第149話:崩れる秩序
帝都ルメニア・南東区画。
夜空が、裂けている。
《大環》の光はまだ保っているが、明らかに不安定だ。
石畳の上に、黒い紋様が広がる。
それは侵食ではない。
構築。
街路の交差点が、ゆっくりと円形の空間へ変形していく。
都市の中に、層構造が生まれる。
「市民を後退させろ!」
魔導士団が結界を展開する。
だが闇は、彼らを襲わない。
ただ、形を変える。
建物の壁が、黒い柱に転写される。
窓が、観測孔へ変わる。
通りが、回廊になる。
都市が――
ダンジョンへ再構成される。
北部戦場。
アランは、歯を食いしばる。
「帝都に戻る」
少年は止めない。
ただ言う。
「見てくるといい」
「君の帝国が、どう戦うか」
挑発ではない。
確信だ。
アランは、《ホーリードライブ》を発動。
光を纏い、都市へ向けて駆ける。
リリアが風魔法を使って並ぶ。
「単独は無理よ」
「分かってる」
背後では軍が混乱している。
将官が叫ぶ。
「ルクレディアを拘束しろ!」
だが間に合わない。
光は、既に戦場を離れていた。
帝都南東区画。
アランが到着した瞬間、肌が粟立つ。
魔力が“整理されていない”。
だが、暴走もしていない。
「これは……」
リリアが息を呑む。
「構造が自律してる」
都市内に、第一層が形成されている。
敵性個体が現れる。
闇の戦闘用個体。
だが北部とは違う。
都市地形を利用する。
屋根から跳ぶ。
壁を走る。
「市街戦だ!」
アランが叫ぶ。
《ルーメン》を拡散。
索敵。
霧が揺れる。
複数。
《ライトヴェイル》を展開。
瘴気遮断。
黒刃が飛ぶ。
《ルミナ・シェル》。
受け流す。
衝撃が腕に響く。
「強いわよ!」
「分かってる!」
《ミラージュ》。
残像が散る。
敵が撹乱される。
《バッシュ》。
隊列崩し。
敵個体が砕ける。
だが。
倒したはずの闇が、地面へ溶ける。
再構築。
「再生速度が上がってる!」
リリアが風を重ねる。
《ルミナ・リゾナンス》。
共鳴場が形成される。
局所の構造が、わずかに鈍る。
「今よ!」
《ルミナエッジ》。
斬撃。
ようやく消える。
だが。
空気が変わる。
圧が、下がる。
そして。
広場中央。
黒い影が立つ。
闇の少年。
今度は距離が近い。
都市の中。
帝都の光を背に。
「ようこそ」
静かな声。
「帝国の中心へ」
アランが、槍を構える。
「やめろ」
「止められるなら」
少年の足元で、紋様が展開する。
都市構造が、一段階深くなる。
第二層、形成開始。
「これは破壊じゃない」
少年は言う。
「“対等”だ」
「帝国の中心に、闇の層を作る」
「それだけで、証明になる」
背後で、軍が到着する。
魔導砲が展開される。
「撃つな!」
アランが叫ぶ。
だが将官は冷たい。
「撃て」
光弾が飛ぶ。
少年は、微笑む。
今度は吸収しない。
光を、逸らす。
弾道が変わる。
魔導砲が、味方陣地をかすめる。
混乱。
悲鳴。
「ほら」
少年が、静かに言う。
「秩序は、自分で壊れる」
アランの瞳が鋭くなる。
光が、強く震える。
都市が揺れる。
帝国は、自国で戦っている。
戦争は、完全に始まった。




