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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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1.21 - シャルマ・ダグ・ヘルグリンド 【ロヴンの語るシャルマの過去】

シャルマ母、ロヴンの語る話


 エウロー大陸唯一の宗教国家チカーム教国。



 建国から程なくして、自国の護りを万全とする為――という名目で、騎士団を組織した。


 もちろんそれは、簒奪した旧国の戦士団を改宗・洗脳し、再編したに過ぎないのだが……。



 武力を伴った信仰心とは、非常に厄介なものだ。

 聖滅軍などと呼ばれたその牙は、当然の様に隣国へと襲い掛かる。




 そんな不運を被った国々の中には、ヘルグリンド王国もあった。


 そして、そんなヘルグリンド王国の中で、最も不運だったといえるのは、チカーム教国との国境に位置していた――ダグ家だ。


 標的とされてしまったダグ家領内は、それはそれは悲惨なもので……


 小規模な襲撃は頻繁に起こる。

 油断すれば村ごと消える。


 犠牲者の数は計り知れなかった。



 そこで、当時のヘルグリンド王は、王城に保管されていた国宝の槍を、ダグ家当主に託した。


 そうして、ダグ家はヘルグリンド王国の国防の要とされたのだった。


 それ以来、ヘルグリンド王国は、ダグ家を中心に据え、チカーム教国による侵略行為に、強硬な姿勢を貫いてきた。


 

 それは、エウローン帝国の傘下になってからも、変わらなかった。


 帝国側に必要以上の借りを作ると、帝国内での立場が危うくなるという懸念が大きかったからだ。


 

――



 そんなダグ家の現当主、エツェル・ダグ・ヘルグリンドは、その日も戦場に居た。


 「伝令ー! 伝令ー!」


 ルクと呼ばれる鳥に騎乗し、疾走する兵士。


 大声を上げながら本陣を目指しているようだ。


 

 「エツェル様。あの旗は本拠からのようですぞ。」


 大声に気付き、陣幕から覗き見る、歴戦の猛者といった風体の男。

 その立派な体躯には、無数の傷痕が刻まれている。


 「ふむ……何事か。」


 床几(しょうぎ)から(おもむ)ろに立ち上がるエツェル。



 そこに勢いよく伝令兵が飛び込んできた。


 「エツェル様! 伝令でございます! こちらを!」


 伝令兵は肩で息をしながら必死の形相だ。

 余程の火急の件なのだろうか。

 礼すら取らずに慌てた様子で手紙らしきものを差し出した。


 「うむ……」


 差し出された手紙を受け取り、即座に目を通すエツェル。


 「おおっ……!!! 産まれたか!!!」


 意外な事に……その火急の件は、目出度い報せだった。


 

 「誠にございますか!」


 エツェルの声に、本陣は俄に沸き立った。


 「よぉおし!! さっさと残敵を殲滅するぞ!! 俺も出る!!」


 

 「「「おぉお゙お゙お゙お゙ぉぉぉぉ!!!」」」


 伝来の槍を片手に、愛馬に飛び乗るエツェル。


 「俺に続けぇい!!!」


 膠着していた戦場を、縦横無尽に駆け巡るエツェル。


 手にする槍は、正に無双を誇った。


 その勇姿と吉報を受けた兵士たちの士気も、高まるばかり。


 彼らのその怒涛の攻めは、瞬く間に戦況を覆し、勝利を収めたのだった。


 

――



 戦勝目出度く本拠へ帰還したエツェルの軍だったが、城塞門を潜って始まる凱旋パレードの中に、エツェルの姿は無かった。


 「でかしたぞ! ロヴン! 男児だそうだな!」


 軍を置き去りに、いち早く帰還したエツェルは、ノックもせず夫人とまだ見ぬ息子の休む部屋に飛び込んだのだ。


 「……エツェル様。ご無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます。」


 突然の事にも、柔らかい笑顔で横たえていた身体を起こすロヴン夫人。


 それをエツェルは慌てて制した。


 「ああ……! 無理をせずとも良い。それより――」


 くすりと笑うロヴン夫人。

 顔色はあまり良くは見えないが、その表情はとても柔らかい。


 「私達の宝でしたら、そちらに。眠ったばかりですが……。」


 ロヴン夫人の指し示した方へ向き直るエツェル。


 「おお……! おお……! 我が息子か……!」


 エツェルは、恐る恐る眠る赤子に手を伸ばして、その手にそろりと抱き上げた。


 自身に良く似た金の髪であった。


 

