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第27話:報告と再会 執事セルジオの眼

灰哭の森からの帰還から一晩後。

部屋の扉を開けた瞬間、懐かしい声が響いた。


「お帰りなさいませ、アラン様」


銀の髪を整えた執事・セルジオが、深く一礼する。

その動作はいつも通り完璧だったが、目の奥には確かな安堵が浮かんでいた。


「ただいま。……なんとか、戻ってこれたよ」


「“なんとか”などという言葉で片づけてよい功績ではありません。報告を拝見しました。“上位変異体”を単独で討伐されたとか」


「上位変異体……って言うのか、あれ」

アランは苦笑しながら、ソファに腰を下ろす。

「確かに、ただの影狼じゃなかった。霧と同化して、攻撃の軌跡すら見えなかったよ。正直、死ぬかと思った」


セルジオは一瞬、眼鏡の奥の瞳を細める。

「……通常の“影狼王”ではなく、“上位変異体イレギュラー”。自然発生する確率は、一万分の一。監査官の方々がざわめくのも当然ですね」


「一万分の一、か……そりゃ運が悪いにもほどがあるな」


「いいえ、運ではございません。あの状況で生還し、討伐まで成し遂げたのは――実力の証です」


アランは肩をすくめ、乾いた笑いを漏らした。

「まぁ……ギリギリだったけどな。あの時、最後に放った光がなければ、今ごろ俺は森の一部になってた」


アランは戦闘の様子を説明し終えたところで、セルジオの瞳が静かに揺れた。

「《ホーリードライブ》……《ホーリーランス》の発展形ですね?貴方の身体そのものが光に包まれたと」


「そう。放つんじゃなくて、“纏う”感覚だった。光を撃ち出すんじゃなくて、自分が光になって突っ込む――そんな感じだ」


「……成長なさいましたね、アラン様」

セルジオの声に、わずかな誇らしさが滲む。

「以前の貴方なら、あのような極限で冷静には動けなかったでしょう」


「まあね。迷宮の時はただ必死に生き延びるだけだったけど、今は“戦う理由”がある。家のためでも、誰かのためでもなく――俺自身のために」


セルジオは静かに頷いた。

「その覚悟があれば、どんな光も濁ることはありません」


アランは少し照れくさそうに笑う。

「……ありがとな、セルジオ。お前がいたから、ここまでこれたよ」


「お褒めにあずかり光栄です」

そう言って深く頭を下げた後、セルジオの表情が引き締まる。

「しかし、安堵するのはまだ早いようです。――公爵様より、新たな命が下りました」


「あの件だな」


「はい。“帝国魔導士団の査定”に出ろ、とのことです。次は、公爵家の試験ではなく、帝国そのものが貴方を評価する」


アランの瞳が静かに燃え上がる。

「……ついに来たか。もう“家の中”だけの戦いじゃないんだな」


「ええ。帝国は貴方の名を“若き光導師候補”として記録したとか」


アランはゆっくり立ち上がり、窓の外――帝都の方向を見つめた。

「だったら、やるしかない。今度は、帝国に“光”を証明する番だ」


セルジオの口元がわずかにほころぶ。

「承知いたしました。すべては、アラン様の未来のために」


夕陽が部屋を満たす。

その光の中で、少年と執事は次なる戦いを静かに見据えていた。


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