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元貧乏男爵令嬢が、全力で社交します

 国王陛下は笑顔でアンドレ様に話しかける。


「アンドレ。お前もいい妻をもらったな。

 リアの評判は宮廷内でも聞いている。ピアノが上手で、我が娘ルイーズも大層懐いているようだ」


 私は思わず国王の後方にいるルイーズ殿下を見る。ピンク色の豪華なドレスを着ている可愛い彼女は、満面の笑みで私を見ている。


「結婚願望のないお前に、隣国からの妻を無理矢理当てがって、お前の気持ちは大丈夫かと不安に思っていた。だが、結果は杞憂であったな」


「はい……素晴らしい妻を、ありがとうございました」


 アンドレ様の予想外の言葉に、身体が震える。アンドレ様は本心からそう思っていないのは明らかだが、なんと私を褒めてくださった。国王の手前、そうするしかないことは分かっているが、なんだかくすぐったい気持ちになる。そして、そのアンドレ様の言葉を聞いて、ルイーズ殿下はお付きのものと嬉しそうに顔を見合わせるのだった。

 その他の聞いている人たちは、驚いたように顔を見合わせている。アンドレ様が私を褒めたことが予想外だったのだろう。何を隠そう、私だって予想外だ。

 



 こうして国王への結婚の報告を終え、私はとうとう自由の身となる。緊張しすぎて今朝からほとんど何も食べていない私は、ようやくお腹が空いていることに気付いた。

 改めてホールを見回すと、中央ではたくさんの男女が踊っており、壁際には豪華なご馳走が並んでいる。


 (わぁ……!! バリル王国の舞踏会よりも、さらにご馳走がたくさんです!!)


 空腹の私は皿を片手に思わず駆け寄り、壁際一面に置かれているご馳走を見回した。


 (見たことのないパスタに、美味しそうなパンがたくさん。

 具がゴロゴロ入っているシチューに、新鮮なサラダまで……!!

 ローストビーフを取り分けてくださるライブキッチンまであります)


 私はさらにたくさん料理を盛り、それを堪能した。料理はどれも繊細な味付けで、とても美味しかった。思わず微笑みながら食べてしまう私は、怪しい女だろう。




 しばらくそうやって食事を堪能していると……


「リア様」


知らない女性たちに名前を呼ばれた。それではっと我に返る。


 (私、今はアンドレ様の妻でした。

 アンドレ様の存在を無視して、一人食に走ってしまいました……)


 新婚の妻が一人でもりもり食べているところを見ると、人々はどう思うかと咄嗟に気付いてしまった。きっと、はしたない女だとか、夫に相手にされない女だとか思うのだろう。

 バリル王国にいる時は、貧乏男爵令嬢の私に興味を持って話しかける人などいなかった。でも、今は立場が違うのだと思い直す。


 私は慌ててカトラリーを置き、笑顔を作って立ち上がる。すると、前には私をあざ笑う女性たち……ではなくて、心底心配したような表情の女性たちがいたのだ。


 彼女たちはそのまま私に話しかける。


「隣国のリア様がアンドレ将軍の妻になられた話で持ちきりです」


「大丈夫ですか? ……貴女は、アンドレ将軍なんかと結婚してしまって」


 予想外の言葉に目を丸くした。私は、むしろ私が非難の的になるかと思っていたのだ。こんなにはしたない貧乏女が、国の国軍総指揮官の妻になってしまったから。それなのに、彼女たちは私を心配してくれるのだ。


「はい……」


 私は笑顔で答えながらも、心臓はドキドキと言っている。


 (まさか、貧乏な私がアンドレ様の妻になってしまったから大丈夫? と聞かれている訳ではないですよね? )


 だが、その心配は杞憂に終わったのだ。彼女たちは心底同情するような顔で、口々に私に告げる。


「アンドレ将軍って……ほら、いかにも怖そうじゃないですか。

 リア様が苦労されているのではないかと思って」


「私の家にもアンドレ将軍との縁談が来たのですが、アンドレ将軍と私を結婚させるのが嫌で、お父様が断ってくれましたの」


 そうなのか……アンドレ様が冷たいという噂は、バリル王国まで広がっていたが、この国の人々はこんなにもアンドレ様を恐れているのだと分かった。

 確かに私もアンドレ様から拒絶されていたが、親切な人々に囲まれ、毎日が苦ではない。それに、演技とは分かっているが、今日のアンドレ様は私を大切にしてくださった。


「私はとても幸せです」


 彼女たちに笑顔で告げる。


「こんな私なのに、みなさんとても親切で……それに、今日のアンドレ様だってとても優しくて。

 私は幸せです」


 私を見て、彼女たちは少し表情を緩める。私が今の生活に満足している事実を告げると喜んでくれる、そんな彼女たちにも救われた。私はこうも良い人たちに囲まれて幸せだ。


 私は笑顔で告げたあと、まだまだ食べきれていない食事があることを思い出す。お腹が空いている私は、笑顔で彼女たちに告げた。


「私、まだお食事を食べきれていなくて。

 とても美味しいので、もう少し食べていてもいいでしょうか」


「まぁ……」


 彼女たちは一瞬驚いた表情になる。それで、淑女としてはしたない言葉だったかもしれないと後悔する。だが、出されている料理はどれも美味しすぎて、空腹の身には我慢なんて出来ないのだ。


「シャンドリー王国は、美食の国とも言われているのです。特に宮廷には、凄腕の料理人が揃っていますもの」


「私のおすすめは、シャンドリー王国の郷土料理の海鮮シチューですわ」


 彼女たちはそう言って、笑顔で新しい料理を持ってきてくださる。そして私は丁寧に礼を言い、それらを堪能した。


 (さすが美食の国。どれも頬が落ちるほど美味しいです……)




 こうやって思う存分食べ、幸せ気分を味わっている時だった。いつの間にか舞踏の音楽は止み、踊っている男女もいなくなったことに気付いた。


 (もうおしまいですか?

 ……それとも、私が時間を忘れて食べ続けていたのでしょうか)


 だが、いつの間にかホールの奥には大きなピアノが出され、偉そうな男性がホールの中央に立って話し始めたのだ。ピアノが出されていることに気付いてしまった私は、なぜかドキドキと鼓動が速くなるのだった。



いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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