表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/34

第28話:帝都への召集

数日後。

ルクレディア公爵邸の玄関前に、黒塗りの魔導馬車が停まっていた。

御者台には帝国紋章を刻んだ旗――銀の双翼が風にたなびいている。


「……帝都から、正式な召集だ」

ガルシアの声は低く響いた。

その横顔に、誇りと試練を与える者の影が重なる。


アランは膝を折り、一礼した。

「帝国魔導士団の査定……ですね」

「そうだ。あの“灰哭の森”での戦果は報告済みだ。帝国も、お前の光魔法に興味を持っているようだ」


父の言葉に、アランはわずかに眉を上げた。

――帝国が“光”に興味を?

それは、数百年の歴史の中でほとんど語られなくなった属性。

「時代遅れの魔法」とまで言われる力だ。


「誤解するな」

ガルシアは続けた。

「興味とは好意ではない。“未知”を測るために、帝国は査定を行う。……生半可な力では潰されるだけだ」


アランは静かに頷いた。

(わかってる。けど――今の俺なら、もう逃げない)


背後から足音が近づいた。

銀の盆を片手に、執事セルジオが現れる。

その背筋はいつもよりもさらに正しく、静かな瞳が、差し込む光をまっすぐに映していた。


「出立の準備、整っております。旅装、携行品、魔力安定剤……すべて確認済みです」


「ありがとう、セルジオ」

アランは小さく微笑んだ。


「帝都までの道は長い。――一緒に行くんだろ?」

「もちろんです。主の旅に同行できることは、この上ない光栄です」


二人の視線が交わる。

少年と執事、その間にあるのは、主従でありながら確かな絆だった。


ガルシアは背を向け、短く告げる。

「行け。帝都で結果を掴め。それが“ルクレディアの証”となる」


その言葉を最後に、アランは馬車に乗り込んだ。


街道を抜け、丘を越えた先――

霧の向こうに、白銀の光を放つ都市が姿を現した。


車窓から見える景色は、地方の静かな森とはまるで別世界だった。

魔導街灯が道沿いに淡い光を放ち、石畳の通りを照らしている。

空では浮遊馬車マギリフトが静かに滑り、通りの両脇には魔導具を扱う店や貴族の屋敷が立ち並んでいた。


遠くには白銀の塔群がそびえ、

その根元からは青白い光の筋――魔力導管まりょくどうかんが街の各所へと張り巡らされている。

まるで都市全体がひとつの魔法陣として呼吸しているようだった。


「……これが、帝国の中心……」

アランは息を呑む。


胸の奥で、かすかな振動が響いた。

それは地の底を流れる魔脈まみゃくの鼓動――

彼の中の《ルーメン》が共鳴しているようだった。


足元の石畳から、微弱な光がにじむ。

地中を流れる魔脈の力が、塔を介して都市全体に巡っている証。

アランは、まるで自分の魔力がこの街の一部に溶け込んでいくような感覚を覚えた。


セルジオが穏やかに微笑む。

「驚かれましたか?」

「……正直、圧倒されたよ。地方で足掻いていた自分が、霞んで見える」

「それでも、貴方は“光”を放った。この帝都でも、その光はきっと消えません」


アランは静かに拳を握った。

(俺の光が、どれほど通じるか――確かめてやる)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