第13話:第二層 灰狼(はいろう)戦
第二層の通路を歩いていると空気が変わった。
湿った石の匂いに、獣の生臭い息が混ざる。
「……っ、いるな」
耳を澄ませば、低い唸り声がひゅぅぅ……と哭く風と混ざり、反響している。
煤けた灰色の毛並み、ぎらりと光る眼。闇の奥から狼が姿を現した。
一匹、二匹……さらに影が一つ。
(三匹……群れかよ!)
灰狼たちは散開し、息を合わせてじりじりと距離を詰めてくる。
速さと連携――まともにやれば食い裂かれる。
「試すしかねぇ……《バッシュ》!」
掌を突き出すと、ぱんっと衝撃波が炸裂。
先頭の一匹がよろめき、壁に爪を立てて体勢を崩す。
(効くけど……散るな。威力が分散してる!)
次の瞬間、残り二匹が左右から同時に飛びかかってきた。
俺は咄嗟に槍を横に薙ぎ、《ルーメン》を灯す。
閃光が狭い通路を駆け抜け、灰狼たちの目が一瞬くらりと揺れた。
「――今だっ!」
槍に魔力を叩き込み、《バッシュ》を穂先へ集中。
ズドンッ! 衝撃波が狼の胸を直撃し、光と爆ぜる力に吹き飛ばされた。
壁へ叩きつけられ、呻き声をあげたまま崩れ落ちる。
(……今の《バッシュ》、手でも撃てるけど、槍を通すと全然違う!
光と衝撃、二つを槍に集められる……これが俺の戦い方だ!)
二匹目を突き伏せると、残る一匹が唸り声を上げた。
だが、そいつは先の二匹よりも動きが鋭い。
一瞬で距離を詰め、牙が目の前に迫った。
「くっ――!」
槍で受け止める。
ガキィン! 火花が散り、腕に痺れるほどの衝撃。
狼は力任せに押し込み、すぐさま跳び退いて死角から回り込もうとする。
(群れのリーダー格……! こいつだけは一筋縄じゃいかねぇ!)
背筋を冷や汗が伝う。
それでも俺は深呼吸し、槍を再び構えた。
灰狼のリーダー格は、唸り声を低く響かせ、ぐるりと円を描くように俺の周りを回った。
通路は少し広くなっているとはいえ、逃げ場はほとんどない。
じりじりと追い詰められ、背中が石壁に当たった。
(……やべぇ、詰まった!)
牙が閃き、目の前に灰狼が飛び込んできた。
俺はとっさに槍を立てる。
「《ルーメン》!」
穂先が閃光を放ち、狼の動きが一瞬止まる。
その刹那――。
「《バッシュ》!!」
光をまとった衝撃波を槍先から叩き込む。
閃光と衝撃が重なり合い、爆ぜるような衝撃音が狭い空間を満たした。
灰狼の胸が白く光り、全身が硬直する。
次の瞬間――轟音とともに吹き飛び、石壁に激突した。
「ガウッ……!」
最後のうめき声を残し、狼は崩れ落ちる。
煤けた灰色の毛並みがゆっくりと散り、灰となって風にさらわれた。
「……っはぁ、はぁ……」
肩で息をしながら槍を支え、俺はその場に膝をついた。
残っていた二匹の灰も消え、通路には再び哭く風の音だけが響いている。
(ルーメンで目を潰して……バッシュで撃ち抜く。
これだ、これなら……群れ相手でも戦える!)
胸に下げた帰光石が小さく揺れ、冷たさが意識を引き戻した。
俺はぐっと立ち上がり、槍を握り直した。
(まだ第二層……ここからだ。俺の戦いは)




