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第14話:第三層 哭き亡者(なきもうじゃ)戦

灰狼のリーダー格を倒したあと、さらに進んだ通路の先――不自然に石壁が崩れてできた小部屋に足を踏み入れる。

そこには中央に古びた木箱が置かれていた。


蓋を開けると、中には 赤色に輝く液体の小瓶と、淡い緑光を放つ魔法石。


「……赤の魔力ポーション!? やっと出会えた……!」


手が思わず瓶に伸びる。だが直後に歯を食いしばり、ぐっと押しとどめた。

(……いや、これは切り札だ。今ここで使うわけにはいかない)


代わりに腰の袋から支給された魔力ポーションを取り出し、栓を抜いて一気に喉へ流し込む。

冷たい液体が体の奥へ広がり、少しだが魔力が戻っていくのを感じた。


「はぁ……助かった……」


しかし、戦闘で刻まれた切り傷などの痛みがまだ残っていた。

アランは短く息を吐き、掌に魔力を込める。


「――《ミニキュア》」


白い光が傷をなぞり、じわりと皮膚が再生していく。

痛みが引くたびに、緊張で強張っていた肩の力が少しずつ抜けていった。


残ったもう一つのアイテム――緑の魔法石に手を伸ばす。

指先で光に触れた瞬間、頭の奥に“幻の像”のようなイメージが閃いた。

揺らめく蜃気楼、敵の姿をかき乱す影。


(……これは? 新しい魔法……? いや、まだうまく掴めねぇけど――)


《ミラージュ》の片鱗が心に刻まれ、次の戦いへの伏線を残した。


灰哭のダンジョン、第3層。

通路を抜けた先は、広々とした墓所のような空間だった。


壁際には崩れかけた石棺や墓標の残骸が並び、天井の裂け目からは灰色の砂がさらさらと降り落ちている。

空気は一層冷たく、ひゅぅぅ……という哭き声のような風に混じって、低くくぐもった呻き声が響いていた。


「……っ、誰か……いる……?」


声を漏らした瞬間、墓石の影から現れた。

朽ちたローブをまとった人影。

顔は影に沈んで判別できないが、肩を揺らしながら呻き続けている。


「う、うああああ……」


――哭き亡者。


その呻き声は空気を震わせ、耳の奥に直接突き刺さるように響いた。


「ぐっ……頭が……!」


心臓が早鐘を打ち、膝が勝手に折れ曲がる。

恐怖の魔力。低級とはいえ、精神を直接揺さぶる呪いだ。


(だ、駄目だ……動けねぇ……! 落ち着け……! 何か、何か方法が……!)


その瞬間、頭の奥に“光の膜”のイメージが閃いた。

外から押し寄せる闇を押し返す、薄い透明な壁。


「……これだ! ――《リカバー》!」


ローブの袖から、柔らかな光が溢れ出す。

それは半透明の壁となってアランを包み込み、呻き声の圧力を弾き返した。


「……はぁっ、はぁっ……っ、効いた……!」


光の結界の中にいると、頭の中をかき乱す声が次第に遠のいていく。

足に力が戻り、槍を構え直すことができた。


哭き亡者が、よろめくように手を伸ばして迫ってくる。

その動きは鈍いが、呻き声が途切れない。


「もう、効かねぇぞ……!」


アランは突き出した。

槍の穂先に光を集め、一閃――骸骨のように痩せ細った胸を貫く。


「う……うあぁぁぁぁ……!」


哭き声が最後の悲鳴に変わり、やがてローブごと灰に崩れ落ちた。


しん、と墓所が静まり返る。

残ったのは、まだ光を帯びている結界のぬくもり。


(……守る力、か。《リカバー》。これなら……精神攻撃にも負けねぇ)


新しい力を手に入れた実感が、胸に広がっていった。



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