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魔法少女として現場に訪れる前にペンギンマンが問題解決してる件

作者: 宿木ミル

「キラリア、最近のニュースを知ってるかい?」

「なに? また変な噂?」


 私が活動している町。ゆったりと飛翔するパトロール。今日は人に害を為す魔物を追いかけている。

 私の隣で浮遊しているマスコットのワッサーが話しかけてくる。


「ほら、ペンギンが人を助けてるっていう噂」

「……疲れてるんじゃない?」


 兎っぽい見た目のマスコットキャラで可愛らしい部分が強いマスコットだけれども、どうにもワッサーは変な噂を拾いやすい。しかもその噂は嘘であることが多い。


「前だって魔法の余波でできちゃった魔力残滓を未確認生物だーっていってた噂に引っかかってたじゃない」

「こ、今回は目撃情報があるよ! 本当の話さ! この町でペンギンが人助けしたっていうのはさ!」

「残念、ペンギンがこんな暑い夏の日の、かつ内陸の町にいるわけありません」

「キラリアぁ」

「私は現実主義なのです。魔法は使うけど、私の目で見たものしか信じません」


 そうあしらって、トラブルが起こっている場所へと赴く。

 人の負の感情とかが集まって攻撃的になっている魔物が町で暴れているのだ。

 今回の魔物のサイズは成人男性くらい。町を粉砕するようなことはしてこないが、人を捕まえてネチネチと悪口を言うそれなりにたちの悪い魔物のようだ。

 私……魔法少女キラ・キラリアは光の魔法が得意な魔法少女だ。戦うのもまぁまぁ得意。適当にビームでも飛ばせば蒸発させられるだろう。

 そう思いながら現場に進んでいく。


「魔力反応あり! そろそろだよ! キラリア!」


 マスコットが声をあげて、魔力で映像画面を展開して私に確認を促す。

 距離は遠いけれど、魔力を感じる。

 今回のターゲット魔物ネガネガースだ。


「了解、善処するよ」


 不穏なオーラを身に纏い、人に襲い掛かる魔物。

 怪我している人はいないけれども、その魔力にやられてネガティブになっている人は多いみたいだ。

 マスコットが見せてきた映像には絶望しきっている人が膝をついている。

 まぁ、私がそういう風になることはないな。

 そう思いながら、現場への加速を行おうとした瞬間だった。


「待って! もうひとつ魔力反応! 早い!」

「魔力反応? どういうこと?」


 飛行速度をそのまま、映像を確認する。

 そこでは黒い二足歩行の生物がすさまじい速度で地上を爆走していた。


「あれだよ! ピカリア! ペンギン! ペンギン!」

「そんなわけ……」


 そう言いかけた瞬間だった。

 二足歩行の黒い生物が魔物ネガネガースの前に止まった。

 いや、違う、黒い生物じゃない。

 黒と白。そして鳥。

 お腹が白くて羽根が黒い。


 そいつは、ペンギンだった。


「……え?」


 目を疑う。

 いやいやいやいや、ペンギン?

 なんでここにペンギンがいるの?

 私が混乱している間にも状況は進んでいく。


『むんっ!』


 そのペンギンはなんと右手の翼でネガネガースに対してアッパーカットしたのだ。

 しかも、喋りながら。


『ペンギンマンがいる限り、世界の平和は守られる! 成敗!』


 やたらイケメンな声で流暢に話しながら、ペンギンマンの一撃が炸裂!


『ネ、ネガァア!』


 その一撃でネガネガースは空に飛ばされ、星になってしまった。


『諸君、くれぐれも気を付けたまえよ!』


 そう言ってペンギンマンと名乗ったペンギンはそそくさと消えてしまった。


「……いやいやいや」


 なんだったんだ、アレ。

 ペンギンが喋る?

 ペンギンマン?

