第2話:落ちこぼれ公爵子息、船出
選定の儀式が終わった大広間は、先ほどまでの荘厳な静けさから一転し、ざわめきと好奇の視線で満ちていた。
「光属性だってよ」
「ただし魔力量は既定の半分だろ? 終わってるな」
「公爵家の恥さらしじゃないか」
ひそひそ声が、壁の彫像に反響して広がっていく。
(……おいおい、俺の第2の人生、いきなり社会的死亡宣告かよ!?)
背筋に冷や汗を垂らしながらも、俺は表情だけは必死に取り繕った。
威風堂々――のつもりで胸を張るが、足はガクガクと震えている。
そんな俺を一瞥したのは、豪奢な衣をまとった十一人の兄姉たちだった。
アランは末っ子であり、しかも庶子。立場は最下層にある。
長兄と思しき青年が鼻で笑い、呟く。
「やはり、下賤の血が混じるとこうなるのだな」
「哀れなものだわ」
「まあ、いい。どうせ最初のダンジョンで消える」
(おいおいおいおい! 勝手に俺の未来を断言するなーーッ!!)
思わず声に出しそうになるのを堪えた俺は、笑顔をひきつらせたまま固まる。
やがて当主ガルシアが重々しい声を放った。
「静まれ」
その一声で、大広間が水を打ったように静まり返る。
「アラン・ルクレディア。お前は落ちこぼれであろうと、この一族の血を継ぐ者。よって、ダンジョンに挑む義務は免れぬ」
「は、はいっ!」
即答したものの、内心は膝から崩れ落ちたい気分だった。
(いやいや、待て! 義務とか言われても、攻撃魔法なんてまだ覚えてないんですけど!?)
選定の儀式が終わると、属性を授かった者の頭には、自然と魔法の知識が浮かび上がる。
だがアランが扱えるのは――明かりを灯す初歩の魔法と、ほんの少しの回復魔法だけだった。
ガルシアはさらに続ける。
「お前に従う部下は、執事ひとり。年は老いておるが、忠実な者だ」
その言葉とともに、列の端から一人の老人が進み出る。
白髪を撫でつけ、皺だらけの顔に穏やかな笑みを浮かべたその姿――まさに典型的な「老執事」。
「はじめまして、坊ちゃま。わたくし、セルジオと申します」
「よ、よろしくお願いします!」
(……え、ほんとにこの人ひとりだけ!? フルパーティーどころか、老執事と俺の二人旅!? 死亡フラグどころか墓石に名前刻まれる未来しか見えねぇ!!)
大広間の隅では、兄姉たちが失笑を漏らしていた。
「せいぜい頑張ることだな、アラン」
「いや、もう頑張る以前の問題では?」
(くっ……覚えてろよ。光属性が“最強”だって、必ず証明してやる! ……たぶん、いつか。いや、できれば早めに!)
胸の奥に小さな炎――いや、LEDライトくらいの光を灯した俺は、こうして波乱に満ちた二度目の人生を踏み出すことになったのだった。




