2.11 - 血溜まりの聖女 【チカーム教国 : 聖良3ヶ月】
聖良回
聖杯の力を引き出すべく、野外に訓練と称して出てきていた聖良。
お供はもちろん、ゴルドとシルバである。
「このへんでいっかなー。」
聖良は自分の足で歩くことは、あまり好きではない。
大聖堂から出て、街を抜け、郊外のちょっとした森を進み、小川を見つけた辺りですでに1時間程経過している。
この世界の住人にしてみたら、それは日常的な最低限の範囲なのだが……
聖良としては、物凄く頑張ったという気持ちでいっぱいなのか、満足気な顔を半分と、疲労を半分……
といった様子であった。
「はぁー。タクシー……ないもんなぁ……。あ。そうだ。人力車的なのとか、馬車的なのとかくらいなら作れるんじゃない? ねー、ゴルドー、シルバー。」
「「はっ!」」
聖良は、地面にしゃがみ込むと、木の枝でその場に絵を描き始めた。
……お世辞にもあまり上手とは言えないものだった。
「こんなのさぁ、作ってさ、流行らせたらどーかなー。」
「ほう……。流石は聖皇様、素晴らしいご見識。」
ゴルドは真剣な眼差しで聖良を褒めちぎる。
「聖皇様……これは時代が変わりますぞ……。」
シルバは驚愕しながら震える有様。
「え、そう? くふふ。」
2人の様子に満足気な聖良であった。
「んじゃ、ゴルド。これ、作る手配しといて。」
「はっ! 直ちに! シルバ、聖皇様を頼んだ。」
「任せろ。」
「では、行ってまいります。」
「はいはーい。んじゃ、聖杯の練習でもしよっかな。……よいしょっと。」
聖杯を胸の前に構える聖良。
聖杯はあまり大きくもなければ、重くもないのだが……
前世を35年程生きた口ぐせなのだろう。
本人は内面から若作りしているつもりのようだが、ただ幼稚さのある中年でしかない。
(んー。集中……だったな……。えーっと……)
聖良が聖杯を構えたしばしの後、聖杯は輝き出した。
「おお……なんと神々しい……」
シルバは感嘆の声を漏らす。
(んー、力術……だっけ。そもそもそれ、どう使うんだろ。
聖女は聖癒術しか練習してないみたいだしなー。この身体にも力術はやり方染み付いてないしなぁ。
このままだと、コレただの光るコップじゃん。
シルバとかはそれでも驚いてるみたいだけどさぁ。
せっかくそこに小川があるんだし、初代がやったとかいう、川の流れを変えるみたいなこと……出来たらなぁー。)
チラリとシルバを見た聖良。
シルバは目を輝かせて、聖良を見ているようだ。
(うーん。あ、そうだ。捕まえた奴隷とかに力術使えるやついないかな? 後で聞いてみるか。まぁいなかったら……何人か揃えてどっかで力術使えるやつ捕まえてこさせればいいか。うん。そうしよ。)
光を撒き散らすのみだった聖良だが、次の方針を決めたようだった。
ふと、その光を止めた――その瞬間だった。
「セラ様! お下がりを!」
「え?」
シルバの鬼気迫る声に振り向いた聖良。
「え? 何コイツら。」
見れば、幾人かの男たちに囲まれていた。
男たちの手には、それぞれ刃物や鈍器などが握られている。
「……聖女だな。」
その男たちの1人が口を開いた。
「貴様ら、何をするつもりだ!」
それに対してシルバが答える。
(チッ……! 6人もいるじゃん。シルバ1人だとマズイな……。しまった。ゴルド行かせたの、失敗だったな。あー! クソ腹立つ!)
聖良は、内心焦りつつも、怒りが勝っているようだ。
「聖女? 私は聖女だけど教皇。聖皇という特別な存在だけど? 汚ったないアンタらみたいな奴らとは口も利きたくないんだけど、特別に話してあげる。消えろ! ゴミが!」
「な、なんだと……!」
男たちが聖良の言葉に激昂する、その瞬間だった。
聖良は聖杯を派手に輝かせた。
「シルバ! 行け!」
「はっ!」
閃光を背後に味方につけたシルバは、男たちに斬り掛かる。
「ぐぁっ……!」 「ギャッ……!」「ぐっ……」
6人が目をくらませている隙に、3人斬り伏せたシルバ。
あっという間の早業であった。
「く、くそがっ……!」
半ばまだ目もまともに見えていないだろう男たちだったが、1人……シルバに飛びかかり……
「ぐっ……?! 何をする! 離せ!」
シルバにしがみついた。
「殺れ! 早くっ……!」
「おおっ……!」 「すまねぇ……!」
「ぐぶっ……?! く、くそ……うぉぉ!」
「ぐあっ……!」
それは、一瞬の出来事だった。
飛びかかり、シルバにしがみついた男ごと、残る2人は刺しに行った。
見事、シルバに2本の剣は突き刺さった。
だが、シルバは最期の力で、刺しにきた2人の内1人の首を刎ねた。
そして、返す刃で、最後の1人の右手を落とし――ドサリと地面に倒れ伏した。
「ぐっ……あ、あとは聖女……だけ……」
1人生き残った男も、右腕は無く、大量出血し、息も絶え絶えであった。
「あー! シルバ! ちょっと? 倒れてんじゃないわよ!」
「ぐぶっ……せ……せ……ら……さま……も……もうしわ……け……ゴバァッ」
無理に口を開いたシルバは、大量に吐血してしまった。
――そしてそのまま動かなくなった。
「あーあ。人が気に入ってたものをさ。壊してくれちゃって……。クソゴミが。腹立つ!」
つかつかと歩き、そして落ちていた剣を拾った聖良。
――ビュッ!
「ぐおっ……!」
1本を男に投げつけると――
「死ねよ、クソゴミ……!」
すかさず、男に深々と――もう1本拾った剣を刺し貫いた。
「ぐぶぉ……! くっ……ここまで……か……。」
血に塗れ、倒れ伏す男。
聖良は、血溜まりの中それを見下ろしながら――恍惚の表情を浮かべていた。
お読みいただけまして、ありがとうございました!
今回のお話はいかがでしたか?
並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!
また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!
ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!




