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【ヒューマンドラマ】

引き取りましょうか、それを。

作者: 小雨川蛙

 

 ある日。

 僕の前に悪魔が現れた。

「引き取りましょうか、それ」

 悪魔がそう尋ねてきたので僕は答えた。

「悪いが譲る気はないよ」

 悪魔が首を傾げる。

「しかし、それ。もう使えなさそうですよ? それに役に立つとは思いません」

 その通りだと僕は思ったが、僕はそれでも断った。

「ごめん。これだけは誰にも渡したくないんだ」

 悪魔が困った表情で笑う。

「捨てちゃった方が良さそうですけど……後悔しませんか?」

 僕は迷った末に頷いた。

「うん。後悔はしないかな」

「かしこまりました」

 すると悪魔は深々と頭を下げる。

「ごめんね」

 僕が言うと悪魔は顔をあげる。

 その顔を見て僕は「あっ」と声をあげた。

 すると、目の前に居た人物は穏やかに微笑みその場から消えた。

 ・

 ・

 ・

 僕の隣に座っていた娘が感嘆の声を漏らす。

「お父さん、絵描きさんみたいに絵が上手い!」

 それを聞いて僕は微笑みながら答えた。

「嬉しいな。お父さんは昔、絵描きさんになるのが夢だったんだよ」

「なんで絵描きさんにならなかったの?」

 不思議そうな娘に僕は答える。

「色々とあったのさ。本当に色々とね」

「絵を描くのをやめて辛くなかったの?」

「辛かったさ。一時は自分で全部捨てちゃおうと思ったくらいにね」

 僕の脳裏にあの日、現れた悪魔の姿が思い出される。

 夢を完全に捨てる……忘れることを提案してきた悪魔の事を。

「でも、絵を描くことはやめなかったんだ!」

「その通りさ。だからこそ、こうしてお前に絵を描く楽しさを教えられるのさ」

 僕と同じ顔をした悪魔に。

 いや、全てを捨てようとした僕自身に、心の中で僕は告げていた。


 やっぱり、捨てなくて良かったよ。


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― 新着の感想 ―
正しい欲張り方? ちょっと切ないけど、 自分と折り合いつけた、 かっこいい生き方かも。 そこまでの夢を持てない人のほうが、 現実には多そうだから、 やっぱりかっこいいね。
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