必死の抵抗と、現れた彼
青ざめた私の耳に、笑い声が聞こえてきた。勝ち誇ったような高笑いだ。そして奥の扉が開き、なんとテレーゼ様が数人の男性とともに部屋へ入ってきた。
「あなたはいつだって目障りね。
パトリック様を奪おうとしたし、今度はアンドレ様に取り入っている」
私は呆然とテレーゼ様を見た。
傲慢な女性だと思ったが、まさかここまでの女性だとは思ってもいなかった。狙った男のために、気に入らない女の誘拐までするだなんて。そしてその罠にまざまざと嵌った自分が憎い。
「ここで貴女を自殺と見せかけて殺せば、わたくしはアンドレ様と結婚出来るかもしませんわ」
「ぱ、パトリック様は? 」
震える声で聞くと、彼女はまた高笑いをした。
「パトリック様? あんなの、保険よ。
わたくしには強くて美しい男性が相応しくてよ」
首元にかけられた硬い縄に触れる。そして思いを巡らせた。
もし私がここで死んだら、……自殺したと知ったら、アンドレ様は何を思うのだろう。きっと自分を責めて苦しむに違いない。
前世でも、私は愛する人を置いて死んでしまった。あの時は事故だったが……慎司は何を思ったのだろう。きっと自分を責めて苦しんでいただろう。
アンドレ様の前世の恋人だって自殺して、アンドレ様は今世までそれを引きずっていた。
……いや、待てよ。もしもアンドレ様が慎司だったとしたら……香織が自殺したと信じきっていたとしたら……アンドレ様から感情を奪い取り、冷酷将軍にしたのは私だ。
でも、アンドレ様が慎司のはずはない。……いや、でもその証拠はない。アンドレ様は香織のことをよく知っていたし、香織のことを話すアンドレ様は挙動不審だった。アンドレ様は香織が自分のせいで死んだと思っているから、自分が誰なのか言い出せなかったのかもしれない。
(まったく……昔から不器用で、優しい人なんですから……)
アンドレ様を思うと胸が熱くなる。それと同時に、ここで死んではいけないと強く思う。私は二度も死んで、彼を苦しめてはいけない。笑顔で帰って、大丈夫ですと伝えたい。
縄を掴みながら思い出した。前世、心配症の慎司から、護身術を教えてもらっていた。私がストーカーにつけ回されたためだ。あの時は結局慎司が現れて助けてくれたが、今日はアンドレ様が助けてくれるとは限らない。私は今世も弱い女だが、アンドレ様と過ごすことで心は強くなった。自分に自信を持つことが出来た。だから、ただでは死なない!
「さあ、泥棒猫の首を絞めて、自殺にしておしまい!」
テレーゼ様の声が響き、後ろに立っている男が縄を引こうとした時だった。私はがむしゃらに縄を払いのけ、後ろを向いてその男の股間を蹴り上げていた。力いっぱい。
将軍の妻が……元貧乏男爵令嬢とはいえ、一応の貴族の女性が、こんなことをするだなんて誰も思っていなかっただろう。油断していた男性は叫び声を上げ、股間を押さえて飛び上がった。そのすきに、部屋の隅へと逃げる。どうせ殺されるのなら、最後まで抵抗をしようと思った。アンドレ様に、自殺だとは思われたくない!!
「この女……」
股間を押さえた男はカンカンに怒っている。その後ろに、数人のガタイのいい男だっている。彼らはナイフを取り出し、私へと向けた。
「助けてください……」
アンドレ様を思って、弱々しい私の声は叫び声となる。
「助けてください!アンドレ様!!
……慎司!!! 」
その瞬間、玄関の扉がすごい音を立てて吹っ飛んだ。吹っ飛んだ扉はテレーゼ様に突撃し、彼女は叫び声をあげて倒れる。そして、開かれた扉の向こうには、眩しい外の世界を背にして立つ男性の姿が見える。
「リア!! 」
いつもは冷静な彼の、酷く焦った声が聞こえる。
「貴様ら、リアをよくも……」
まるで地獄の底から響くような怒りに満ちた声で唸るアンドレ様。その殺気に満ちた姿と声を聞くだけで、男たちは震え上がった。そして、それからは一瞬だった。アンドレ様は風のように男たちをなぎ倒し、アンドレ様に続く騎士たちが彼らを縄で縛り上げた。戦い慣れた男たちの様子を、私はただ震えながら見ているだけだった。
そんな私の名を、
「リア」
アンドレ様は震える声で呼び、ぎゅっと抱きしめる。離さないとでも言うように、きつくきつく。そして、戦い慣れているアンドレ様の体も震えていることに気付いた。
「リア……良かった。
俺は二度と君を離さないと誓ったのに……」
その大きな腕に抱かれて、その震える声を聞いて、少しずつ落ち着いてくる私。今や腰を抜かして身動き一つ出来ない私だが、男に反撃したことに我ながら驚いている。アンドレ様を思う気持ちが、私を強くしたのだろう。
だが、落ち着くとともに、どきりとした。私はアンドレ様に慎司を重ねていて、慎司の名を呼んでいた。
(まさか……聞かれていない……ですよね? )
アンドレ様を慎司の生まれ変わりだと気付いてしまった。その事実を彼が知れば、彼はどんな顔をするのだろう。何より、今の関係性が崩れてしまいそうで怖かった。
だが、アンドレ様はすっかり落ち着きを取り戻しているようで、腰を抜かしている私を軽々抱き上げる。ぐんっと視界が高くなり、目の前にはアンドレ様の綺麗な顔。
「ま、待ってください!お、お姫様抱っこだなんて!! 」
焦る私と、すっかり平常運転のアンドレ様。私を甘い目で見下ろしながら、そっと告げた。
「今は抱かせてくれ。
君を離したくないんだ」
アンドレ様はずるい。そんなことを言われると、逆らえなくなってしまうことを知っているのだから。そして、アンドレ様は騎士たちに男たちとテレーゼ様を捕らえるように命令し、私を抱き抱えたまま家を出た。
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