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第26話:帰還 光の証明

霧の海を抜けた瞬間、視界がぱっと開けた。

灰の森を覆っていた冷気が遠ざかり、代わりに乾いた風が頬を撫でる。


(……生きて戻った……)


出立地点の転移陣には、三人の監査官がすでに待機していた。

ダリオが淡々と呪文を唱え、光陣が稼働する。

次の瞬間、灰色の魔方陣の中からアランの姿が浮かび上がった。


「記録確認――生存反応、継続中。帰還を確認」

淡々と報告するダリオの声に、マリエッタが目を細める。


「ふぅん……本当に三日で戻ったのね。正直、無理だと思ってたけど」

その口調には驚きと、わずかな賞賛が混ざっていた。


レオニールは腕を組んだまま、冷ややかに告げる。

「見たところ、生きてはいるが……ただそれだけでは意味はない。成果を出せ」


アランは無言で懐から黒と白に揺れる魔石を取り出し、手のひらに乗せて見せた。

「――討伐対象、《影狼王》の魔石です」


その瞬間、三人の視線が一斉に鋭さを帯びた。

マリエッタが低く口笛を吹く。

「……まさか“上位変異体”を仕留めたの?」


レオニールが短く息を吐いた。

「ふん……見かけによらぬ執念だな。凡庸の名は、ひとまず返上してやろう」


アランは返事をせず、ただ深く頭を下げた。

その掌の中で、魔石が淡く光り、霧の残滓が静かに消えていった。


謁見の間。

高い天井から冷たい光が降り注ぎ、玉座にはガルシアが静かに座していた。

アランは膝をつき、魔石を両手で差し出す。


「――中級ダンジョン《灰哭の森》、踏破いたしました。

 討伐対象《影狼王》、撃破確認。証として魔石を持ち帰りました」


広間を満たす静寂。

やがて、玉座の上から低い声が響いた。


「……見せろ」


アランはそっと魔石を掲げる。

白と黒の光が交錯し、天井の紋章を照らす。


ガルシアはしばらく無言でそれを見つめていたが、やがて静かに口を開いた。

「……ふむ。ようやく、“光”が刃となり始めたか」


(……父さん……!)


その言葉に、アランの胸が熱くなる。

称賛というより、認定――“戦う者”として見られた気がした。


「しかし、まだ半端だ。お前の光は未熟。自らを守るだけの光に過ぎぬ」


言葉は厳しいが、その奥には確かな興味が宿っていた。


「だが、その力……放ってはおけぬな」

ガルシアは立ち上がり、背後の重臣に一瞥を送る。

「帝都へ報告せよ。ルクレディア家より、“若き光導師候補”を得たと」


重臣が驚きの息を漏らす。

(……光導師候補……!?)


兄姉たちの間に走るざわめき。

「まさか……」

「父上が認めた……?」


ガルシアは静かに右手を上げ、騒めきを断ち切った。

「勘違いするな。これは褒美ではない。これからが始まりだ」


アランは深く頭を垂れ、拳を胸に当てた。

「……はい。必ず、次も結果を出します」


玉座の主はわずかに目を細めた。

「言葉に責任を持て。次は、帝国魔導士団の査定だ」


その声に、広間が再びざわめく。

新たな試練の予感が空気を震わせる中、

アランの胸の中では、光導師の名に応えるように、魔力の波が静かに脈打っていた。


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