第100話:名の授与 光は誰のものか
静寂は、まだ続いていた。
白銀の空洞の中央で、山核主は膝を折ったまま頭を上げない。
それは──降伏でも服従でもなく、
「次は、お前の答えだ」
その意思の沈黙だった。
アランは息を吸う。
胸の奥が、じわりと熱くなる。
(いつも俺は、導かれてきた)
氷の谷では、槍が道を示した。
砂漠では、灼熱が形を与えてくれた。
この山では、拒絶が境界を教えてくれた。
(でも──今回は違う)
槍は沈黙している。
導かず、拒まず、命じもしない。
“決めるのは、俺だ” と、ただ──委ねている。
アランは、ゆっくりと槍の柄へ触れた。
冷たくもなく、暖かくもない感触。
ただ、問いだけが返ってくる。
――お前は、壊す存在でいいのか。
――借り物の力で歩き続けるのか。
――それとも。
アランは、はっきりと胸の内で答えた。
(違う)
(俺は、“触れて選ぶ者”になりたい)
(誰かの力に導かれるだけじゃなく──自分の意思で)
その瞬間だった。
槍が、ゆっくりと浮かび上がる。
白銀の律が揺れ、アランの胸元へ吸い込まれるように寄ってくる。
“名を求める”感覚が、身体の中心に刺さる。
名とは、関係の証。
共に在ることを選んだ者同士の、結び目。
アランは穂先へそっと手を添えた。
声は震えない。
「──お前は、もう “壊す槍” じゃない」
静かに言葉が続く。
「触れて、導く。
俺と一緒に、“在る”ことを選ぶ槍だ」
白銀の光が脈動する。
“名を、与えよ”
その無言の願いが、確かに伝わってくる。
アランは息を吐き、言葉を紡いだ。
「お前の名は──《光導槍》」
その瞬間。
白銀の槍は、音もなく形を変えた。
穂先が細く伸び、中央には淡い金光の“律核”が宿る。
柄の内側には脈動する文様が生まれ、
槍の全体が“アランの鼓動と同調”する。
ただの武器ではない。
アランと、この地と、律が結ばれ──
新しい“在り方”が形になった。
山核主が、ゆっくりと頭を上げる。
その大きな影は、もう威圧ではなかった。
――承認。
その意味が、沈黙の奥にはっきりと宿っていた。
アランは槍を握りしめ、静かに呟く。
「ここからは……俺が決める」
外界では──
リリアが、揺らめく光に息を飲む。
「……あの槍、変わった」
ダリオが短く言う。
「名を与えた。
あの力は、もう“借り物”じゃない」
レオンハルトは目を閉じる。
「アランが──選んだんだ」
白銀の律は静かに落ち着き、
いよいよ次の瞬間が近づいていた。
――光導槍。
新たに名を得た槍と共に、
アランは、山核主の最奥へ歩み出す。
今度は導かれるためではない。
“選び返すため”に。




