絶対に離さないから
フレデリク様のおかげで、マリアンネ殿下のことを必要以上に考えずに済んだ。そして、家に帰ると狂ったようにピアノを弾く。ピアノを弾いていると、余計なことを考えずに済む。ただピアノに集中することが出来る。こうして私は、前世も悩み事がある際は、狂ったようにピアノを弾いていたのだ。
どれくらいピアノを弾いていたのだろう。気付けば日が沈み、家の中に灯りが灯っている。私のピアノを聴いていた使用人たちも飽きてしまったのだろう、周りには人影も無かった。静かになるとやはりアンドレ様とマリアンネ殿下が思い浮かんでしまい、また鍵盤を押さえる。ピアノは私の心を反映してか、荒々しい音を立てて唸った。
(こんなではいけません……)
深呼吸した時、
「リア!」
大好きなその声が聞こえ、手をぎゅっと掴まれる。
「あ、アンドレ様!お帰りになられていたのですね」
思わず手を引こうとするが、手を掴まれていて動かない。そして、アンドレ様は私の腫れた手をそっと引き寄せ……その指に口付けする。
「!!!? 」
咄嗟の出来事で身を引こうとするが、アンドレ様は離してくれない。そして私の指に唇を付けたまま、甘い声で聞く。
「どうしてこんなになるまで練習するのか?
君の演奏がすでに素晴らしいことは、皆知っている」
「で……でも!
ピアノというものは、すぐに上達するものではありません。一日一日のその訓練が、ようやく実を結ぶのです」
アンドレ様の菫色の瞳で見られると、心の中を見透かされそうだ。この醜い嫉妬心までバレてしまいそうで……だが、アンドレ様の唇が甘くてくすぐったくて……
「まったく。君は昔から無茶ばかりする……」
そう言ってアンドレ様ははっとして付け足した。
「……と、君の恋人も言っていた」
「その恋人は、今の私とは全く関係のないものです。
ですが、今の私も不安になっていまして……」
アンドレ様の瞳で見られると、隠し事すら吐き出してしまう。私のこの不安も全部受け止めてくださると思えてくるのだ。アンドレ様の優しさに甘える自分が憎い。
「アンドレ様は……その……魅力的なかたですから……
私なんて、何の魅力もない女性ですから……アンドレ様が、他の女性を好きになっておられるのではないかと……」
アンドレ様はぽかーんと私を見た。そして、面白そうに吹き出した。
「それでも、俺にはリアしかいないんだ」
そのまま手を引かれ、その大きな胸に包まれる。痩せているように見えるアンドレ様は、実は驚くほど筋肉質だった。その硬い体で思いっきり抱きしめられる。ドキドキして熱くって、これ以上触れていると火傷してしまいそうで。アンドレ様の体を離そうとするが、びくともしない。
「絶対に離さないから。一生大切にする」
耳元で囁かれて、頭が沸騰してしまいそうだ。そうも甘く切ない声で告げられると、信じてしまいそうになる。マリアンネ殿下との関係は、何かの間違いだと思ってしまう。
「俺だって不安なんだ。
君が可愛いから、他の男に狙われていないかと……」
私の鼓動はどくどくと早鐘を打った。そして、体を通して感じるアンドレ様の鼓動も、同じように速かった。
「愛してるよ、リア」
消えるような声で囁かれるその言葉が、どうか心からの言葉であって欲しいと願った。
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