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一難去って、また一難

 フレデリク様はまだまだ私と話したそうだが、アンドレ様からは冷たい空気をひしひしと感じる。その刺すような冷気を、フレデリク様は感じないのだろうか。


「ごめんねー。リアもアンドレの反応に悲しんでいるんじゃない?

 でも、アンドレの無愛想は生まれつきだから」


 反応に困る。ここでフレデリク様の言葉を肯定すれば、アンドレ様を貶すことになる。私としてはそれは避けたい。そして、いきなりリアと呼び捨てにされて戸惑ってしまう。


「俺だったらいつでも相談に乗るからねー」


「あ……ありがとうございます」


 笑顔でお礼を言いつつも、少し後退りしてしまった。というのも、やはりフレデリク様がぐいぐいと近付いてくるからだ。


 私がこうしてフレデリク様と話している間にも、隣にいるアンドレ様からは刺すような視線を感じていた。そして、その視線が一向に消えないため、とうとう私は彼のほうを見てしまった。


 アンドレ様は私を睨んでいたのは確かだった。視界の隅で、その姿を捉えていたからだ。だが、私がアンドレ様のほうを見ると、彼はぷいっとそっぽを向いてしまう。これがいわゆるツンデレというものだろうか。いや、そんなはずはない。

 私がまじまじとアンドレ様を見ているものだから、彼もその視線に耐えられなくなったのかもしれない。再び私に向き直った彼は、やはり冷たい瞳をしていた。そして、怒りすら感じられない冷たい声で、私に聞く。


「それで、君はここに何をしに来た? 」


 (私なんかに興味のないアンドレ様が、初めて質問をしてくださいました!)


 思わず舞い上がりそうになるが、まてよと思い直す。私がルイーズ殿下にピアノを教えていたと告げると、アンドレ様は激怒するかもしれない。何しろ、私がピアノを弾くことを良く思わないからだ。

 だが、夫であるアンドレ様に嘘をつくわけにもいかず、遠慮がちに告げた。


「ルイーズ殿下にピアノを指導させていただきました……」


 アンドレ様は一瞬驚いたような顔になる。無表情のアンドレ様が、感情を顔に表すことがあるのかと驚きを隠せない。

 だが、次の瞬間、やはり無表情に戻る。そして、相変わらず冷たい声で告げた。


「ここには危険な奴もいるかもしれない。

 くれぐれも注意してくれ」


 (……え!? アンドレ様、私のことを心配してくださったのですか?)


 思わず舞い上がる私。その隣で、


「おっ、ちゃんと愛してるじゃん!」


フレデリク様が楽しそうに言う。その言葉に浮かれそうになったが、現実は甘くない。アンドレ様は表情一つ変えず、先ほどと同じ冷たい声で告げたのだ。


「そういうことではない。

 ただ、私の足を引っ張るなと言っているんだ」


 そのまま踵を返してすたすたと去ってしまう。怒りさえ表に出さず、ただひたすら冷たいアンドレ様の後を、


「おい、待てよ!! 」


フレデリク様が追いかける。そして私は、彼らの後ろ姿をずっと見ていた。


 (そうですよね……アンドレ様が簡単に心を開いてくださるとは思いません。

 ですが、今日は私と話をしてくださいました)


 それだけで大収穫だと思った。アンドレ様の言うように、館の外では危険なことに巻き込まれないように気をつける。そして、アンドレ様の足を引っ張らないようにする。そう頑張っていれば、またいつか話をしてくれるかもしれない。





 館に戻ると、笑顔のマリーとヴェラが迎えてくれる。宮廷では気を張りっぱなしだった私は、彼女たちを見ると気が緩み、どっと疲労が押し寄せた。


「リア様、おかえりなさいませ」


「リア様、ルイーズ殿下のピアノ教育、どうでしたか? 」


「楽しませていただきました。ルイーズ殿下、可愛いしピアノも上手ですの」


 そう答えながらも、ルイーズ殿下のために曲を書き起こさなければならないことを思い出す。これから忙しくなりそうだ。


 そんななか、館の執事長が現れる。黒い服をピシッと着た白髪混じりの彼は、眼鏡の奥の優しい瞳で私を見つめながら告げた。


「リア様、お疲れのところ申し訳ありません。

 先ほど宮廷から連絡が入りました。二週間後、宮廷で将軍とリア様のご結婚を祝ったダンスパーティーが開かれるとのことです」


「えっ!? 」


 だ、ダンスパーティー!?


「将軍とリア様は主賓のため、ファーストダンスを踊っていただきます。

 念のために聞いておきますが、リア様はダンスはお得意でしょうか」


 これは完全に想定外だった。私は貧乏男爵令嬢だった。社交の場に顔を出すことは年に二、三回。ダンスを踊る相手などおらず、ダンスなんてほとんどしたことがないのだ。こんな私が……ファーストダンス!?

 だが、アンドレ様の足を引っ張るわけにはいかない。今日も宮廷で、足を引っ張るなと言われたばかりだ。

 だから私は、正直に答えていた。


「ダンスなんて、ほとんど踊ったことがありません」


 その言葉を聞き、執事長の表情が曇る。


「でも、アンドレ様や皆さんのためにも、精一杯頑張って練習します!! 」


 私がヘマをすると、恥ずかしい思いをするのはアンドレ様だ。そして、アンドレ様の評判が、使用人の皆さんの生活へ影響する。私は将軍の妻として、何としてもダンスパーティーを成功させなければならないのだ。



いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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