹介された老執事セルジオ。
廊下を歩きながら、セルジオが穏やかな声で口を開いた。
「……坊ちゃま。先ほどの儀式、大変でしたな」
「へ、へへ……まあ、なんとかね」
(いや、なんとかどころか公開処刑だったんですけど!?)
セルジオはそんな俺の心情を察しているのか、いないのか、にこやかに続ける。
「しかし、光属性は決して悪いものではありません。むしろ、育てば非常に強力なものとなりましょう」
「そ、そうなのか?」
(問題は“育つまでが地獄”ってことなんだよ!)
セルジオは重々しく頷いた。
「ええ。ただし――ダンジョンに挑むのは、あくまでお一人です。決して、外から助けが入ることはありません」
「……ひとり、で?」
「はい。たとえ私とて中に入ることは許されません。ですから、坊ちゃまは己の力のみで道を切り拓かねばならぬのです」
(お、おい……それってつまり、俺が“明かり魔法”と“ちょっと回復”だけでモンスターと戦わなきゃいけないってことじゃん!? え、どう考えても無理ゲーじゃね!?)
セルジオはさらに続ける。
「とはいえ、まずは『初級者ダンジョン』で経験を積み、腕を磨くことになります」
「しょ、初級者……か」
(いやいや、“初級”でもモンスターは出るんだろ!? 俺の未来はどこまで地雷原なんだーー!?)
セルジオの落ち着いた口調とは裏腹に、俺の心臓はバクバクと跳ね続けていた。
こうして、俺の“ひとりぼっちダンジョン挑戦”の日々が始まろうとしていたのだった――。
いよいよダンジョン挑戦の日。
俺はセルジオに案内され、倉庫のような広い部屋へと連れてこられた。
そこには杖やローブはもちろん、鎧や剣、槍などの武器までずらりと並んでいる。
「初回に限り、ここにあるものを貸し出すことができます。どうぞ、お選びください」
俺は真っ先に武器の棚に向かい、手を伸ばした。
「まずは、武器だな。剣は重そうだから……槍ならリーチがあるしいけるかも。あとは、皮の鎧とか軽めの防具がいいな」
だが、隣からセルジオの困惑した声が飛んでくる。
「ぼっちゃま、なぜそのようなものを選んでおられるのですか? あなたは高貴なる魔法使い。武器など手にするのはもってのほかです」
「いやいやいや! 俺が覚えてるの、明かり魔法とちょっとした回復魔法だけだよ!? そのまま突っ込んだら一巻の終わりだって!」
(じゃあなんで武器とか鎧とか置いてあるんだよ! ディスプレイか!?)
セルジオは目を丸くし、口をぱくぱくさせた。
「……まこと、でございますか?」
「貴族って、武器とか剣術とかホントに禁止なの?」
「はい。その通りです。ダンジョンは貴族の力量を示す場。魔法に誇りを持ち、己の力を示すことが義務……武器や武術に頼るのは、貴族の沽券に関わることです」
「えっ……でもさ!」
俺は必死に食い下がる。
しばし逡巡したセルジオは、深いため息をついて頷いた。
「……わかりました。今回に限り、特例ということにいたしましょう。ただしお忘れなく。ダンジョン内ではモンスターを倒したり、宝箱からアイテムを入手できます。本来は“自らの手で得たものを使う”ことこそが貴族の誇り。次からは何も持ち込めません。ご注意くださいませ」
「な、なるほど……(いや、それ次から死ぬフラグなんだけど!?)」
こうして俺は、特例で武器と防具を装備することを許され、初めてのダンジョンに挑む準備を整えることになった。




