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第15話:第四層 灰哭兵(はいこくへい)戦

石段を下りきると、視界が急に開けた。

そこは他の階層とはまるで違う、吹き抜けのように広い大広間。


灰に覆われた石床がどこまでも続き、天井は闇に溶けて見えない。

風が壁にぶつかって反響し、呻きのような音が幾重にも重なって響いていた。


「……広すぎるだろ。絶対なんか出るやつじゃん……」


その予感は、すぐに現実となった。


灰に覆われた鎧、欠けた剣や槍を手にした兵士たち――。

壁際の影から、ぞろぞろと現れる。

その数、五体。鎧の継ぎ目から灰がこぼれ落ち、動くたびに金属の軋む音が哭き声のように響いた。


(やっば……! こいつら、スケルトンより重装備だし……しかも数が多い!)


灰哭兵たちは声を上げることなく、同時に武器を構えた。

そして次の瞬間、一斉に襲いかかってくる。


「――っ!」


槍で受け止めた瞬間、肩が軋むほどの衝撃。

一体の攻撃を受けるだけで精一杯なのに、二体目、三体目が左右から迫ってくる。


(ダメだ、このままじゃ押し潰される!)


《ルーメン》を放ち、光で目をくらませる。

一瞬ひるんだ兵の隙に《バッシュ》で吹き飛ばす――が、すぐに別の兵が背後を取る。


「くそっ……数が多すぎる!」


槍を振るいながら、じりじりと後退する。

背中が冷たい石壁に触れ、退路が完全に断たれた。


(このままじゃ……やられる!)


喉が焼けるほど乾き、胸の奥の魔力が限界を訴えていた。

その瞬間、アランは懐から一本の瓶を引き抜く。


「……ここで切るしかねぇ!」


赤く輝く魔力ポーション。

本来ならボス戦まで温存すべき切り札。

だが、今はもう迷っている余裕などなかった。


震える手で栓を抜き、一気に喉へ流し込む。

途端に、胸の奥から冷たい力が噴き出すように満ちあふれ、全身を駆け巡った。


同時に――頭の奥で、何かが閃いた。

揺らめく光、影が形を変え、もう一人の自分が立つイメージ。


「……これって……!」


反射的に叫ぶ。

「――《ミラージュ》!」


ローブの裾がひらめき、淡い光が俺の姿をなぞった。

次の瞬間、通路に二人、三人の“アラン”が立つ。


灰哭兵たちの動きが一瞬止まり、次の瞬間、それぞれ幻影に武器を叩きつけた。

金属音が虚しく響き、幻影は霧のように揺らめいて消える。


(よし……惑わされた! 今だ!)


本物の俺は影に紛れて動き、背後に回り込む。

《ルーメン》で光を閃かせ、《バッシュ》を槍に通して突き出す。

灰哭兵の胸を貫いた瞬間、灰の装甲が爆ぜるように砕け、崩れ落ちた。


「一体……突破!」


幻影と光に翻弄され、残りの兵たちは互いに空を斬りつけ、陣形を崩す。

そこを一体ずつ突き崩し、最後の兵の鎧が粉砕されると、大広間に再び静寂が訪れた。


息を荒げ、壁にもたれかかる。

胸の奥で光がまだ淡く瞬いていた。


(……今の魔法、《ミラージュ》。俺の幻を作って敵を惑わせる……これなら数を相手にしても戦える!)

汗をぬぐい、槍を握り直す。

次は最下層。ここを抜ければ、いよいよボスが待っている。


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