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第12話:第一層 スケルトン戦

ダンジョンの入口をくぐった瞬間、空気ががらりと変わった。


灰色の石壁はざらつき、長い年月の湿り気を吸い込んで黒ずんでいる。

通路の幅は、人ひとりがようやく通れるか、少し広い場所でも二人並べるのが精一杯。

頭上からは冷たい雫が、ぽたり、ぽたりと音を立てて落ちていた。


「……うっわ、じめじめしてやがる」


足音が石畳にこだまし、狭い通路に不気味な反響を残す。

だが――それ以上に耳を刺すのは、奥から吹き抜けてくる風の音だった。


ひゅぅぅ……ざわ……


すすり泣きとも、呻きともつかぬ声が耳の奥を撫でる。

肌にぞわりと鳥肌が立ち、思わず唾を飲み込んだ。


(……これが“哭くように鳴る風”ってやつか)


胸に下げた帰光石が、氷のように冷たさを主張している気がする。

背後を振り返れば、入口はすでに閉ざされ、外の監査役たちの気配は一切感じられない。

完全な孤独。助けは来ない。


「よし……やるしかねぇな」


ローブの袖を握り直し、槍を構える。

石壁に反射する淡い光がゆらぎ、通路は闇の奥へ奥へと続いていた。


そして――。


通路の途中、壁に寄りかかるようにして沈黙していた影が、カタカタと音を立てて立ち上がる。

灰色に変色した骨。握られているのは、錆びついた短剣。

空洞の眼窩が、じっとこちらを見据えた。


「……スケルトン、かよ」


骨同士が擦れるたび、ギリギリと哭き声のような音が響く。

初めての“人型”との戦い――心理的な圧迫感が、何よりも重くのしかかった。


槍の先端をコンと床に突き、気持ちを引き締める。

(最初の一体……ここで怯んだら終わりだ)


骸骨が、ぎしぎしと剣を振り下ろす。

ギィン! 火花とともに槍が衝撃を受け、強く握った掌に痛みが走った。

痛みに顔を歪めながらも、俺は必死に押し返して距離を取る。


「――《ルーメン》!」


槍の穂先に光が宿り、狭い通路を照らし出す。

その瞬間、スケルトンの胸骨の内側に、淡くゆらぐ光が“ぼんやり”浮かび上がった。


(……核? いや、魔力が集中してる場所か……!)


だが、霧に包まれた灯火のように不確かで、位置も揺らめいている。

的確に突き刺さなければ、すぐに掻き消えてしまう。


「狙うは……そこだっ!」


息を止め、一気に槍を突き出す。

光を帯びた穂先が胸をかすめた瞬間、骸骨はビキンと震え、骨が不自然に軋んだ。


(効いてる! けど――まだ足りねぇ!)


畳みかけるように二度、三度と突き込む。

やがて穂先が光の中心を正確に貫いた瞬間、骸骨は乾いた音を立ててばらばらに崩れ落ちた。


通路がしんと静まり返る。

砕けた骨は灰に混じり、哭く風にさらわれて消えていった。


「……ふぅ、なんとかなった……」


だが、その安堵の直後。

奥の闇から、カタカタ……ギシギシ……と複数の骨が鳴る音が重なって響いてきた。


二体、三体。

通路を抜けた先の広間で、灰色の骸骨たちがゆっくりと立ち上がっていた。


(お、おいおい……人型でこれ以上はマジ勘弁……!

 でも――やるしかねぇ!!)


槍を構え直し、俺は再び光を込めた。


三体のスケルトンは、じりじりと取り囲んでくる。

剣や盾を構える骨の姿が三つ、哭く風の中でゆらゆら揺れていた。


「くそ……! 一度に三体なんて、数が多すぎる!」


必死に槍を振るうが、すぐに左右から回り込まれる。

後退しながら足を運ぶと、背中が広間の石壁にぶつかった。


(……逃げ場なし、か!)


盾で押し込まれ、剣が頬をかすめる。熱い血が伝い落ち、息が詰まりそうになる。


「――《ルーメン》!」


槍先が強く輝き、骸骨たちの眼窩の光がぐらりと揺れた。

その隙に、一体の胸を貫き、白い閃光とともに粉砕する。


「残り二体!」


だがすぐにもう一体が迫り、剣を振り下ろす。

必死に防ぎながら、頭の奥にふっと別の“言葉”が浮かんだ。


――《バッシュ》。


(な、なんだこれ……!? でも――試すしかねぇ!)


「――《バッシュ》!」


叫んだ瞬間、槍の穂先から衝撃波の塊が弾け飛ぶ。

二体のスケルトンがまとめて吹き飛び、床に叩きつけられた。

骨が砕け散り、ばらばらと灰に崩れていく。


……しん、と静寂が戻る。哭く風だけが広間を満たしていた。


「……はぁ、はぁ……やった……! でも、今のは……新しい魔法?」


槍を支えに荒い息を吐きながら、アランは胸の鼓動を感じていた。

確かにさっき、頭に浮かんだ呪文が現実になった。


(《バッシュ》……これで、もう一つ戦える手が増えた……!)


震える掌を見つめ、再び槍を握り直す。

ダンジョンはまだ始まったばかりだ。


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