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この世で一番美しい~白い肌の妖精の幼虫と、黒い肌の妖精の幼虫、さなぎから羽化して出てきたその姿は~

 白い幼虫は、美しかった。雪色の肌に水晶のように透ける瞳、白い絹糸のように長い髪。誰もが彼女を美しいと、そう言った。


 黒い幼虫は、美しかった。漆黒の肌に黒曜石のように深い瞳、黒い絹糸のように長い髪。誰もが彼を美しいと、そう言った。


 妖精の幼虫ふたりは、もっと美しくなりたかった。もうじきさなぎになり、やがて羽化して羽根のついた、本当の妖精になる時を、ふたりで心底夢見ていた。


「俺はもっと綺麗になるんだ。綺麗になって、そん時は……」

「あら、私だってもっともっと綺麗になるわ。さなぎになって、羽化して、その時は……」


 自分と、結婚してください。そう言いたくて、とても言えなくて、ふたりはいつも恥じらって、黙ってそっと顔をそむけた。


 やがてふたりはさなぎになった。さなぎの中で、もっともっと美しく羽化するその時を夢見て、二週間とろとろに眠っていた。


 二週間の時が過ぎて、ふたりは大人の妖精に羽化した。互いが互いの姿を見て、ふたりは声もなく口を開けた。


 白い妖精の幼虫は、黒い妖精になっていた。漆黒の肌に黒曜石のように深い瞳、黒い絹糸のように長い髪、黒ビロードのような羽根。


 黒い妖精の幼虫は、白い妖精になっていた。雪色の肌に水晶のように透ける瞳、白い絹糸のように長い髪、白い絹織物のような羽根……。


 ふたりはお互いに、相手が一番美しいと思っていた。お互いに相手のような姿になって、似た姿で結ばれたいと想っていたのだ。


 ふたりは互いの姿に見惚れた。見とれながら、笑い出した。笑いながら泣き出して、まだ固まらない羽根のままで、いたわり合うように抱き合って、泣いて、泣いて、泣き続けた。


* * *


 やがてふたりのふるさとは、『美しい妖精のむ場所』として有名になった。黒い妖精と白い妖精の交雑した、新しいタイプの妖精のいる場所として。


 その妖精たちの肌はカフェオレ色で、瞳は透きとおる水晶のよう、髪は黒い絹糸のようにしなやかに長く、羽根は黒と白のつづれ織りのレース模様のようだった。


 この世に初めてカフェオレ色の妖精が現れてから、今日でちょうど一千年。


 今でも美しい妖精たちは、異世界のかたすみの小さな地方で飛んでいる。光る日を浴びてきらきらと、レース模様のつづれ織りみたいにひらひらひらひら、夢のように飛んでいる。




 ……それは夏の夜の夢の話。

 白人の少年に恋する黒人の少女が、寝苦しい満月の夜に見た、予知夢のような夢のお話。


(完)

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