――――――

――――

――


 

――7年後

 ダグ家本拠スキン城、宝槍の間。


 「さあ、シャルマよ。この宝槍の力を引き出してみよ。」


 エツェルは、7歳になった息子に宝槍の儀式を受けさせていた。


 「は、はい……。」


 

 ダグ家に伝わる槍は、神具"グングニル"。

 突き刺す、斬り裂く事も出来るが、その真価は投げた時に発揮されるものだ。

 必中であり、手元に必ず戻ってくるのだ。


 儀式では、槍に神力を通し、神具との親和性を高めておく事が目的である。


 元々は神々が使用していた物と伝わる槍だ。

 人間が使うのであれば、長らくの修練を必要とするのは想像にかたくない。

 そもそも人の身では、グングニルの本来の威力など出せないのだから。



 「どうした? もっと集中せんか。自身の内に眠る神力を呼び起こしその槍に通すのだ。」


 「は……はい。集中……集中……。」


 シャルマは、目を閉じ、ブツブツと呟きながら、槍を握りしめている。


 元々多大な神力を宿すグングニルである。

 外部から微力な神力を流しただけで、淡く光るのだが……


 「ど……どういう事だ!? 何故なにも起こらぬ!? どうしたシャルマ! 早う神力を通さぬか!」


 「は……! はい……! すぐに……!」


 シャルマは、その後も2時間ほど粘ったが……


 その努力が実を結ぶ事はなかった。


 

――――

――



 数日後、ロヴン夫人は慌てた様子で城の廊下を歩いていた。

 淑女である。走る事は以ての外なのだ。

 だから、競歩のように早歩きである。


 目指していたのは、エツェルが居る執務室であった。


――ガチャッ!


 「エツェル様! シャルマが廃嫡、そして追放処分とお聞きいたしましたが、正気でございますか!」


 淑女であるはずのロヴン夫人だが、余程慌てていたのであろう、ノックもなく扉を開け放つと、大声を上げながらの入室だった。

 そして、その声は悲痛な色でしかないものだった。


 「ロヴンか。……アレは出来損ないだ。力術師に診せたが、神力の波長が読めぬそうだ。それでは宝槍を使いこなすどころではない。ダグ家の跡取りは務まらぬ。そんな者は……当家には必要無い。」


 「な……なんというお言葉……! あんなに可愛がっていらっしゃったではございませんか!」


 「跡取りに相応しい扱いをしていたのみよ。跡取りでないなら、それ相応の扱いとなる。それだけだ。」


 「何も……あんな幼子を追放処分だなどと……そのような(むご)い真似をされずともよろしいではないですか!」


 「ダグ家は、この地を守護する事で、ヘルグリンド全土を護っておるのだ。そして、その働きでもって民から税を得ておる。無力者ならば、無力者らしく生きればよいのだ。」


 ロヴン夫人の訴えに、エツェルは耳を貸すことはなかった。


 「そうですか……。承知いたしました。では、そのような無力者を産んだわたくしも、無能だということ……。シャルマとともに、出ていきますわ。」


 そう言い残し、ロヴン夫人はシャルマの居室へ向かった。


 

 エツェルは1人、執務室の窓際……


 「ロヴン……馬鹿なことを……」


 ぼそりとそう呟いた。


 

――――

――



 「シャルマ。あなたはもう、ここでは暮らせません。一先ずはわたくしの故郷に参りましょう。」


 「母上……。申し訳ございません……。」


 城門の前で語る母子。


 母は、憂いを帯びた顔で振り返り、城を一瞥(いちべつ)する。


 「さぁ、長旅です。辛いでしょうが、泣き言は許しません。あなたは王族に連なる血を宿した子なのです。誇りだけは忘れてはなりませんよ。」


 「はい。」


 ロヴン夫人の故郷、エウローン帝国の帝都に向け、軽装の母子は歩み出す。


 過酷な旅の幕開けであった。

お読みいただけまして、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
鉄鋼団で仲間と家族の様な絆を結んでいくゼントさん、一方人を人とも思わないセラさん…完全に進む道が分たれましたね…。チカーム教国側はもうめちゃくちゃですね…!あっさりとキャラクター達が命を落としていく……
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