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彼と離れるのが、こんなにも辛いだなんて

 それから数日後のことだった……ーー


 いつものようにアンドレ様と夕食を食べる。今日の食事はハンバーグだ。マリーとヴェラと一緒に、アンドレ様が喜んでくださると思って作ったのだが……


 アンドレ様は、浮かない顔でハンバーグを口に運ぶ。


 (も、もしかして、不味いのですか!?

 いや、不味いはずはないです。三人で味見しましたから!!)


 私があまりにもアンドレ様を凝視しているからだろうか。とうとう私の視線に気付いたアンドレ様が、


「……リア、どうした? 」


不思議そうに私に聞く。それでも、アンドレ様のハンバーグは全然減っていない。耐えかねた私は、とうとう聞いてしまった。


「お口に合わないですか? 」


「……え? 」


「ハンバーグ……」


 アンドレ様は、ハンバーグと私の顔を交互に見る。そして、思わず吹き出して笑う。


「リアが作ってくれたのか。だから、やたら大きかったのか」


「お、大きい!? 」


 確かに、アンドレ様はたくさん食べなきゃと思って大きなハンバーグにした。マリーとヴェラは止めたが、アンドレ様なら喜んでくださると思って。


 (ありがた迷惑でしたね……)


 しゅんとする私を見て、


「美味しいよ、リア」


笑いながら告げるアンドレ様。その様子がわざとらしくて、さらにショックを受けてしまう。


 (アンドレ様にまで気を遣わせるなんて、私は妻失格です)


 それなのに、アンドレ様はこれまた優しい言葉をかけてくださる。


「リアの作るものは、なんでも美味しいよ」


「!? 」


 私は顔を真っ赤にして、カシャーンとカトラリーを落としてしまった。そのやたら高い顔面偏差値で、甘い言葉を囁かないでいただきたい。本当に、勘違いしてしまうから!!


 取り乱している私を見て、アンドレ様は楽しそうに笑う。そんなアンドレ様の笑顔を見ると、私だって笑ってしまった。


 不思議なものだ。つい最近まで、アンドレ様は冷たくて近寄り難い存在だった。でも今は、アンドレ様といると心地よい。楽しい。私たちは本当の夫婦になりつつある。




 アンドレ様はおかしそうに笑いながら、ハンバーグを切って口に運ぶ。


「明日から、急用が入った。国境の街で争いが起こった。

 俺は軍事総司令官として、その地に行かなければならない」

 

「えっ!? 」


 つまりそれは、戦地に赴くということだろうか。私は、アンドレ様の立場をすっかり忘れていた。彼は国軍の将軍なのだ。国が危険に晒されれば、当然我が身を犠牲にする立場。立派な地位には、大きな危険が伴っている。


「しばらく君に会えないから寂しい」


「アンドレ様……」


 まさか、アンドレ様の口から、そんな言葉が飛び出すとは思ってもいなかった。そして、もちろん私だって寂しい。でも、引き止めはしない。私が寂しいと泣いたところで、アンドレ様を困らせるだけだということは分かっている。


 私は努めて笑顔を作る。そして、アンドレ様に告げた。


「お体にお気をつけください」


 言葉を紡げば紡ぐほど、アンドレ様が遠くに行ってしまうという現実を理解する。それでも、必死に笑顔で告げた。


「必ず戻ってきてください!」


 アンドレ様は、ふっと目を細めて笑う。最近頻繁に見るこの笑顔は、私の心を甘く溶かしていく。堕ちないようにと気をつけているが、隙さえ見せればときめいてしまう。


「リアも……その……」


 アンドレ様は少し頬を染めて、言いにくそうに告げた。


「死ぬな」


「……え? 」


 予想外の言葉に、アンドレ様をぽかーんと見る。アンドレ様はなんだか少し不安そうで、思わず吹き出してしまった。


 (あんなに他人に興味のなかったアンドレ様が、こんな顔をされるだなんて……)


「死にません。私は、元気にアンドレ様をお待ちしています」


 アンドレ様はホッとしたような表情で私を見る。そんなアンドレ様に、私はまた笑顔を返していた。


 あぁ、そうか。アンドレ様は、愛する彼女に先立たれてしまったのだ。今まで一人で抱え込んで、一人で戦ってこられたのだろう。だけど私は、アンドレ様に告げたい。もう、一人ではないのだと。


「私の心は、アンドレ様と共にいます」



 アンドレ様は、泣いてしまいそうな顔で私を見た。冷酷だと言われた彼だが、実は人に感情というものを見せないようにしていただけだ。私は、一人で戦ってきたアンドレ様の、良い理解者になりたい。そして告げたい。アンドレ様はもう、一人ではないのです、と。




 この夜、私は徹夜をした。そして、アンドレ様のためにミサンガを編んだ。

 ミサンガとは、サッカー部だった慎司が、大切な試合の時に身につけていたものだった。私は慎司の卒業アルバムでそれを知り、自衛隊の長期訓練の時には必ずそれをお守りとしてプレゼントしていた。


「これ、するのかよ。恥ずかしい」


 なんて言いつつも、慎司は大切に手に付けてくれていた。


 もちろん、今は慎司の思い出を引きずっている訳でもないし、アンドレ様に慎司を重ねているわけでもない。ただ……無事でいて欲しかった。せっかく夫婦になりつつあるのに、これでお別れだなんてことは、考えただけでも辛かったのだ。


 


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