私の家族とアンドレ様
結局、私はアンドレ様に迷惑をかけてばかりだ。こんな自分が嫌になる。
「アンドレ様……」
声が震えないように必死で気を配り、告げる。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
こんな私に、アンドレ様はやはり優しい。
「そんな顔をするな、リア」
低く甘い声で告げ、そっと頬に触れる。それでまた、情けない顔をしていることに気付いた。
(アンドレ様に心配ばかりかけて、いけませんね)
落ち込む私に、アンドレ様はそっと告げる。
「そもそも、俺が護衛にきちんと指示を出しておかなかったのがいけなかった。君が自由に行動したいだろうと思い、君の身が危険な時以外は止めに入らないよう指示していた。
だが、君とあの女性との会話は、全て護衛たちが聞いている。その話を国王にも話し、バリル王国を牽制することが出来そうだ」
いつもの優しいアンドレ様を見ると、ホッとして涙が出てきそうだった。テレーゼ様には散々な言われ方をしたが、アンドレ様は私を信じてくださった。その事実が嬉しかった。
「いずれにせよ、会議ももう終わるところだったし、ちょうどいいタイミングだった。
これから俺は、君のご両親に挨拶しに行くつもりだ」
予想外の言葉に、
「えっ!? 」
戸惑いを隠せない。というのも、アンドレ様が実家に来られたら、あまりの貧乏さに卒倒するかもしれないからだ。何を隠そう、アンドレ様は地位があるうえに、次期公爵だ。釣り合わないのは分かっている。
(もしかしたら、離婚とか……
いや、でも、ここはアンドレ様を信じるしか無いです)
「大丈夫だ。ご両親には今日の訪問を手紙で知らせているし、ちゃんと挨拶しておかなければ」
アンドレ様がここまで大切にしてくださることが嬉しかった。壁を作っていたアンドレ様がこうも心を開いてくださって、私はとても幸せだ。
「ありがとうございます」
笑顔で答える私に、アンドレ様はそっと手を差し出す。その大きな手を、ぎゅっと握っていた。
◆◆◆◆◆
王都の中心部から少し外れた場所に、ブランニョール家はあった。男爵とは名ばかりで、領地もなく、城で下働きをして生計を立てている貴族だった。ただ、父親は地味で堅実な性格のおかげで、人望には恵まれていた。そのおかげでパトリック様との縁談が上がったのかもしれないし、本当にパトリック様の遊びだっただけかもしれない。その詳細は知らないが、今さら知らなくてもいい。
「アンドレ様……狭い家で申し訳ありません」
柵の向こうには小さな庭。小さいが、庭には色とりどりの花が溢れている。その奥に、これまた寂れた家が見える。微かに暗くなり始めたため、家の窓から灯りが漏れている。見慣れた光景だが、酷く懐かしく感じた。
門を開けようとした時……
「あら、リア!? 」
聞き慣れた声がした。そして、この声を聞くと懐かしくて泣いてしまうかと思ったが……意外と平気だった。それは今、アンドレ様と幸せな日々を過ごしているからに違いない。
「お母様、ただいま帰りました!」
振り返ると、後ろには見慣れたお母様の姿。大きな籠を抱え、籠からはパンやら野菜やらがはみ出している。そしてお母様は半ば怯えたようにアンドレ様を見たが……
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
アンドレ・ルピシエンスと申します」
アンドレ様は丁寧に挨拶し、頭を少し下げる。そんなアンドレ様を見て、お母様もやはり想像と違ったのだろう。真っ赤な顔になり、どさっと籠を落とす。
「あ、ああああらやだ!」
お母様は真っ赤な顔のままあわあわしている。
「わっ、私、こんな服装ですし!
来られるのは夜かと思っていまして!! 」
「予定が早く終わりましたので。早く来てしまい、お騒がせして申し訳ありません。
準備が整っていないようでしたら、リアと近くを散歩して参ります」
「い、いえ!いいんです!! 」
お母様はそのまま真っ赤な顔でばたばたと家へと駆け込んでしまい、それから家の中からきゃあきゃあわあわあと声が聞こえる。そんな様子を恥ずかしく思う。アンドレ様は家柄もいいから、さぞや驚いているに違いない。ちらりとアンドレ様を見上げると、少し口角を上げて笑っている。そんなアンドレ様の様子に嬉しくなるのだった。
こうして、私の家族は想像と違うアンドレ様を迎え入れ、すぐにファンになってしまった。きっと、テレーゼ様が言われたような、極悪非道の冷酷将軍を思い描いていたのだろう。本当のアンドレ様は紳士的だ。加えて容姿端麗。ファンにならないはずがない。
確かにアンドレ様ははじめ、私を拒絶していた。だが、こうやって少しずつ近付くにつれ、アンドレ様の第一印象は誤解だったと分かる。本当のアンドレ様は優しくて、正義感あふれて、そして甘い。
アンドレ様は私の実家を見て逃げ出すことも出来るのに、家族と同じように席に座り、同じものを食べ、同じように笑ってくださった。それがとても嬉しかった。
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