第187話:暴走する脈動
――ゴォォォォ……
音が、地面の奥から響いていた。
振動ではない。
“流れ”そのものが、唸っている。
「……来る」
アランの声は低く、確信していた。
リリアも同時に感じていた。
さっきとは比べ物にならない。
魔脈が――膨張している。
「これ……さっきのじゃない」
「レベルが違う」
ガルドが肩を回す。
「そりゃそうだ」
「誰かが“出力上げやがった”」
その言葉と同時に。
――ドンッ!!
地面が跳ねた。
「っ!!」
三人の足元が浮く。
次の瞬間。
岩盤が、割れた。
「うそ……!」
リリアが息を呑む。
亀裂が走る。
さっき止めたはずのラインを、なぞるように。
いや――
上書きするように。
さらに深く。
さらに広く。
「止まってない……!」
アランが歯を食いしばる。
「さっきのは、抑えただけだ」
「根本が動いてる」
――ゴォンッ!!
今度は横から衝撃。
斜面が崩れる。
巨大な岩が滑り落ちる。
「リリア!!」
「分かってる!!」
風が巻き上がる。
リリアは即座に流れを読む。
ただ避けるのではない。
崩れの“方向”を変える。
「流して……!」
風を斜めに重ねる。
岩の軌道が、わずかに逸れる。
二人の横をかすめて落ちた。
「はぁ……っ」
だが。
次が来る。
――ドドドドド……
連鎖。
一箇所ではない。
山全体が、崩れ始めている。
「くそ……範囲が広すぎる」
アランが地面を見る。
流れが、見える。
乱れではない。
“強制的に揃えられている流れ”が、一斉に反発している。
(これ……)
理解する。
「……引っ張られてる」
リリアが同時に呟く。
「中心がある」
二人の声が重なる。
ガルドがニヤリと笑う。
「いいねえ。見えてきたか」
「どこだ?」
アランが即座に問う。
ガルドは山の奥を顎で示す。
「中腹より上だ」
「“調整の核”がある」
その言葉。
リリアの目が鋭くなる。
「そこ、壊せば止まる?」
ガルドは少しだけ考える。
「止まるか、全部吹っ飛ぶかだな」
「……最悪じゃない」
リリアが小さく吐き捨てる。
そのとき。
――ビキィッ!!
足元が裂けた。
「っ!!」
地面が、崩落する。
三人の立っていた場所が、そのまま落ちる。
「跳べ!!」
ガルドが叫ぶ。
アランが踏み込み、光が足元で弾ける。
身体が、空中へ跳ね上がる。
リリアも風で軌道を作る。
二人が同時に着地する。
しかし、その先は――もう地面ではなかった。
「……谷になってる」
リリアが呆然と呟く。
さっきまで平地だった場所が。
完全に崩れ、裂けている。
深い。
底が見えない。
「……これ、山が割れてる」
アランの声が低くなる。
――ズゥゥゥン……
奥で何かが、持ち上がった。
「……なに、あれ」
リリアが目を見開く。
地面の奥から光の柱が、ゆっくりと立ち上がる。
それは、アランの光とは違う。
冷たい。
均一な人工的な光。
「……当たりだ」
ガルドが笑う。
「あれが“核”だ」
光は、脈動している。
周囲の魔脈を引き込み、揃え、押し出している。
そのたびに――
山が、悲鳴を上げる。
「……止めるぞ」
アランが前を見据える。
迷いはなかった。
リリアが隣に並ぶ。
「うん」
短い返事。
だが、覚悟は同じ。
そのとき、小さな音がした。
三人が同時に振り向く。
岩の上にいつの間にか――人影があった。
黒い装束。
顔は覆われている。
「……対象確認」
機械的な声。
「光属性反応、強」
「風属性、補助個体」
リリアの背筋が凍る。
「……なに、あれ」
ガルドが、肩を鳴らした。
「来たか」
少しだけ、楽しそうに。
「帝国の回収屋だ」
その一言で空気が、完全に変わった。
「対象を確保する」
「抵抗時、排除許可済」
その声と同時に三つの影が、動いた。
一瞬で距離が消える。
「――来る!!」
アランが叫ぶ。
山は崩れ続けている。
核は暴走している。
そして。
敵が、目の前に現れた。




