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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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1.5 - 学園生活 一見様(改) 【帝国学園 : 善人の受難】

善人回


 リンドの言う実験は、成功だったのか、それとも失敗だったのか。


 悔しそうな姿を見せていたリンドだったが。


 

 「ふうぅ……。まぁ良い。」


 気を取り直したのか、すくっとリンドは立ち上がる。


 が、マントがはだけている。


 

 「実験は終いじゃ。」


 キリリと真面目な顔をするリンド。

 だが、マントがはだけている。


 こくりと頷くゼント。


 

 「して、今後の事じゃがな……。」


 少し溜めるリンド。


 先程とは異なり、落ち着いたトーンだ。

 だが、マントがはだけている。


 

 「ゼント君。何かあてはあるのか?」


 覗き込む様にすっと顔を近付けるリンド。

 やはり、マントははだけている。


 

 「あて……」


 問われたゼントは腕を組み、考え込む。

 どうやらリンドの格好には触れないようだ。


 (あてか……。オーズの知識はあるが、どうするのがいいのか……。どうやらこの世界の生活水準はあまり高くないようだしな。当然生活保護だとかの社会保障などは無いようだし……。いや……そういえば、今はオーズの見た目をしてはいるが、人間の身体では無かったな。人間らしい暮らしというものに(こだわ)る必要は無いのか……。)


 考えあぐねるゼント。

 微動だにしなくなってしまった。


 

 「……(わー)から一つ提案じゃ!」


 痺れを切らしたのか、バッと勢いよく上体を反らせるリンド。

 ついにマントは完全に(ひるがえ)った。


 

 「ひとまず"オーズ君"として学園生活をしてはどうじゃ?」


 真面目顔から一転、リンドは満面の笑みを披露する。

 そして全てをさらけ出している。


 

 「……学園生活」


 学園生活、つまりは学生だ。

 ゼントにしてみれば、20年程前の事になろうか。


 (今更学生として……か。大丈夫だろうか……? 確かに今すぐ何かを急いでいる様な事は無いが……)


 即答とはいかないゼントである。


 

 そこにリンドは更に畳み掛けた。


 「ゼント君。オーズ君はの、知っての通り、それなりの家柄なんじゃよ。お主は、原因がどうであれ、そのオーズ君を消してしまったのじゃ。それが明るみに出れば……報復は免れんじゃろうな。

 何も分からず何も決めていない今、平穏とは程遠い事態になるじゃろう。それに勿論、この学園にもそれなりの報復行為はあるじゃろうしな。

 もっとも、この学園に大々的に報復するのは帝国の庇護下にあるからして、難しいじゃろうがの。個人となれば話は別じゃ。お主とラウム君は、不味かろうの。……我はそれを望んではおらんのじゃ。」


 またしてもキリリと顔を作り、リンドは諭す様に話した。


 

 そして、


 「この話に乗ったとして、あと一年の話じゃ。順調にいけば、来年の今頃には卒業じゃ。お主は身の振り方を考える時間を取りつつ、報復を回避出来る。学園としては、ラウム君の安全を確保出来る。お互いに利があると思うのじゃがのう。」


 ニヤリと笑った。


 

 「分かった。世話になる。」


 ゼントは、こくりと頷き、そう答えた。


 「うむ。ではラウム君にも話すとするかの。」


 

――――

――



 「~というわけじゃ。最終的な所をラウム君しか見ておらなんだというのは僥倖じゃ。」


 呼び出されたラウムに説明をするリンドである。

 学園長らしく、ふざけているばかりではないようだ。


 

 「……そうですか。学園長のお考えは理解いたしました。」


 眉間にしわを寄せ、難しい顔をするラウム。


 

 「なんじゃ? 随分含みのある言い方じゃな。不服かの?」


 その様子が腑に落ちないリンド。少し首を傾ける。


 

 「いえ……ゼント殿、でしたか。彼が異界の人間だとは理解しました。ですが、その為人(ひととなり)は分かりません。他の生徒に危害を加えないかとの懸念が無いとも言い切れないかと……。」


 ラウムは、リンドよりかなり慎重だった。


 

 だが、リンドは笑い出す。


 「はっはっは。今更何を言うのじゃ。オーズ君と成り代わるのじゃぞ? 他の誰でもない、オーズ君じゃ。他の生徒に危害など、仮にあったとしても、いつもの事じゃろう。むしろゼント君になって大人しくなれば、それこそ重畳というものじゃ。」


 リンドは、しっかりと打算的だった。


 

――――

――



 「では改めてオーズ君。教室に案内しよう。午後からは座学、召喚術実技の復習の予定だ。」


 オーズとなったゼントは、教師ラウムに連れられて教室へと向かう。

 

 学園長室からは少し離れているようだ。

 

 説明をしながら歩くラウムに対して、ゼントはこくりこくりと頷く。


 

 「……あの。」


 その様子を見たラウムが小声になり、


 「オーズ君は、そこまで無口ではありませんでしたので、お気を付けて。」


 そう耳打ちした。


 

 「ああ……。分かった。」


 そんなラウムに短く答えるゼントだった。

 


 オーズの記憶とゼントの記憶が混在し、思考や感情の処理に、まだ慣れなれない彼は、口下手でコミュ障気味だった"善人"の影響の方が、まだ強いようだ。


 (オーズとして学園生活……オーズとして学園生活……オレは学生……オレは貴族……。貴族ってなんだ……? オーズっぽく振る舞えばいいのか……?)


 "善人"は、口数は多くなかったが、その分頭の中が忙しいタイプだった。


 そして、頭の中が忙しくなると口数が減るという悪循環が生まれてしまうタイプだった。


 (オーズには友人は居ない。子分? 取巻き? のオーネスがいるが、あまり気に入っていないのか……。教室では、他人とあまり交流していない……のか。なるほど。)


 

 ラウムの話にこくりこくりと頷きながら、頭の中で記憶の復習をしていると、教室へと着いてしまった。


 

 立派な両開きの木製の扉。


 手を掛けると、見た目に反してさしたる抵抗もなく開く。


 

 中は階段状の長机が教壇に向かいコの字に設置されている。


 既に生徒達は着席していた。


 

 「オーズ君も席に着きたまえ。」


 ラウムは、そう言いながら教壇へと歩を進めた。


 「オーズ様! 無事だったんすね! こっちっす!」


 オーネスが、後ろの席から手を振っている。


 オーズと成り代わったゼントは、その席を目指して階段を登っていく。

 「一見様……」 「生きてたんだ……」 「無事なのかよ……」 「残念……」

 ヒソヒソと他生徒の声が聞こえる。


 (なるほど……。オーズも色々大変そうだな。)


 そんな雰囲気の中をつかつかと歩くゼントである。

 オーズの記憶が無ければ、平気では居られ無かった事だろう。


 「……おい。」


 階段を登るゼントを塞ぐ様に、脚が投げ出された。


 「……シャルマか。」


 オーズに次ぐ問題児と目されている、シャルマだった。


 「後でツラ貸せや。」

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