第148話:帝都崩落域
帝都ルメニア。
夜空を横切っていた《大環》の光が、不規則に明滅する。
次の瞬間。
南東区画の魔力導管が破裂した。
爆ぜる青白い閃光。
街灯が一斉に消える。
「魔導街灯、停止!」
「導管圧、異常上昇!」
中央魔晶塔の制御室は、怒号で満ちていた。
「逆流、止まりません!」
「魔脈核、接続率六十二%!」
将官の顔色が変わる。
「遮断しろ!」
「遮断弁が反応しない!」
魔脈は、もはや軍の制御下にない。
戦場の闇構造体が、帝都の魔力を“読んでいる”。
そして、書き換えている。
南東区画。
空間が歪む。
舗装された石畳が、黒く染まる。
導管から漏れた魔力が、闇の紋様へと再構築されていく。
市民の悲鳴。
「避難!避難だ!」
帝国魔導士団が結界を展開する。
だが。
闇は、攻撃しない。
ただ、構造を組み上げていく。
建物と建物の間に、黒い柱が立ち上がる。
“都市内ダンジョン”。
軍が、息を呑む。
「帝都内に、第二構造体出現!」
将官が叫ぶ。
「全軍、帝都防衛へ転進!」
だが、その瞬間。
北部戦場。
闇の少年は、静かに言った。
「遅いよ」
霧が、収束する。
北部の構造体は崩れない。
維持される。
同時に、帝都内部に“転写”される。
三地点の構造が、連結する。
帝都そのものが、網の目のように侵食される。
北部戦場。
アランが、少年を睨む。
「帝都を巻き込むな」
少年の瞳は、揺れない。
「巻き込んだのは、帝国だ」
遠方で爆発音。
帝都の光が、一部消える。
「魔脈を兵器にした」
「それを使って、僕を消そうとした」
少年の声は、静かだ。
怒鳴らない。
「なら、使わせてもらう」
アランの槍が、強く震える。
光は、帝都の乱流を感じ取っている。
《ルミナ・リゾナンス》。
発動。
光と風が共鳴し、局地の魔力を安定化させる。
少年の目が、わずかに細まる。
「都市規模でやる気?」
「やる」
即答。
「止める。全部」
闇の紋様が、再び動く。
今度は明確な攻撃意思を持って。
地面から、黒刃が噴き出す。
アランが跳躍。
《ルミナエッジ》。
刃が交差する。
衝撃波。
霧が裂ける。
だが、その裏で。
帝都南東区画。
軍の一部が独断で魔導砲を展開する。
「市街地内だぞ!」
「構造体が形成中だ!」
「撃て!」
光弾が放たれる。
建物が崩れる。
市民の悲鳴が、夜を裂く。
その瞬間。
闇の少年が、笑った。
「ほら」
「これが帝国だ」
アランの顔色が変わる。
次の瞬間。
北部戦場の闇構造が、都市側へ出力を送る。
“報復”ではない。
“証明”だ。
軍の魔力攻撃が、都市内部の闇構造を強化する。
制御不能。
将官が、歯を食いしばる。
「撤退だ!」
だが、もう遅い。
帝都の一角が、完全に“管理外領域”へ変わる。
都市内ダンジョン。
光と闇が交差する、戦場。
アランは、槍を強く握る。
「これ以上は許さない」
少年が、静かに言う。
「じゃあ、止めてみせて」
背後で、帝都が揺れる。
これはもう、局地戦ではない。
戦争は、帝都に入った。
そして――
帝国は、自分の都市で戦うことになる。




