幸せな、やり直し結婚式
完結です。
お付き合いいただき、ありがとうございました!
眩しい朝の光で目を開けた。見慣れたカーテンに、見慣れた天井。そして私の隣には、見慣れたアンドレ様の寝顔。
(今日も相変わらず美しいです……)
思わず見惚れていると、ぎゅっと抱きしめられる。そして唇を塞がれ、ベッドに押し付けられた。
「だ、駄目です!もう朝です!! 」
慌ててアンドレ様を押し除けてベッドから抜け出そうとするが、ぎゅうぎゅうに抱きしめられて動かすことが出来ない。
「駄目だ。……君が可愛いから悪い」
(ちょ、ちょっと待って!!
こんな甘い時間、聞いてないのですが!! )
あれから約三ヶ月が経った。私はこうして、アンドレ様と最高に幸せな日々を送っている。
アンドレ様に押し倒され、あちこちに口付けされるなかで必死に言った。
「何をおっしゃるのですか?
今日はこれから式だというのに」
それでようやくアンドレ様が唇を離す。
「式、辞めようか」
「辞めません!もとはといえば、アンドレ様が結婚式をやり直すなんて言われるからでしょう!? 」
私の言葉にしゅんとして上体を起こすアンドレ様。その剥き出しの体にくらくらして、思わず視線を逸らした。
そう。今日はこんな時間まで眠っていたが、実は結婚式のやり直しなのだ。私が嫁いできた時に散々な結婚式を開いたため、それを後悔しているアンドレ様が提案してくださったのだ。私はやり直しだなんて望んでいなかったが、アンドレ様がやり直さないと気が済まないらしい。
こうして寝室から出ると、笑顔のマリーとヴェラに捕まって、あれよあれよという間に支度をされた。
髪を編みながら、マリーがぼやく。
「まさか、将軍の溺愛がここまで爆発するとは思ってもいませんでした」
「私も思ってもいませんでした」
私も釣られてそう答えていた。
今やアンドレ様の溺愛は、酷いものになっていた。冷酷将軍の名残りもなく、館に帰ってきては私を愛でるのに忙しい。食事の時は隣にべったり座るし、何なら食べさせてまでくれる。館の中を歩く時も、背後霊のようについてくる。そんなアンドレ様を、館の人々が生暖かい目で見て笑っているのを私は知っている。館の人たちもいつの間にか、アンドレ様を子供のように扱うようになってしまった。
だが、アンドレ様も不安なのだろう。私がいつか死んでしまうのではないかと。その気持ちも理解出来るため、甘んじてその溺愛を受け入れていた。
アンドレ様も家ではその様子だが、一歩外へ出るといつもの冷酷……いや、冷静な将軍に戻っている。仕事は今まで以上にこなすようになったし、人柄も丸くなったと評価は上々だ。
支度を終えると、外には豪華な馬車が停まっている。アンドレ様の姿はもうなく、執事長が私の手を取って馬車に乗せてくれる。
「行ってらっしゃいませ」
執事長は笑顔で頭を下げる。
「将軍がリア様を待っていると駄々を捏ねていましたが、煩いので先に会場へ送っています。
リア様のご家族ご友人も、もう到着されているようですよ」
「ありがとうございます!」
私は笑顔で頭を下げ、馬車に乗った。そして豪華な馬車はゆっくりと街中を走り、大聖堂へと向かった。
青い空の下、聳え立つ大聖堂。初めてここへ来た日は、不安と絶望でいっぱいだった。この大聖堂はあの時と何ら変わりないが、私を取り巻く環境は大きく変わっている。アンドレ様をはじめとする大好きな人々に囲まれて、私は今人生で一番幸せだ。
「リア、本当におめでとう」
出迎えてくれたお父様は、式が始まっていないのにもう目にハンカチを当てている。そんなお父様、うちにはお金なんてないのに、豪華な一張羅を着ている。驚いてそのスーツを見るが……
「リアのおかげだよ。
お母さんの植物をシャンドリー王国が信じられない値で買い取ってくれるから、うちは一気に潤った。
おまけに、リアが時々開く演奏会で入るお金は、アンドレ様が全額うちに入れてくださっている」
「シャンドリー王国は、物価が高いですからね」
私はなにも、アンドレ様とお金のために結婚したわけではない。……いや、はじめはそうだった。だが、今は愛し愛され、アンドレ様以外の人は考えられないほどだ。
「さあ、結婚式の始まりだよ」
お父様の声に頷き、私はその腕に手をかける。開かれたバージンロードの横には、たくさんのお客様が座っている。左側はアンドレ様の友人や関係者。威厳のある騎士たちがほとんどだ。そしてなんと、国王陛下やマリアンネ殿下、ルイーズ殿下だっていらっしゃる。対して右側は……アンドレ様のお客様に勝るとも劣らない数の、私の大切な人たち。市場で会うおばさんや、幼馴染の友達、私を慕ってくれていた少年とその家族。そして、最前列には立派なドレスを着たお母様と、これまた立派なスーツ姿のお兄様。皆を見て、涙が溢れるのを必死で我慢した。
(呼べる人が少ないと言ったのに、アンドレ様がこんなにも集めてくださったのですね。
そして、皆、はるばる遠方から来てくださったのですね)
そして前方には、純白のタキシードを着たアンドレ様。頬を染めて嬉しそうに私を見ている。
「綺麗だ、リア」
(何を言われるの?
アンドレ様のほうが数万倍綺麗です)
「俺と結婚してくれて、ありがとう」
「いえ、それは私の台詞です」
「いやいや、俺の台詞だ」
「いえいえいえ……」
こほんと司祭が咳をする。それで、会場にどっと笑いが湧き起こる。何だか将軍の結婚式に相応しくない、緩い雰囲気の結婚式になってしまったが……それはそれで私らしくていいと思った。
私はこうして、今世最大級の幸せを手に入れた。このままずっと愛する人と、幸せに暮らしていきたい。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
長いお話ですが、無事完結することが出来ました。
二人が幸せになれて良かったです。
読むのも大変だと思いますが、読んでくださって本当に嬉しいです。
ありがとうございました!
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