 わけがわからない。

 それに、ペンギンがアッパーカットをして魔物を倒すだなんて、シュールすぎる。


「嘘じゃなかったでしょ? ペンギン」

「嘘でいてほしかったよ……」


 なんていうか、ペンギンに負けたというショックが絶妙にでかい。

 まぁ、あんな素早いペンギンと真正面からぶつかったら八つ裂きになりそうだから、これ以上は考えないけど。

 謎すぎて、頭が痛くなってくる。


「とりあえず、ネガネガースの影響で沈んでいる人は助けないと」

「そうだね、キラリアの明るさでみんなの心を光らせて!」

「……そういう魔法は専門外なんだけどなぁ」


 メンタルケアとかボランティアだって魔法少女の大切な役割だ。

 魔物退治には参加できなくとも、しっかりやるべきことはやっておきたい。

 そう思いながら私は魔力で沈んでいる人たちを励ましていった。





 後日。

 繰り返しペンギンマンは現れた。


 空中から奇怪な音を出す怪鳥の魔物オトオトーンが現れた時……


『ペンギンだって空を飛べるのだよ! はっはっは!』


 そう言ってなんと空中を全力で足で歩いてペンギンマンは移動していた。

 ありえない。


『そして、騒音被害はやめよう! ぬぅん!』


 マウントを取ったと思ったら右の翼で正拳突きをして一撃で倒してしまっていた。

 ……色々とおかしい。


 水中のタコ型の魔物ウネウネーンが出没した時。

 私が水着に着替えて泳いで、現地に向かっていた時もペンギンマンはいた。

 ペンギンらしい圧倒的な速さでウネウネーンまで到達したのち……


『海の平和はこのペンギンマンが守る! 何しろ、ペンギンだからね!』


 そう言って圧倒的な起動力でウネウネーンを追い込み、とどめに水中でドロップキックをしていた。


『ペンギンスーパーキック! 成敗っ!』


 水中で普通に喋れていたことも気にならないくらい、強かった。

 恐ろしいことに、私の役割はずっと後始末になるくらいにはペンギンマンが行動が早い。

 そんな日々が続いていた。





「ペンギンに負ける光の魔法少女ってなんだろうね……」


 ワッサーにぼやく。

 なんていうか、光よりペンギンの方が強いんじゃないかってレベルで強い。

 私の出番がない日々が続くと、なかなかやるせない。


「光が当たらない日だってあるよ、しょうがない」

「うー、やっぱりペンギンマンが強すぎる! 私が活躍できる日ってもう来ないんじゃないかなぁ」

「大丈夫! 縁の下の力持ち系の魔法少女として生きる道もあるよ!」

「現実的だけど、釈然としない……!」


 私にやれることはやっているから評判が悪いわけではない。

 けど、ペンギンマンに手柄を取られてしまいがちな今の状況はなんとかしたいとは思っていた。







 ある日の午後。

 魔物が町に現れたという情報が伝わり、私はいつも以上に早期に移動していた。


「今日こそペンギンマンに勝つ……!」


 流石にこれ以上、二番手になっていたら腕とか色々なまりそうで怖い。

 だから、私は急行することを意識したのだ。

 今日の魔物はピカピカーン。夏の日差しをコントロールする恐怖の魔物だ。

 ビームの射程距離にいる。よし、今ならやれる。


「いた、キラリア! 今日は先に到着したみたいだよ!」

「よし……!」


 正直光の魔物に私の魔法が通じるかはわからない。

 だけど、負けたくない。

 私にだって魔法少女のプライドがある。


「いくよ、キラキラルンルン! シャイニング! キラリア、とっておきのーっ!」

「待って! 今はビームしちゃ駄目だ!」

「な、なんで!?」


 詠唱を開始した瞬間にワッサーが静止する。


「あそこにペンギンマンが倒れてる!」


 ピカピカーンの足元。黒く倒れる鳥。

 そう、ペンギンのペンギンマンが倒れていたのだ。


「な、なんで!? 無敵だよね!? ペンギンマン!」


 私の声が届いていない。

 立ち上がろうとしても動けない様子だ。


「まさか、熱中症……!」

「もしかして、速攻で倒してたのって、暑さに負けない為だったの!?」


 ペンギンマンだって、ペンギンだった。

 ……翼でアッパーカットしていたとしても、ペンギンだったのだ。


「ペンギンの体温は人間よりも高め! 羽毛が全身にある以上、寒さには強いけど暑さには弱い! そして今日の魔物は光の魔物! 夏の日差しを強める魔物!」

「相性が悪かったんだ……!」


 このまま放置するわけにはいかない。とはいえ、高火力のビーム攻撃だとペンギンマンも巻き沿いを受けてしまう。

 なら、私にできることは……!


「接近戦でやっつける!」

「無茶だよ! キラリア! 君の得意分野は遠距離ビームによる攻撃だ!」

「ペンギンマンが翼でアッパーカットしてるんだよ! 私だってアッパーカットできる! ペンギンマンにできて、私にできないわけがない!」


 思いっきり接近。

 そして、手のひらに光を集める。

 狙いは夏の魔物ピカピカーン。ペンギンマンを追い詰めた敵。


「ペンギンマン、技を借りるから! キラキラルンルン! シャイニング! キラリア、とっておきのーっ!」


 光を集中させて、思いっきり解き放つ。

 翼が空に向けて広がっていたペンギンマンの技のように!


