第1話:第2の人生、最強(?)の光魔法スタート
そこは、何もない虚無の空間であった。
まどろみの中で徐々に意識が浮上していき、俺は目を覚ます。
「……う、ん? ここは……?」
低く威厳に満ちた男の声が虚空に響いた。
「お前は一度目の人生をすでに終えた。されど、再び命を与えてやろう」
記憶も曖昧で、過去の自分など思い出せなかった。
だが不思議と、その言葉をすんなり受け入れられる自分がいた。
「二度目の……人生?」
「そうだ。そして――お前に力を授けよう。この中から選ぶがよい」
声とともに、六つの光が浮かび上がる。
風、火、水、土、光、闇――。
「なるほど、これが属性ってやつか……」
俺はしばし考え、すぐに口を開いた。
「やっぱり光属性が最強でしょ!」
(だって、前世のゲームでも小説でも“光=最強”って相場は決まってたし! ラスボスには大体効くし、治癒もできて万能。これ選ばないやついないって!)
そう宣言した瞬間、燦然たる光が俺の身体へと流れ込み、視界が白く染まっていった――。
ルミノア帝国
魔法至上の国。すべては魔法によって序列が決まる国であり、貴族たちは十歳になると「選定の儀式」を受け、自らの属性と魔力量を知るのが慣わしだった。
その日、六大公爵家のひとつ、ルクレディア家の広大な屋敷では、まさにその儀式が執り行われようとしていた。
大広間
重厚な扉をくぐると、磨き抜かれた大理石の床に赤絨毯が真っすぐ延び、その先には玉座めいた豪華な椅子が据えられている。
そこに腰を下ろすのは、現当主ガルシア・ルクレディア。
鋭く撫でつけられたオールバックの髪に、見事な髭をたくわえ、ただ座っているだけで空気が圧されるような威厳を放っていた。
左右には十人の兄姉が並び、これから行われる儀式を見守っている。
控え室の椅子に腰掛けていたのは、今年十歳を迎えたひとりの少年――アラン。
彼の母は元はメイドで、当主に見初められて生まれた子だった。しかし、母は出産後すぐに病で命を落としたと聞かされている。
アラン自身も病弱で、たびたび倒れる体質だったが――そのとき、不意に激しい頭痛に襲われる。
「うっ……!」
視界が歪み、意識が混濁する。やがて、頭の中で幾つもの記憶が重なり合い、統合されていく感覚。
「……俺は、アラン……そうか。二度目の人生ってやつか。なるほど、理解した!」
なぜか状況を自然と受け入れ、しかも妙に前向き。
(よし、ここから俺の華麗なる人生が始まるんだな!)
やがて呼び出しの声がかかり、大広間へ。
中央には腰の高さほどの台座、その上に大粒の水晶が鎮座している。
「あれに触れることで、属性と魔力量が分かる……ってわけか。まあ、俺はもう決まってるけどな!」
重苦しい空気が流れる中、儀式は始まった。
アランを含め、同年代の少年は二人。
一人目が水晶に手を置く。
「属性は火。魔力量は規定値」
「当然だ!」
老執事が結果を読み上げると、少年は胸を張り、当主ガルシアが「よくぞ」と頷く。
(おお、これが父上か……さすが迫力あるな。んで、周りの美男美女が兄や姉ってやつか? くそ、顔面偏差値高ぇな……)
そんなことを考えているうちに、ついに自分の名が呼ばれた。
俺は胸を張って、水晶に触れた。
その瞬間、水晶がぼうっと淡く光る――いや、それだけではなかった。
一瞬、他の少年たちのときとは比べものにならないほど強く、眩いばかりの閃光が、水晶の内から弾けるように放たれた。
けれどそれは、一瞬の幻のように消え――
老執事も、兄姉たちも、誰ひとりとして気づいた様子はない。
……ただ、俺だけが、掌に残る熱のような何かに息を呑んでいた。
「属性は……光」
「光だと……?」
「また厄介なのが出たぞ」
周囲がどよめき、老執事が告げる。
「光属性は、六属性の中でも発現が少なく、潜在的には強力だと伝えられております。ですが……扱いが難しく、幼少のうちに魔力量が不足すれば――その輝きは、ただの灯火にすぎぬとされています」
さらに、老執事が続ける。
「魔力量……規定値の半分」
「……は?」
「終わったな」
「出来損ないか」
大広間に失笑と嘲笑が広がっていく。
(おいおいおい!? 最強じゃなかったのか!? よりによって“半分”って、俺の二度目の人生、開幕終了のお知らせなんだけど!?)
心臓が跳ね、冷や汗が背中を流れる。
だが、当主ガルシアは意外にも落ち着いた声を放った。
「まあよかろう。そのような者が一人くらいいてもよい。我が一族に迎えよう」
「は、ははっ! ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」
(あっぶねぇぇーーッ! セーフ、セーフだろ今の!)
笑い声や失笑が混じる中、とにかくその場を乗り切った俺は、寿命が十年は縮んだ気分だった。
やがて最後の一人が水晶に手を置く。
「属性は闇。魔力量は……半分以下」
再びざわめきが走る。少年は震えながらも必死に叫ぶ。
「ま、魔力はありませんが、闇は大変貴重な属性です! 必ずお役に――」
その言葉を遮るように、ガルシアの怒号が響き渡った。
「珍しいだけで価値があるか! 下がれ、このクズが!」
「そ、そんな……! た、助けてくれぇぇぇーーッ!」
屈強な従者たちに両脇を抱えられ、連れ去られる少年。
その光景を目の当たりにしながら、俺の心臓はバクバクと跳ね続けていた。
こうして、俺の「光属性」人生は、不安と笑い声に包まれながら幕を開けたのだった――。




