第19話:貴族集会と模擬戦
謁見の間を後にしてから数日。
アランは休む間もなく呼び出され、再び玉座の間に立たされていた。
「……アラン。お前に次の課題を与える」
ガルシアの声は冷ややかで、広い石造りの空間に低く響く。
「課題……ですか」
「数日後、貴族同士の集会がある。そこでは各家の子息が模擬戦を行い、家の力を示す場となる。
ルクレディアの名を背負う以上、凡庸であることは許されぬ」
言葉の端に、わずかな棘が混じっていた。
周囲には兄姉たちが並び、勝ち誇ったように視線を注いでくる。
「模擬戦……」
アランは小さく呟く。喉が渇き、心臓がひときわ強く脈打っていた。
《灰哭のダンジョン》を生き抜いたばかりだが、まだ力を証明したわけではない。
(負ければただの笑い者。勝てば、ほんの少しでも己の力を証明できる)
セルジオが背後から一歩進み出る。
「旦那様、アラン様は先日のダンジョンで確かな成果を挙げられました。この模擬戦でも、きっと――」
「黙れ」
ガルシアの一喝に、セルジオは唇を噛み、頭を垂れた。
「アラン。言い訳も、庇いも不要だ。模擬戦で力を見せよ」
数日後。
白亜の庭園を改造した闘技場。
観覧席には各家の貴族たちが並び、冷笑と期待の入り混じった視線を向けてくる。
対面に立つのは、シルヴァーノ家の少年――カイル。
銀髪をかき上げながら、豪奢な杖を軽く振って笑う。
「へぇ、噂の落ちこぼれか。せいぜい退屈させないでくれよ」
アランは黙って一礼した。
(……武器はない。けど、ダンジョンで掴んだ魔法がある。あれで戦うしかない)
「試合、始め!」
開始の合図と同時に、カイルが杖を振り抜く。
「――《フレアショット》!」
炎弾が一直線に迫る。
アランは横へ跳び、地面を転がって回避した。
熱が頬をかすめ、焦げた砂の匂いが漂う。
(あんなのをまともに食らったら一撃で終わりだ……)
カイルが追撃の構えを取る。
「どうした、“光魔法”は飾りか? 撃ってみろよ!」
アランは無言で魔力を練り上げた。
「――《ミラージュ》!」
瞬間、闘技場に三人のアランが出現する。
それぞれが異なる角度へ走り出し、砂煙を巻き上げた。
「はっ、幻影か? そんなもので――」
カイルの炎が一人を焼き払う。だが次の瞬間、視界の端をもう一人がすり抜けた。
「なっ、速い!?」
幻影と実体を見分けられず、カイルの動きが鈍る。
アランは一気に距離を詰め、掌に光を集中させた。
(――今だ!)
「《ホーリーランス》!」
閃光が弾け、純白の光槍が一直線に奔る。
光が大地を裂き、爆ぜる衝撃がカイルを包み込んだ。
「うわっ――!」
杖が弾き飛ばされ、カイルは尻もちをついて動けなくなる。
審判役が慌てて声を張り上げた。
「――勝者、アラン・ルクレディア!」
歓声とざわめきの中、アランは肩で息をしながら拳を握った。
(……やった。ダンジョンで得た力は、本物だ。俺は――もう、“凡庸”じゃない)
観覧席に注がれる視線は、もはや冷笑だけではなかった。
驚き、そしてほんの少しの期待がそこに混じっていた。