「アッパーカットォー!」

「ピッカアアアア!」


 思いっきりぶつけられる衝撃のアッパーカット。

 その一撃によってピカピカーンは空の星となって消えていった。


「……よかった」


 ほっとして、ペンギンマンに駆け寄る。


「大丈夫、ペンギンマン」

「あ、あぁ……だが、水が足りない……」

「ワッサー」

「水筒用意してあるよ!」


 まず、涼しい室内まで移動。そして、ワッサーが自前の水筒をペンギンマンに渡す。

 水筒の蓋を開けてペンギンマンの口に水を飲ませる。

 少しの時間が立ったのち、ペンギンマンは立ち上がれるまで回復した。


「助かった……! このペンギンマン、一生恩を忘れないだろう! ところで君は……?」

「キラリア。魔法少女キラ・キラリア」

「そうか、ありがとう、心優しい魔法少女」

「こっちこそ、いつも事件を解決してくれてありがとう」


 ライバル心があったとしても、ペンギンマンは正義の味方だ。

 敵体するつもりもないし、むしろお礼が言いたかった。


「私もいつものペンギンマンみたいに強くなりたいな」

「なに、強さだけが全てではないよ。私は後始末するまで体力が持たない。この夏場には敵を倒すまでが限界さ」

「そうだったんだ。……じゃあ、私も役に立ってたかな?」

「後始末を君がしてくれていたのか?」

「ま、まぁね。そんな大したことできてたかはわからないけれど」

「どんな形であれ、人を助ける心を持っている以上君は立派だ。いい魔法少女になれるさ」

「……ありがとう」

「私がこの場所に来たのは友人に会いに来たからなんだ。だから、そろそろ旅に出る予定だ」

「友人?」

「ふふっ、動物園のペンギンさ。元気にしていた彼を見ていたら、僕も負けてられないと思ってね。少し頑張っていたのさ」


 そう言いながらペンギンマンはパタパタと動いた。

 きっと人間の表情なら笑顔になってるのだろう。

 ペンギンだって守りたいものがある。

 私にも魔法少女としてやるべきことがある。

 みんな、自分なりのペースで頑張っているんだ。

 動物園のペンギンも、私も、ペンギンマンも。


「ペンギンマンの強さ、忘れないよ」

「僕も君のことを忘れない。助けてくれてありがとう」

「それはお互い様。別の場所でも頑張ってね」

「あぁ、やってみるさ」

「……それから、別の町の魔法少女さんとトラブル起こさないようにね」

「それはどういう……」


 首を傾げるペンギンマン。

 それに対してワッサーは苦笑しながら言葉にする。


「ペンギンマンに後れを取ってたことにキラリアはショックを受けてたんだ」

「そ、それは言わないで! 恥ずかしいから……!」

「事実だよ?」

「ああもうっ」


 恥ずかしくて話を逸らそうとする。

 そうしていると、ペンギンマンは笑うような仕草をして、私にこう言葉にした。


「僕の影響で沈んでいたのは申し訳ない。けど、君はきっと強い魔法少女になれるよ」

「それは、どうして?」

「向上心があって、眩しい魔法少女だからさ」

「……そっか」

「じゃあ、僕は行くよ。またどこかで」

「またね、ペンギンマン」


 ペンギンの背中が遠く離れていく。

 夏の日の変わった出来事の日々。

 ペンギンマンのいた夏の日を私は忘れないだろう。






「キラリア、最近のニュースを知ってるかい?」

「なに? また変な噂?」

「違うよ、素敵な噂」


 家でのんびりしている時間。

 ふとした瞬間に、ワッサーが話してきた。


「ほら、ペンギンが人を助けてるっていう噂」

「本当? 見せて!」

「いいよ!」


 魔力で作られた液晶にペンギンマンの姿が映し出される。

 その隣には私より小さい魔法少女がいて、笑顔でペンギンマンと握手していた。


「現地の魔法少女と仲良くなったりしてるんだね」

「トラブルもないみたいだし、協力して頑張ってるみたいだよ!」

「そっか、よかった」


 私みたいにやきもちすることもないし、ペンギンマンだってしっかり活躍できる。

 素敵な環境だ。私も負けてられない。


「よし、パトロール始めよっか」

「魔物もやっつけないとね」

「人助けも大切」

「じゃあ」

「出発!」


 ペンギンが魔法少女よりも先に活躍しているような不思議な瞬間があった夏の日を超えて、私はさらに輝いていく。

 まだ日差しは眩しいけれども、私は元気に活動していきたい。

 液晶に移るペンギンマンに勇気をもらいながら、私は魔法少女として改めて決意を固めていた。

 

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