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本当は優しいアンドレ様

 すっかりアンドレ様の虜になったお父様と、宮廷の仕事から帰ってきたお兄様はがんがん酒を飲み、アンドレ様のことをしきりにいい男だと褒めている。そしてお母様は始終真っ赤な顔をしている。お酒を飲んでいる訳ではなく、アンドレ様に酔っているのだろう。対してアンドレ様はほとんど酒を飲まず、いつも通りだ。アンドレ様と家族を比べて恥ずかしく思うほどだった。



「リアが幸せそうで本当に良かった」


 涙をこぼしながらまたまた酒を飲むお父様。お父様は冷酷将軍と嫁ぐ私のことを、とても心配してくださっていた。罪を被るから、婚約を破棄してもいいだなんて言ってくださった。そんなお父様は、ずっと私のことを気にしてくださっていたのだろう。


「もう、お父様、飲みすぎです。

 お酒はやめましょう」


 止めに入ろうとしても、全然聞かない。


「リアはこれといった特技もなく、家で贅沢な暮らしも習い事もさせてあげられませんでした。

 それなのに……」


 泣きながら呟くお父様に、アンドレ様は少し驚いたように言う。


「ですが、リアはピアノがとても上手で、私もよく聴かせてもらっています」


 その瞬間、


「「「ピアノ!? 」」」


三人が驚いたように声を合わせた。


「ご、ご冗談を、アンドレ様!」


「リアがピアノ!? そんなものを習わせてあげられれば、リアももう少し自信を持って暮らせたに違いありません!」


「何かと内気で引っ込み思案な妹ですが……ピアノ!? 」


 当然驚くのも無理はない。この家にはもちろんピアノなんてものはないし、私はアンドレ様に嫁ぐまで、ピアノなんて弾いたことはなかったのだ。

 この様子にアンドレ様は一瞬驚いたが、すぐに笑顔になる。


「それでしたら、リアは私に聴かせてくれるため、練習してくれたのでしょう」


 前世の記憶だということは、アンドレ様も理解してくださっている。だが、こうして波風立たせないでいてくださる心遣いがとても嬉しい。


「それに、こんなに素敵なご両親に育てられたため、リアはまっすぐで優しい女性に育ったのだと思います。

 私はリアに会えて、生きる楽しさを知りました。リアを産んで育ててくださり、ありがとうございました」

 

 胸が痛い。アンドレ様の一言一言が、胸にじーんと響く。そして、あぁ、やっぱりアンドレ様が大好きだと思ってしまう。

 私もアンドレ様に会って、少し自分に自信を持てるようになった。そして、生きていくのが楽しいと思った。


「こちらこそ……リアには苦労ばかりかけましたが、そんなことを言ってくださってありがとうございます」


 お父様は涙を拭きながら、頭を下げる。

 確かに私は豪華な暮らしは出来ず、パトリック様と釣り合わない縁談を組まれたり、挙げ句の果てにシャンドリー王国に飛ばされたりもした。だけど、貧乏ながらもお父様やお母様、お兄様にたくさん愛されて生きてきた。だから縁談を組まれた時も、恩返しがしたいという一心だった。

 私は不器用な女性だから、両親に心配をかけてばかりだった。だが、こうやって幸せな姿を見せることで、ようやく恩返しが出来たと思う。



 飛ぶように時間が過ぎ、街の灯りも少しずつ消えていく。私は時計を見、酔っ払っている家族に告げた。


「そろそろ夜も遅くなりますから、私たちはそろそろ休みます」


「そうか。それなら、二人は二階の角部屋を使ってくれ」


 真っ赤な顔でまた酒を飲むお父様に、慌てて聞く。


「あそこは私の部屋で……アンドレ様は? 」


 すると、お父様はだらしなく机に突っ伏しながら答えた。


「何を言ってるんだ。リアはアンドレ様と夫婦だろう? 夫婦というものは、一緒に眠るのではないか? 」


 確かにお父様とお母様は一緒に眠っている。それはこの家が狭いのもあるし、仲良しだからだ。でも、アンドレ様と私は……いや、仲良しであることには変わりないが……

 色々考えると真っ赤になってしまう。結婚したものの、私たちの関係は、少しずつ夫婦に近付いている途中だ。


 (それなのに、いきなり同衾だなんて、ハードルが高過ぎます)


「ごめんねー、リア。二階は全部、観葉植物の温室になってるのよ」


「えっ!? 観葉植物!? 」


 驚く私に、赤い顔のお兄様が笑いながら教えてくれる。


「母上はこの観葉植物を売って商売を始めたんだ。

 ……といっても、少しの生活の足しにしかならないが」


「そうなんですね……」


 お母様が家計を思って始めたのか、それとも趣味の範囲なのか分からないが……いずれにせよ、アンドレ様と同室は変わらないのだろう。私はこんなにも動揺しているのに、アンドレ様は涼しい顔だ。そしてそのまま笑顔で告げた。


「それでは行くとしようか」


「は、はい」


 アンドレ様はそっと私の肩を抱き、振り返ってお母様に告げる。


「その観葉植物は、私も買ってもいいでしょうか。

 ……いや、我が国に売っていただくのはどうでしょうか。

 我が国では、このような綺麗な花や木を育てられる人は少ない」


 アンドレ様はこの家の経済状況を知っても、引くことはしなかった。それだけでなく、お母様の趣味の観葉植物をシャンドリー王国に売ることも提案してくださった。冷酷将軍だなんて言われたりもするが、本当のアンドレ様はとても優しい。そして、日に日にアンドレ様を好きになっていくのだった。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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