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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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2.18 - 人力の車輪【チカーム教国:聖良3ヶ月】



 その日の朝、聖良(セラ)は上機嫌だった。


 

 「リョーヴェ。アンタ、中々よかったわ。」


 どうやら聖良は昨夜の"ご奉仕"がお気に召したようだった。


 

 「これはこれは、もったいないお言葉。世界の至宝ともいうべきセラ様に触れさせていただきました名誉、この胸にしかと焼き付けたく……」


 リョーヴェは仰々しい動作で、ゆるりと胸の前へ右手を持っていく。


 その様子をニマニマとみている聖良は、まんざらでもないのだろう。長い髪をファサっと払い、肩にかけた。


 

 「うん。ま、アンタが言ってた案とかいうの、やってもいいかなー。」


 「おお、それは誠にございますか。さすがセラ様もご慧眼にございます。」


 寝物語にと、リョーヴェが語っていたその話は、エウロー大陸を揺るがすだろう――とある作戦だった。


 それは聖良にはいい退屈しのぎ――いや、更なる楽しみを生む娯楽というものなのだろう。

 


 だが、その作戦を実行するためには結局は地盤固めからなのだ。


 聖良は地味なことは嫌い、楽をすることを好む。


 この辺りを全てリョーヴェが担っていくつもりなのだ。


 派手なことを聖良に吹き込み、上手くYESを引き出す手腕は見事であった。

 



 「ふふーん。まーね! そうそう。新兵器、ほんとに作れるの?」


 「はい。お任せください。しっかりと形にいたしますので。」


 「そ。ちゃんとやりなさいよ? いくらうまいことばっかり言っても、失敗したら……刎ねるからね。」


 「もちろんでございます。作戦の鍵となるものですから。全てはセラ様のために。……いずれセラ様の前にこの大陸全てをかしづかせてみせましょうぞ。」


 不敵に口の端を歪めるリョーヴェであった。


 


――――

――



 

 聖良の上機嫌さは、その後に話すこととなったゴルドにも感じられた。


 「聖皇様。先日の人力車、試作が出来上がったとのことです。」


 「へー。早かったじゃん。まだ2日ぐらいじゃない?」


 普段、ここまで素直に褒められることは、ゴルドといえどあまりないのだ。

 


 「はっ。聖皇様のご発案でしたので、急がせました。」


 多少の困惑はあれど、リョーヴェが上手くやってくれたのだろうと思うゴルドである。

 


 「ふーん。そっか。じゃ、見に行こっかなー。」


 「はっ。ご案内いたします。」

 

 いつも通りの丁寧な所作のゴルドに、聖良は珍しく素直にすくっと寝椅子から立ち上がったのだった。



――――

――



 大聖堂前には2種類の人力車が用意されていた。


 

 ひとつは、聖良が地面に描いた下手な絵を読み解き造られたであろうものだった。


 それは、日本の観光地などで見かけるものに近かった。


 

 「あ、そーそー。こういう感じだわ! やるじゃん。もっと高級感出したら完璧ねー。」


 原木の色そのままに、赤いフェルトのようなものが座席に張られたそれは、まだ聖良の望む高級感はないようだったが、今日は咎めないようだ。


「はっ。ありがとうございます。」


 安堵の様子のゴルドである。


 

 そしてもうひとつは……


 「ねー。ゴルド。これは?」


 「は。こちらは、職人がもうひとつ聖皇様のためにご用意すると言って造り上げたもので……」


 「へー……」



 それは、人力車には違いはないのだろうが、引き手は見当たらない。


 四角い長箱型に車輪が6つほど付いている、全体を鉄板の装甲に覆われた巨大な何かだった。


 貨物トラックの荷台に近いだろうか。だが、前方と上部に小さな窓がいくつかあるようだ。


 

