長い旅が終わりました
こうして二人で街を歩き、たくさん話をし、幸せを噛み締めた。形だけだった夫婦だが、今は本当の夫婦になっている。何より、あれだけ冷たかったアンドレ様の愛を感じるようになってきた。信じられないし、嬉しい。
だが、困ったこともある。アンドレ様はやはり、私との価値観も違う。店を回りながら、私がいいと思ったものはすぐに買ってしまうから……無欲を貫いた。それでも、アンドレ様はたんまりと買い物袋を下げ、崩れ落ちそうなフルーツの入った籠を持っている。
そして、
「あ、アンドレ様!私も持ちます!! 」
大量の荷物を持たせて焦る私を涼しい顔でかわすアンドレ様。
「リアは黙って持たせていろ。
……俺が持ちたいんだ」
駄目だ、そんな言い方反則だ。ますますアンドレ様を好きになってしまう。こうして、新たなアンドレ様を発見するたび、アンドレ様に優しくされるたび、どんどん恋の深みにはまっていくのであった。
こうして私はアンドレ様との楽しいひとときを過ごし、シャンドリー王国への帰路へついた。馬車に乗るとどっと疲れが押し寄せてくる。そしていつの間にかアンドレ様に寄りかかり、目を閉じていた。アンドレ様が眠っている私にそっと口付けしたことを、私は知らなかった。
◆◆◆◆◆
大量の荷物とともに家に帰ると、使用人たちは驚いていた。それよりも、アンドレ様の私に対する態度にも驚いていた。
「疲れただろう、リア」
アンドレ様は甘く優しい声で告げ、そっと私を支えて歩いてくださる。そして、館の人に告げる。
「リアに温かい飲み物を。そして落ち着いたら、湯浴みの支度を」
バリル王国へ行く前は、大切にされているとはいえ、まだ家族のような距離感ではなかった。だが、今はその距離感がぐっと縮まっている。家族というよりは、むしろ恋人……そう思うと顔がにやけてしまう。今ではアンドレ様に大切にされていることがよく分かるし、その好意も分かる。それがとても嬉しかった。
温かい飲み物を飲み一息つくと、湯浴みの準備は整っていた。
「一人で出来ます!」
慌ててそう言うが、
「まあまあ、リア様」
マリーは君の悪いほどの笑顔だ。そして、ヴェラが告げる。
「将軍と何があったのか教えてくださいね」
(やっぱりそう来るのですね……)
だが、二人の期待するような話は何もないのが事実。結果的に、期待に期待した二人をがっかりさせることとなってしまう。
「まあ、リア様。さすがに将軍も期待されたのではないですか?
それなのに、すぐに寝てしまうなんて……」
額に手を当てて首を振るヴェラ。
「そ、そんな……期待だなんて……」
アンドレ様とそんな関係になるなんて、考えたこともなかった。両思いですらほど遠いと思っていたほどだ。だが、私の考えがいかに浅はかだったか思い知る。妻となったということは、そういうことだ。いつかアンドレ様と、そんな関係になってしまうかもしれない。
(私に耐えられるでしょうか。
今ですらキュンキュンしっぱなしなのに)
アンドレ様のことを考えていると、体の奥が甘く疼いた。はしたないと思い、大慌てで話題を変える。
「アンドレ様、優しいですよね。
将軍をされていますが、強いのですか? 」
それは愚問だった。私は愚かなことを言っていたのだろう。マリーとヴェラは顔を見合わせて失笑する。
「優しいのは、リア様に対してだけですよ」
「将軍が強いかどうかは、すでにリア様も知っておられるのではないですか? 」
それはそうだ。パトリック様が来た時も、一瞬でパトリック様を倒してしまった。それに人々がアンドレ様を恐怖の瞳で見るのも、ただ態度が冷たいという理由だけではないのだろう。
「将軍は、よく近衛騎士団の訓練に参加されています。関係者は見学自由なので、リア様も見に行かれてはどうですか? 」
「えっ、いいんですか!? 」
思わず聞くと、マリーは笑いながら頷いた。
「もちろんです。だってリア様は、将軍の奥様なのですから」
(そうか……奥様なんだ……)
改めてそれを実感する。そしてアンドレ様を思うと、また顔がにやけてくるのだった。
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