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突然の婚約破棄

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

今回は途中から甘さたっぷりのお話になりました。

読んでいただければ幸いです。


「ごめんなさいね、リアさん」


 前に立つ婚約者パトリック様の右腕には、金髪の美女が絡み付いていた。私はこの美女を知っている。社交の場でひときわ目立っている侯爵令嬢、テレーゼ様だ。彼女は私に見せつけるように彼に身体を密着させ、勝ち誇った顔で告げる。


「パトリック様は、あなたよりもわたくしを選んだの」


 状況が理解出来ない私は、ぽかーんと二人を見つめることしか出来ない。


「そんなわけだから、明日の結婚式、君は参加することが出来ない。僕が結婚するのは君ではなくて、このテレーゼだから」


 それでようやく分かった。これがいわゆる婚約破棄というものだ。だけど、頭が真っ白になって、なんの感情も浮かばない。


 咄嗟に私は


「おめでとうございます」


笑顔で告げた。

 こんな私を、口元を歪めてテレーゼ様が見下ろす。


「彼女、おかしいんじゃないですの? 振られたのに、全然響いていませんわ」


 響いていない、といえば嘘になる。少しずつ、これはまずい状況なのだということを理解し始めている。


 私は貧しいブランニョール男爵家の娘だ。このたび、なんと公爵のパトリック様との縁談をいただいた。パトリック様との結婚により、多額の資金援助と領地の安全が保障されるはずだった。


 私はパトリック様に直接お会いしたことはほとんどない。手紙でやり取りするだけの仲だった。少なくとも手紙の中ではパトリック様は紳士的だった。恋愛感情こそなかったが、まさかこんな目に遭うとは思ってもいなかった。


 そもそも、貧乏男爵令嬢の私が、公爵のパトリック様の結婚相手に選ばれたこと自体謎だった。両親が必死に働きかけたのかもしれない。だが、結果的に私は婚約破棄をされ、両親を悲しませてしまった。

 ようやく貧乏から抜け出せると思ったのに……ただ、そのことだけが気がかりだった。



「わたくしのパトリック様を奪ったのだから、それ相応の罰を受けてもらいますわ」


 テレーゼ様は勝ち誇ったように言うが……テレーゼ様が私の婚約者を奪ったのではないだろうか。だが、侯爵令嬢に歯向かうことも出来ないし、騒ぎを起こしたくもない。だから私は、黙って俯く。


「パトリック様。はやくこの泥棒猫を、陛下に突き出しませんか?

 明日の結婚式まで彼女を野放しにしておくのは、危険だと存じます」


「そうだな」


 パトリック様は守ってくれないかと、一瞬期待してしまった。だが、パトリック様はテレーゼ様にぞっこんだ。私が完全に悪者になっている。


 こうして私は騎士たちに捕らえられ、まるで犯罪者のように陛下の前に突き出された。




「話は聞いている」


 国王陛下は静かに私に告げる。静かに告げるのだが、その声には凛とした響きがある。その声に、思わず身震いした。


「リア・ブランニョール。

 そなたは我が甥パトリック・リョヴァンと婚約者テレーゼの仲を引き裂き、パトリックと偽の婚約関係を結んだ。間違いないな? 」


 少なくとも私は、パトリック様とテレーゼ様が婚約していたことを知らない。だが、私の知らないところで婚約が結ばれていたのかもしれない。

 否定したい、だが、確かな証拠がないから否定出来ない。万が一陛下の言葉が本当であれば、悪いのは私だ。

 いずれにせよ、パトリック様との関係を過信していた私が悪かったのだ。


「申し訳ありませんでした」


 頭を下げる私を、陛下は冷たい瞳で見下ろす。


「パトリックは可愛い我が甥であり、我が甥を誑かしたそなたを国内に置いておくわけにはいかない。


 よってそなたを、国外追放とする」


 目に涙が浮かぶ。それを悟られないよう、必死で頭を下げ続ける。


「そなたには、この罪を償ってもらわねばならない。

 我が国の隣国は、誰もが知る強国シャンドリー王国だ。現在敵対はしていないが、いつシャンドリー王国が攻め込んでくるか分からない。

 そこで、そなたはシャンドリー王国の軍事総司令官、アンドレ将軍と結婚してもらうことにする」


「えっ!? 」


 思わず顔を上げ、そして慌てて俯く。予想外の言葉に、鼓動が止まってしまいそうなほど早鐘を打つ。


「そなたがシャンドリー王国の将軍と結婚すれば、我が国も安泰だろう。

 もちろん、そなたの父母には報酬を与える」


 私は俯いている頭を、さらに深々と下げた。


 私は罪人とされてしまったが、その罰が隣国の将軍との結婚だ。結婚相手がパトリック様からアンドレ将軍に変わっただけで、状況は何も変わっていない。いずれも、いわゆる『白い結婚』だからだ。


 私がアンドレ将軍と結婚すれば、バリル王国の人々が救われる。おまけに、私の両親だって、責められるどころか報酬がもらえるのだ。こんなに好条件の罰はない。


「陛下、寛大な処罰、ありがとうございます」


 私は思わず告げていた。

 



読んでくださってありがとうございます。

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