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最強だと思った光魔法ですが習得が難しいです! ~魔法至上の国でダンジョンに挑む公爵家の落ちこぼれ~  作者: 空木 輝斗


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第194話:境界の一歩

空気が、変わった。


それは風でも、圧力でもない。

もっと静かで、もっと深い、流れそのものの質の変化だった。


アランの周囲に漂っていた光が、わずかに沈む。


広がるのではなく、内側へと凝縮され、形を持たないまま輪郭だけがはっきりしていく。その在り方は、さっきまでの“魔法”とは明らかに違っていた。


リリアは一歩踏み出しかけて、止まる。


(……近い)


さっきの状態に。


いや、それ以上に。


アランは、もう“触れている”。


上位個体と同じ領域へ。


「……やめて」


声が漏れる。


強く言おうとしたはずなのに、思ったよりも小さかった。


届いてほしい。


それだけが、先に出た。


アランは、動かない。


ただ、上位個体を見ている。


その視線に迷いはない。


恐怖も、焦りも、見えない。


代わりにあるのは、ただの“理解”だった。


(ここを崩せばいい)


自然に分かる。


構造が。


流れが。


どこを断てば、全体が解けるのか。


それが、手に取るように。


「……なるほど」


小さく呟く。


その声は、どこか他人事のようだった。


上位個体が動く。


今度は真正面から。


回避ではなく、制圧。


一撃で終わらせるための踏み込み。


空気が裂ける。


だが、アランは動かない。


避ける必要がないと分かっているからだ。


(ここで、ずらす)


ほんのわずかに、体を動かす。


最小限。


それだけで、軌道が外れる。


上位個体の一撃が空を切る。


同時に、踏み込む。


距離が消える。


拳を振るう。


単なる打撃ではない。


流れそのものを、そこへ重ねる。


「――」


音が、遅れて来る。


衝撃が内部へ沈む。


上位個体の体が、一瞬だけ止まる。


その中心に、干渉が届いた。


完全な“ズレ”。


均一だった構造が、崩れる。


「……これで」


終わる。


そう思った瞬間。


上位個体の目が、わずかに変わった。


初めての“反応”。


同時に、内部の流れが再構築される。


崩れたはずの均衡が、瞬時に戻る。


「……再構成?」


アランの中で、わずかな驚きが生まれる。


だが、それもすぐに消える。


(なら)


もう一段、深く。


踏み込めばいい。


光が、さらに沈む。


限界を越えて。


人の領域を越えて。


完全に一致する。


上位個体と。


核と。


魔脈と。


そのすべてと。


「……やめろって言ってんだろ」


ガルドの声が、低く響く。


今までとは違う。


本気の警告。


それでも、アランは止まらない。


止める理由が、見つからない。


(これが、正しい)


流れを整える。


ズレをなくす。


それだけのことだ。


ただし。


その“整え方”が、人間のそれではないだけで。


リリアが踏み込む。


今度は迷わない。


風を、一気に収束させる。


優しくではなく、強制的に。


「戻って!!」


叫びと同時に、流れを叩く。


アランの周囲に、風が割り込む。


均一になりかけた流れに、意図的なズレを作る。


その瞬間。


――ぐらり


アランの意識が、揺れた。


(……あ)


ほんの一瞬、“自分”が戻る。


その隙間を、リリアは逃さない。


さらに押し込む。


「あなたは、そっちじゃない!」


その言葉が、強く刺さる。


理屈ではない。


感情だった。


「……っ」


アランの表情が、わずかに歪む。


完全に一致しかけていた流れが、崩れる。


同調が、外れて戻る。


人の側へ。


「……はぁ……っ」


息が乱れる。


視界が揺れる。


だが、意識ははっきりと戻っていた。


その瞬間を見逃さず、上位個体が動く。


最後の一撃。


今度こそ、決めるために。


「……させるかよ」


ガルドが割り込み。正面から受ける。


衝撃がぶつかる。


一瞬だけ、止まる。


アランは、もう迷わなかった。


深くは入らない。


届く範囲で、確実に光を収束させる。


「……これで終わりだ」


静かに言う。


そして、踏み込み、拳を放つ。


今度は、構造の“核”ではない。


その一段外側。


再構成の起点。


そこへ。


――ドンッ!!


衝撃が走る。


流れが、崩れる。


再構築が止まり、均衡が維持できなくなる。


上位個体の動きが止まる。


一瞬の完全な隙。


ガルドが、笑う。


「ナイス判断だ」


そのまま、全力で叩き込む。


――ドォン!!


重い一撃。


今度こそ、完全に。


上位個体が吹き飛ぶ。


岩壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。


静寂が戻る。


戦いが、終わった。


リリアはその場に立ったまま、しばらく動けなかった。


風が、ゆっくりと収まっていく。


視線を、アランへ向ける。


「……大丈夫?」


アランは少しだけ間を置いて、頷いた。


「……なんとか」


そう言う。


だが。


その目は、少しだけ違っていた。


深く。


静かに。


どこか、遠くを見ている。


胸の奥で、光が揺れる。


以前とは違う形で。


(……残ってる)


さっき触れたものが。


完全には、離れていない。


ガルドがそれを見て、小さく息を吐く。


「……まあ、そうなるわな」


軽く言う。


だが、その声は重かった。


「一回踏み込んだら、戻りきるほうが難しい」


アランは何も言わない。


ただ、分かっていた。


自分が今、どこに立っているのか。


完全に越えてはいない。


それでも。


もう、以前と同じ場所ではない。


風が、静かに吹いた。


その感触だけが。


かろうじて、現実に繋ぎ止めていた。


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