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最強だと思った光魔法ですが習得が難しいです! ~魔法至上の国でダンジョンに挑む公爵家の落ちこぼれ~  作者: 空木 輝斗


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第182話:風は揺らぎを知る

帝都ルメニア。


朝。


学院の中庭は、いつも通り賑わっていた。


訓練場では魔法の音が響き、講義棟からは生徒たちのざわめきが漏れている。


その喧騒の中で。


リリアだけが、どこか浮いていた。


「……はぁ」


軽く息をつく。


手元の魔導書は開かれたまま。


だが、視線はそこにない。


ぼんやりと、中庭の中央を見ている。


(……遅い)


誰に言うでもなく、心の中で呟く。


アランがいなくなって、数日。


最初は、ただの任務か何かだと思っていた。


連絡がないことも、珍しくはない。


(……さすがに、長い)


違和感がある。


理由は分からない。


胸の奥がざわつく。


「リリア、聞いてる?」


隣から声がかかる。


同級生の一人だ。


「あ……ごめん、何?」


「いや、だからさ、次の実習の班分け――」


途中で言葉が止まる。


リリアの表情を見て、少し首を傾げた。


「……大丈夫?」


「え?」


「なんか、上の空じゃない?」


リリアは一瞬だけ言葉に詰まり、すぐに笑顔を作る。


「そんなことないよ」


「ちょっと寝不足なだけ」


軽く流す。


自分でも分かっている。


誤魔化せていない。


(……なんでだろ)


こんなこと、今までなかった。


任務で誰かがいなくなることも。


危険な場所に行くことも。


珍しくない。


それでも。


(……落ち着かない)


理由が分からない。


だから余計に、不安になる。


リリアは視線を逸らすように立ち上がった。


「ごめん、ちょっと外の空気吸ってくるね」


「え? 今から授業――」


返事を待たずに、その場を離れる。


足は自然と、中庭の外へ向かっていた。


学院の裏手。


人の少ない通路。


石畳の道。


その先に、小さな庭園がある。


リリアはそこに入った。


静かだ。


さっきまでの喧騒が嘘のように消える。


風が、木々を揺らしている。


「……」


リリアは、ゆっくりと目を閉じた。


深呼吸する。


冷たい空気が肺に入る。


少しだけ、落ち着く。


(……大丈夫)


そう思おうとする。


そのとき。


――ざわり。


何かが、触れた。


「……え?」


目を開ける。


何もない。


庭はいつも通り。


木。


石。


風。


(今の……なに?)


気のせいかと思う。


もう一度。


――ざわり。


今度は、はっきりと感じた。


足元。


地面の奥。


何かが、流れている。


「……なに、これ」


リリアは、思わずその場にしゃがみ込んだ。


手を地面に近づける。


触れてはいない。


だけど、分かる。


流れ。


揺らぎ。


一定ではない、微妙なズレ。


(魔力……?)


違う。


知っている魔力とは、質が違う。


もっと広く。


もっと深い。


そして。


どこか“乱れている”。


リリアの眉が、わずかに寄る。


「……これ、変だ」


自然な流れではない。


一部だけ、歪んでいる。


引っかかるような感覚。


(なんで、こんなの……)


その瞬間。


ふと、思い出す。


灰哭の森。


あのとき、光と風が、重なった。


偶然だと思っていた。


(……違う?)


リリアは、ゆっくりと手をかざす。


風が、指先に集まる。


いつもの風魔法。


今日は、少し違う。


風の動きが――見える。


流れが、分かる。


そして。


その奥にある“何か”に、触れられそうな気がする。


「……やってみる」


小さく呟く。


風を、強くしない。


むしろ、弱める。


細く。


繊細に。


流れを壊さないように。


そのまま。


地面の奥の“揺らぎ”に、そっと重ねる。


瞬間。


――ぴたり。


乱れが、止まった。


「……え?」


リリアは息を呑む。


ほんの一瞬。


確かに。


流れが整った。


(今……私、何したの?)


理解が追いつかない。


ただ一つ分かるのは。


“触れた”。


そして。


“整えた”。


そのとき。


不意に、胸の奥が強くざわついた。


「……アラン」


名前が、自然に口から出る。


理由は分からない。


今、確信した。


(あの人……今、どこにいるの?)


遠く。


どこかで。


同じ“何か”に触れている。


そんな感覚が、はっきりとあった。


リリアは立ち上がる。


風が、強く吹いた。


木々がざわめく。


「……絶対、何かあったよね」


声は小さい。


だが、はっきりしていた。


不安。


そして。


確信。


「……探さないと」


リリアの目が、わずかに鋭くなる。


それは、ただの優秀な魔導士のものではなかった。


まだ無自覚なまま。


だが確実に。


“調律者”の目だった。


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