 「よろしければ中をご覧になられますか?」


 「あー、まぁそうねー。見よっかなー。」


 上機嫌な聖良は、特に疑問を抱くこともなく、ゴルドの提案にあっさりと乗った。



 ゴルドはその大きな何かの後ろ側に回り、そこにあった入りの扉をギッと開け放った。


 そして、少し引き下がると……


 「どうぞ。安全確認は終わっております。」


 と、聖良を通す。


 

 「ん。……お?」


 中に入り、周囲を見渡した聖良は、小さく声を漏らした。


 そこに続いて中に入ってきたゴルドが、説明を始めた。



 「こちらが動力室となっておりまして、2階が座席室となっております。」


 「へー。なんか自転車みたいなのがあるなぁ。」


 そこには、動力らしきペダル式の歯車回転装置があった。


 聖良の言う通り、スポーツジムなどにあるアップライトバイクやエアロバイクと呼ばれるものに近い形状だった。

 

 

 「ジテンシャ? とは、何でございましょうか?」


 「あー、まぁ、それはいいよ、別に。」


 聖良はあまり運動が好きではない。どうも、自力を動力とする乗り物は作る気がないようだった。



 

 答えてはもらえないのだろうと悟ったゴルドは、2階への梯子の前に立った。


 「こちらの梯子から2階に上がれるのですが、ご覧になられますか?」


 「まーそうねー。見よっかな。」


 梯子を上るなど、機嫌のいい今日でなければ却下されていたかもしれなかったが、今日の聖良は幸か不幸か機嫌がいいのだ。


 ここまで来たのだ、最後まで付き合ってやるか、くらいの心持ちで了承したようだった。



 「承知いたしました。」


 聖良の返答を受け、ゴルドはカンカンと梯子を上り、上から腕を伸ばした。


 それを見た聖良も、梯子に手足をかけて、上り始めた。


 そして、少し上ったところでゴルドに引き上げられた。



 


 そして、2階の光景を目の当たりにした聖良は、感嘆に近い声を上げた。


 「へー。これって……」


 「以前のパレードに触発されて発案したとのことです」


 聖良の聖皇就任のパレードは盛況を極めた。その日の興奮から2ヵ月ほどしか経っていないのだ。


 聖皇からの直接の依頼だと言われては、教国の職人など、その粋を尽くすことだったろう。


 

 

 「ふーん。なるほどねー。じゃ次のパレードはこれ使ってあげよっかなー。」


 聖良は派手好きなのだ。このような大掛かりな移動用の乗り物など、この世界に転生して以来初めて目にしたのだ。まんざらでもないのだろう。

 


 「聖皇様の偉大さにはふさわしいかと存じます。」


 そんな聖良の様子に、ゴルドは胸を撫で下ろす思いだった。

 


 「そうねー。パレードはまた近々やろーかなー。これ、ちゃんと飾り付けしといてね。」


 聖杯の練習もしている聖良だ。そろそろ派手にもう一度パフォーマンスをしたいのだろう。

 


 「はっ。もちろんでございます。」


 騎士団としても、人員を補充したいところではある。聖良のやる気は願ったり叶ったりなのだ。


 ゴルドに否応などないのだった。



 「それはそれでいいとして……」


 改めて周りを見渡す聖良。何かを考えているようだった。



 「これ、兵器として使えるんじゃない?」


 「兵器……? 武器のようなことでしょうか……?」


 大型の武器を扱ったことのないチカーム教国の騎士としては、あまり馴染みのない言葉だったようだ。



 「え? リョーヴェには通じたんだけどな。ゴルドは分かんないわけ?」


 一瞬で機嫌が崩れそうになる聖良に


 「も、申し訳ございません……」


 と、ゴルドは顔を青くしながらすぐさま詫びた。



 「ま、いいわ。リョーヴェに頼んだのが出来上がったら教えてあげる。」


 「はっ! ありがとうございます!」


 バッと姿勢を正すゴルドに、ニヤァっと笑顔を作る聖良であった。


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