第155話:第三層 選定の回廊
第二層の中央部。
闇の門が消えたあと、
床の紋様がゆっくりと回転し始めた。
黒い円環が開く。
地下へ続く螺旋階段。
アランは迷わなかった。
「行く」
槍を握り、降りる。
第三層に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
戦場の気配ではない。
静かすぎる。
長い回廊。
壁面に、淡く光る水晶。
一定間隔で並ぶ柱。
白と黒が交互に配置された床。
(……似ている)
アランの呼吸が止まる。
十歳。
選定の儀。
水晶。
ざわめき。
「……記憶の投影か」
前方の水晶が、光を帯びた。
映像が浮かぶ。
水晶に手を置く少年。
震える声。
『属性は闇。魔力量は半分以下』
空間そのものが再現している。
「精神干渉型か」
アランは《リカバー》を発動。
精神循環を安定させる。
だが――
床が歪んだ。
回廊の奥から黒い人影が現れる。
闇個体。
だが第二層とは違う。
人型。
儀式服を纏った形。
「……来るな」
アランが構えた瞬間、
複数の影が水晶から抜け出した。
左右から同時接近。
《ルーメン》。
閃光で視界を奪う。
だが影は止まらない。
幻覚ではない。
実体。
《ルミナエッジ》で正面を斬る。
光刃が闇を裂く。
だが裂けた部分が再結合する。
(精神揺さぶり+再構築……厄介だ)
回廊の奥から声が響く。
「君は、選ばれた側だ」
少年の声。
姿は見えない。
「僕は、違った」
水晶が一斉に発光する。
回廊が分岐する。
幻影のアランが、何人も現れる。
過去の自分。
幼い自分。
無力だった姿。
「資格って、何だろうね」
黒刃が降る。
アランは《ミラージュ》。
残像を散らす。
本体は滑り込み、槍を振る。
《バッシュ》。
衝撃波で複数体を吹き飛ばす。
だが影は止まらない。
回廊全体が“審査場”になっている。
選ばれた者。
選ばれなかった者。
両方の記憶が交錯する。
「帝国は選ぶ」
声が近づく。
「選ばれなかった側は、消える」
天井が開く。
巨大な闇個体が降り立つ。
水晶を背負った異形。
選定の象徴を歪めた存在。
統率個体級。
アランは息を吐く。
「……なら、ここはお前の答えか」
《ホーリードライブ》。
光を纏う。
強化。
踏み込み。
巨大個体が腕を振るう。
衝撃。
床が砕ける。
《ルミナ・シェル》。
光膜が受け流す。
だが衝撃は重い。
背後の水晶が割れる。
割れた瞬間、回廊が揺らぐ。
(構造核は水晶群か)
アランは跳躍。
空中で《ホーリーランス》。
水晶背部へ撃ち込む。
命中。
だが完全には砕けない。
闇が包み込む。
少年の声が近い。
「君は、僕を壊す?」
アランは着地。
目を閉じる。
一瞬だけ。
(壊すんじゃない)
槍を床に突き立てる。
「《ルミナ・アクシス》」
縦光が回廊を貫く。
水晶群が共鳴する。
闇と光の位相がぶつかる。
巨大個体が動きを止める。
だが次の瞬間。
黒い紋様が床に浮かぶ。
「……そう」
少年の声が、はっきり背後から聞こえた。
振り返る。
回廊中央。
少年が立っている。
今回は霧越しではない。
はっきりと。
「ここは、僕の記憶だ」
その瞬間。
巨大個体が爆ぜる。
破壊ではない。
再構築。
回廊全体が変形する。
戦闘フィールドへ。
「第三層は、審査じゃない」
少年が一歩踏み出す。
「選び直しだ」
闇が凝縮する。




