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館での、意外と楽しい生活

 アンドレ様には想像以上に拒否されたが、アンドレ様以外の皆は想像以上に好意的だった。おそらく、アンドレ様の妻となった私に同情しているのだろう。


 アンドレ様との生活の場である、アンドレ様の私邸に案内された。ブランニョール家とは比べられないほど大きくて豪華で、玄関にはずらっと使用人が並んで私を迎えてくれる。


「奥様、おかえりなさいませ」


 使用人たちは口々に告げ頭を下げるが、その後には決まって哀れみのこもった視線を感じるのだ。だから私は努めて元気に振る舞う。


「これから、よろしくお願いします」




 ブランニョール家には、使用人なんていなかった。貧乏であるため、雇えないのだ。だから、使用人がいる生活なんて慣れなくて緊張してしまうのだが……


「リア様の専属メイドの、マリーとヴェラです」


 メイドたちだって緊張しているようだ。明らかに緊張した面持ちで、自己紹介をする。


 (緊張しているのはお互い様ですね)


 私は笑顔で彼女たちに頭を下げた。





 数時間後……



「わぁ!マリー、この髪型とてもお洒落ですね!!

 今度私にも、ヘアアレンジ教えてください!」


 私は見事にメイドたちと仲良くなっていた。メイドたちはアンドレ様の妻である私を不憫に思っているのだろう、信じられないほどの神対応なのだ。だから、私も負けじと丁寧に対応する。


「リア様、貴女は軍最高司令官の妻です。ヘアアレンジなんて、自分でされなくても……」


「いや、私がやりたいのです。

 むしろ、マリーの髪が綺麗だから、私が編んで差し上げたいほど!」


 こうやってメイドたちと話していると、一人ではないんだと気が楽になった。アンドレ様は歓迎してくれないが、メイドたちは仲良くしてくれる。その事実が心強かった。


「さあさあ、リア様。明日のお召し物はどれにされますか?

 リア様が着られるよう、明日までにサイズを直しておきます」


「おっ、お構いなく!サイズが合わなくても着られます!」


 私は慌てて告げる。こんな極上のドレスを、私のサイズに合わせて仕立て直してくれるなんて。なんという特別待遇だろう。ブランニョール家ではドレスは数着しかなく、普段は平民服を着ていたほどだ。

 それでも、開かれたクローゼットの中に素敵なドレスが何着もかかっているのを見ると、胸がときめいてしまう。


「このピンクも可愛いです!あっ、こちらのブルーも……」


「どれでもどうぞ。リア様はこれから、この館の住人ですから」


 その言葉を聞いてようやく実感した。


 (そうか。私、アンドレ様と結婚したんですね)


 アンドレ様があまりにも塩対応だから、結婚したという事実が信じられなかった。だが、こうやって館の人たちと会い、リア様なんて呼ばれると、少しずつ実感してくる。


 (アンドレ様とはお近付きになれませんが、こうやって皆さんに囲まれて幸せです)


 思わず笑ってしまうのだった。




「リア様。将軍は無愛想なかたですが、私たちがいますからね」


 ヴェラが満面の笑みで私の手を握ってくれる。


「辛いことがあったら、いつでも言ってくださいね」


 マリーが心配そうに言う。そんな二人に、私も笑顔で答えていた。


「辛くなんてありません。私は、こんな素敵なかたたちに会えて、とても幸せです」






 次の日の朝。


 大きなベッドでぐっすり眠った私が起きたのは、太陽が真上に来る頃だった。

 眩しい光で目を覚まし、がばっと身を起こす。そして周りを見て、改めて結婚したことを思い知った。


 広いふかふかのベッドに、大きなソファーやドレッサー。大きな窓からは、広大な庭が見えた。そしてその庭の木々を、黒い服を着た使用人がせっせと剪定している。


 (うわっ、初日から寝坊してしまいました)


 私は慌ててベッドを降り、部屋の扉を開ける。すると、扉の向こうには、にこにこ笑顔のマリーが立っていた。


「リア様、おはようございます」


 丁寧に頭を下げられるものだから、私もおはようございますと頭を下げる。


「すみません、寝坊して。今、何時ですか? 」


「お昼の十二時を少し回ったところです」


 マリーは笑顔で告げるが……


「じ、十二時!? 」


 初日からやってしまった。想像以上の大寝坊だ。朝から妻の私が現れないから、アンドレ様もお怒りだったかもしれない。


「す、すみません!!」


 私は必死に頭を下げていた。


「私が来ないから、アンドレ様もお仕事に行かれましたよね!? 」


 マリーは少し哀れみのこもった瞳で私を見る。そして、静かに告げた。


「将軍は仕事に行かれました。

 ……ですが、人と関わることを嫌うお方です。お食事は自室で取られますし、リア様が起きてこられなくても、彼は何も思われません」


「……え? 」


「申し訳ありません。本当は、こんなことを告げたくなかったのですが……」


 私たちの間に、沈黙が舞い降りた。拒絶されているのは知っているが、まさかそこまでだとは思わなかった。これは完全な家庭内別居だ。

 だが、パトリック様と結婚し、不倫だの愛されていないだの悩むより、このほうがずっとマシだとも思う。何より、マリーやヴェラの存在に癒されているのも事実だ。


「分かりました」


 私は笑顔で答える。


「私も、アンドレ様の足を引っ張らないように生活します!」


 こんな私の言葉を聞き、使用人たちは驚いたように顔を見合わせるのだった。

 


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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