第158話:第五層 断ち切る者
第四層の均衡が破れた瞬間、
中央の円環が裂けた。
赤黒い光が噴き上がる。
第五層。
魔脈断層。
足元の地面は巨大な亀裂に覆われ、
その下を帝都魔脈が奔流のように流れている。
だが光は濁っている。
軍禁術の痕跡。
外部から強制接続された証。
第五層は崩壊寸前だった。
亀裂の下を流れる帝都魔脈は濁り、
断続的に落ちる軍の砲撃がそれを刺激する。
白熱した光柱が落ちるたび、
濁流が暴れ、闇と混ざる。
そして。
それは完全に形を取った。
巨大な竜型構造体。
軍禁術の圧縮魔力を喰らい、
闇歪みを外殻に纏う異形。
咆哮。
その視線は――
上空の魔導陣へ。
次の砲撃準備の魔力集束点へ向けられている。
「いいね」
闇の少年が低く笑う。
第五層の縁に立ち、魔脈を見下ろしている。
「自分を撃つ光に向かうなんて」
竜が翼を広げる。
跳躍体勢。
「戦争は、こうでなきゃ」
「させるか!」
アランが地を蹴る。
《ホーリードライブ》。
光が身体を包む。
出力は最大。
竜が跳ぶ。
上空へ。
軍砲撃の直撃軌道へ。
その進路に、アランが割り込む。
「止まれ!」
《ルミナエッジ》。
前脚へ斬撃。
火花が散る。
だが止まらない。
竜の質量は重い。
軍禁術と魔脈が混ざった塊。
尾が振り下ろされる。
衝撃。
アランは吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられ、血が滲む。
少年が笑う。
「止められないよ」
「これは君の光じゃ足りない」
竜が再び跳躍。
軍の第二波が準備される。
魔導陣が膨れ上がる。
アランは立ち上がる。
肩の傷が裂ける。
だが槍を握る手は震えない。
(壊すな)
(分けろ)
《ホーリー・ディバイド》。
極細の光線が走る。
竜の胴体を縦に裂く。
だが。
完全には分断できない。
軍禁術の魔力が接着している。
「足りない」
少年が言う。
「君は、まだ足りない」
上空から第三波。
今度は最大出力。
落ちれば第五層は完全崩壊。
都市へ逆流する。
その瞬間。
アランは槍を地面へ突き立てた。
《ルミナ・アクシス》。
縦光が魔脈断層を貫く。
竜の体内を通る。
魔力の流れが見える。
軍禁術の接合点。
闇歪みの核。
「そこだ」
アランは跳躍する。
竜の胸部へ。
魔導陣の光が落ちる直前。
「《ホーリー・ディバイド》!!」
今度は一点集中。
接合点のみを断つ。
光線が刺さる。
切断。
軍禁術の圧縮核が分離。
竜の構造が崩れる。
咆哮が途切れる。
上空の光柱が落ちる。
だが。
竜は進路を失い、魔脈へ落ちる。
爆発。
魔脈が暴れるが、断裂はしない。
衝撃が収まる。
竜は崩壊している。
軍の砲撃が止まる。
魔導陣が消える。
第五層に静寂が落ちる。
闇の少年は、じっと見ていた。
「……止めたか」
「戦争にはしない」
アランは息を荒げながら言う。
少年は首を傾げる。
「できると思ってるの?」
「できるかじゃない」
「やる」
少年の瞳が細くなる。
「君は、やっぱり面白い」
だが笑ってはいない。
第五層は崩壊を免れた。
魔脈はまだ濁っている。
だが都市は無事。
少年が一歩下がる。
「第六層で答えを出そう」
地面が裂ける。
闇の体系核へ続く道。
「そこでは、君の光は試される」
闇が収束する。
少年は消える。
アランは槍を握り直す。
第五層は終わった。
だがこれは前哨。
次は第六層。
闇の設計思想そのもの。




