第110話:測定戦開始 光は、止めずに触れる
鐘の余韻が、演習場に溶けた。
結界が閉じる。
床の魔導陣が淡く光り、
空間そのものが「測定状態」へ移行する。
金髪の生徒が、即座に動いた。
「遠慮はしない。
これは応用課程だ。
結果がすべてだ」
雷属性の魔力が、一直線に収束する。
無駄がない。
詠唱短縮。
理論通りの最適解。
観覧席から、小さなどよめきが起きた。
「速い」
「完成度が高い」
雷光が、地面を走る。
アランは――動かない。
(来る)
避けない。
防がない。
相殺もしない。
その選択に、
教官の一人が眉をひそめる。
「……回避行動なし?」
次の瞬間。
雷撃が、アランの目前へ到達した。
だが――
止まった。
雷が弾かれたわけではない。
消されたのでもない。
ただ、
“進めなくなった”。
金髪の生徒が、目を見開く。
「……何だ、これ」
雷はそこに在る。
魔力も、術式も、完全なまま。
だが、
アランとの距離――
あと一歩分を越えられない。
アランは、初めて口を開いた。
「壊してない。
遮断もしてない」
一歩、前へ出る。
雷が、わずかに揺れる。
「君の魔法は、正しい。
完成度も高い。
だから――否定しない」
金髪の生徒が歯を食いしばる。
「だったら、なぜ届かない」
アランは、静かに答えた。
「“向かう理由”が、そこにないからだ」
観覧席が、ざわつく。
「理由?」
「魔法に、理由?」
アランは、雷に手を伸ばす。
触れない。
触れ“させる”。
その瞬間、
雷撃の軌道が――ずれた。
逸れたのではない。
曲げられたのでもない。
“選び直された”。
雷は、
アランを避け、
結界の床へと吸い込まれる。
床の魔導陣が、一瞬だけ強く発光した。
記録晶が、激しく回転する。
「魔力減衰なし」
「術式破損なし」
「対象変更……?」
教官の一人が、思わず声を漏らす。
「魔法の“向き”を……変えた?」
金髪の生徒が、声を荒げる。
「そんなの……聞いたことがない」
アランは、首を横に振った。
「変えてない。
選ばせただけだ」
「魔法は、ただの力じゃない。
意思の延長だ」
光導槍が、静かに鳴る。
抜かない。
構えない。
ただ、
“そこにある”。
「君は、俺を倒すために撃った。
でも、俺は――ここに立っている」
「それだけだ」
沈黙。
金髪の生徒は、
もう一度、魔力を練ろうとして――止まった。
(……通じない)
いや、違う。
(通じている。
でも、ぶつかれない)
教官が、低く告げる。
「……演習終了」
結界が、ゆっくりと解除される。
結果表示は、出ない。
勝敗欄は――空白。
だが、
記録晶には、
一行だけ、新しい項目が刻まれていた。
《干渉種別:選択誘導型》
教官たちが、言葉を失う。
「……光属性が?」
「いや……これは――」
リリアは、静かに息を吐いた。
「やっぱり。
光は……“答えを強制しない”」
演習場の中央で、
アランは、相手に一礼した。
金髪の生徒は、しばらく黙っていたが、
やがて、低く言った。
「……負けた気はしない。
でも――」
視線を上げる。
「もう一度、やりたい。
今度は、“理由”を持って」
アランは、頷いた。
「それでいい」
応用課程。
数値では測れない戦いが、
静かに――始まったばかりだった。




