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ピアノの先生をします

 それから、私はアンドレ様の目を気にしつつも、楽しい毎日を過ごしていた。


 朝起きて、一人で食事をして、使用人たちと館を綺麗にする。

 掃除だけでは物足りない私は、とうとう庭の花壇に花を植え始めた。寂しげだった広大な庭は急に華やぎ、私まで嬉しくもなった。


 もちろんピアノも弾いた。ただし、アンドレ様がいないところでだ。

 あの日、ピアノを弾くことは、アンドレ様の地雷だと悟ってしまった。だから私はもうアンドレ様に曲を披露しないことに決めた。

 いつかアンドレ様と打ち解けた際には聞いてみようと思う。アンドレ様は自らピアノを購入されたのに、私が弾くとどうしてお怒りになられるのか。改めて、アンドレ様のことを何も知らないことに気付いた。


 私はそうやって楽しく過ごしていたのだが……

 私がピアノを弾ける、しかもその腕は相当なものだという噂は、知らないうちに広まっていた。その噂は将軍邸から街に出て、なんと国王陛下の住む宮廷にまで届いてしまったのだ。





 ある日の昼、アンドレ様と同じ騎士服を着た男性が、宮廷からの手紙を届けに来た。不吉な予感を胸にその手紙に目を落とすと、そこには予想外の文字が書かれていた。


『リア・ルピシエンス殿


 そなたのピアノの腕は、宮廷内でも噂になっている。

 我が娘ルイーズに、ピアノを教えて欲しい』


 その後には、国王陛下の直々の署名。それを見て、私は震え上がった。


 (ピアノを教えるのはいいですが、私なんかでいいのでしょうか……)


 だが、この手紙を見て私以上に喜んだのが、マリーとヴェラだった。彼女たちは目を輝かせて私に言う。


「リア様!国王陛下直々のお願いだなんて、すごいじゃないですか!」


「リア様のピアノの腕はすごいですから!

 この国には、リア様を上回る音楽家はいません!! 」


「そ……そんなに褒められると、恐れ多いです……」


 おまけに、音楽家だなんて。もちろん私の弾くピアノ曲は私が作ったものでもないし、前世には私よりもすごい人はたくさんいた。だが、褒められると嬉しいのは確かであり、人の役に立ちたいとも思うのだった。


 ただ、気になることもある。


「私がルイーズ殿下にピアノを教えることを、アンドレ様は好ましく思わないかもしれません」


 きっとそうだ。だって、私がピアノを弾くだけで、怒りに身を震わせるくらいだから……


「ですが、国王からの命令です。いくらリア様でも、断ることは出来ないと思われます」


 (やっぱりそうですよね……)


 申し訳なさそうに告げるマリーに、私は満面の笑みを返した。


「それなら、出来ることを精一杯いたします!」


 こうして私は、国王陛下の娘ルイーズ殿下の、ピアノの先生となってしまった。

 アンドレ様が怒り狂おうが、国王陛下の命令は覆せない。そして、私にとって国王陛下という存在は、将軍のアンドレ様よりもずっと怖い存在でもあった。パトリック様との縁談の件では、バリル王国陛下の一存で私は祖国追放となった。国王陛下ほど怒らせていけない者はいないのだ。




◆◆◆◆◆




 (わぁ!大きな宮廷ですね!)


 次の日の昼前。私は宮廷内を歩いていた。

 バリル王国の宮廷ですら、私にとっては驚きの連続だった。それが今日は、シャンドリー王国の宮廷である。その規模は私の想像を遥かに超えていた。


 まるで原っぱかと思うほどの広大な庭園に、天まで聳えるような立派な王城。白い外壁は、太陽の光を浴びて神々しく輝いている。

 見上げるような門を潜り、立派な彫刻の立ち並ぶ廊下を歩く。赤いカーペットの敷かれた廊下は、長すぎて先が見えないほどだ。


 迷路のような廊下を曲がると、見たこともない大きなホール。豪華なシャンデリアが頭上で輝き、螺旋階段はおとぎ話で見るようなものだ。


 そのホールを抜け……たくさんの階段を上がり……


「こちらがルイーズ殿下のレッスン室でございます」


 使用人は頭を下げる。だから私も慌てて頭を下げた。


 何もかもが規模が違うこの王城。ルイーズ殿下も、もしかすると異次元の存在かもしれない。よくあるわがまま娘だとか、ませているとか。はたまたいたずらっ子とか……


 そんなことを考えてしまった私の不安は、


「リア先生!」


開かれた扉の先にいる彼女を見て、吹っ飛んでしまった。


「リア先生、待ってたよ!」


 にこにこ笑顔で私を迎えてくれたのは、小学生高学年くらいの可愛い女の子だった。普通の女の子であるかのような雰囲気だが、その召し物を見れば、高貴な身分であることはすぐに分かる。

 だが、ルイーズ殿下は裏のない嬉しそうな笑顔で私を迎えてくれたのだ。


「リア先生。私がルイーズです。よろしくね!」


 その可愛い笑顔に、メロメロになってしまいそうだった。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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