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婚約破棄して廃嫡された馬鹿王子、冒険者になって自由に生きようとするも、何故か元婚約者に追いかけて来られて修羅場です。  作者: 平井敦史
第三章 馬鹿王子、師を得る

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馬鹿王子、師を得る その十五

 オーティス氏、いや、今はただの不死人形《イモータルドール》と言うべきか。とにかくそいつは、牽制の火炎弾《ファイヤーバレット》を放ちながら階段を駆け下りてきた。

 手にする得物《えもの》は斧槍《ハルバード》。刺突用の穂先の根元に斧刃《ふじん》と、その反対側には鉤爪《かぎづめ》が付いた長柄《ながえ》武器だ。


 間合いが広く攻撃方法も多彩な厄介な武器を振りかざして、人(・)形(・)が迫る。

 僕は全身に真気《しんき》を込めて、それを迎え撃つ。


 人(・)形(・)が繰り出す槍先の刺突を左へ躱《かわ》し、間合いを詰めようとするも、横薙《よこな》ぎの斧刃《ふじん》が襲いかかってくる。

 避けるよりも逆に思い切って踏み込み、真気を込めた斬撃を食らわそうとしたところで、人(・)形(・)の体に闇の魔力が集中していることに気付いた。


「ちっ! 魔法障壁《マジックシールド》!」


 魔法の盾を展開するのとほぼ同時に、炎が爆発した。

 火炎弾《ファイヤーバレット》か。

 魔法障壁《マジックシールド》に阻まれた炎は、逆に人(・)形(・)を焼き焦がしたが、まったく意に介する様子もない。


 服に火が燃え移り、炎に包まれながら、人(・)形(・)は平然と斧槍《ハルバード》を揮《ふる》い、斧刃《ふじん》の反対側に付いた鉤爪《かぎづめ》で僕の脚を引っ掛けようとする。

 僕が跳《と》んで躱《かわ》すと、刺突で追撃を掛けてきた――ところへ、レニーが降魔光槍《ホーリースピア》を放つ。

 人(・)形(・)が無言で展開した魔法障壁《マジックシールド》は、闇の魔力と光魔法の相性ゆえか、一瞬だけ抗してすぐに砕け散ったが、本体への直撃を防ぐ役割は十分に果たした。


 お互いに距離を取ると、人(・)形(・)はようやく気付いたかのように、自身を包む炎を鎮火魔法で消し止めた。

 焼け焦げて炭化した皮膚の表面が剥がれ落ち、あっという間に再生していく。


「本当に出鱈目だね。にしても、不死人形《イモータルドール》も魔法を使えるものなんですか?」


 アルバートさん相手にレニーがぼやく。


「ああ。素(・)材(・)となった人間が生前に習得していたものに限られるようだがな」


 その言葉を聞いてレニーがぎりっと歯噛《はが》みする音が、僕の耳にも届いた。

 オーティス氏とは直接の面識は無かったはずだが、王都随一の冒険者として尊敬していたようなので、彼が生前に培《つちか》ってきたものが邪悪な何者かの玩具《おもちゃ》にされていることに、激しい憤りを覚えたのだろう。

 気持ちは僕も同じだ。


 一時《いっとき》も早くこいつを滅ぼして、オーティス氏の魂を救ってあげなければ、と考えていると、人(・)形(・)がおもむろに動いた。

 またしても牽制の火炎弾《ファイヤーバレット》。


 火炎系の魔法を多用してくるのは、生前の彼が得意としていたというのもあるかもしれないが、周囲に燃え移り火に巻かれることになっても自分は平気だ、という計算もあるのは間違いない。

 本当に質《たち》が悪いな。


 僕を牽制しておいて、人(・)形(・)が襲い掛かったのはレニーだった。

 彼女が近接戦闘が苦手なことを見て取ったのか?

 斧槍《ハルバード》の槍先がレニーに迫る。


「魔法障壁《マジックシールド》!」


 レニーは、自分の前方だけでなく、全方位を球状《きゅうじょう》に包み込むように魔法の壁を展開した。

 凍結術式ということは、あらかじめ準備していたのか? 用意がいいな。

 先ほどの火炎瀑布《ファイヤーカスケード》のような、広範囲型の魔法攻撃への対策だったのだろう。

 そして、それを近接攻撃に対して惜しみなく使ったのは良い判断だ。

 前方だけだったら、一瞬で背後に回り込まれていたに違いない。


 人(・)形(・)は、レニーの魔法障壁《マジックシールド》に対して斧の斬撃をガンガンと叩き込んだ。

 魔法障壁《マジックシールド》を物理的な力ずくで打ち破るなんて、普通は無理なのだが、闇の魔力を込めた乱れ打ちを浴びせられ、さすがに軋《きし》みを上げる。


 いや、やつの狙いはわかっている。

 魔法障壁《マジックシールド》を展開したままの状態では、レニーの側から攻撃する手段は無い。

 そうしておいて、彼女の救援に向かった僕やアルバートさんを迎撃しようという魂胆だろう。


「図に乗るなよ、人形風情が。千年早いわ」


 アルバートさんは滑るような足取りで一瞬にして間合いを詰め、一刀の下《もと》に斧槍《ハルバード》の柄を両断した。

 緻密で硬い樫《かし》材で作られ、おそらくは強化術式も付与されているであろう、一流冒険者の得物《えもの》を、木の枝を払うように断ち斬るか。流石と言う他ないな。


 そして、そのまま一挙動で、カタナを人(・)形(・)の心臓に突き立てる。

 だが――。


「ちっ、これでも足止めにすらならんのか」


 アルバートさんが舌打ちし、カタナを手放した。

 人(・)形(・)が胸に突き刺さったカタナ越しに、電撃魔法を放ったのだ。

 さすがにまともに食らうわけにはいかないと、距離を取るアルバートさん。


 武器を失ってしまったか、と思ったのだが、彼は人(・)形(・)に右手をかざすと、黒い魔力を糸状にして伸ばし、カタナを絡《から》め取った。

 そして一気に引き抜き、手繰り寄せる。


 人(・)形(・)は、魔力の糸でカタナを回収しようとしているアルバートさんに対し、隙ありと見たのだろう。両断された斧槍《ハルバード》を手斧《ハンドアックス》のように振りかざし、間合いを詰めて斬りかかろうとする。


 そこへ、魔法障壁《マジックシールド》を解除したレニーが降魔光槍《ホーリースピア》を放った。

 人(・)形(・)が踏み込む動きに合わせた一発だったのだが、やつは漆黒の盾を展開し、これを防いだ。

 やはり盾を打ち砕くことはできるのだが、本体には躱《かわ》す暇《いとま》を与えてしまう。


「すまんな」


「……どういたしまして」


 アルバートさんが礼を言ったが、レニーは悔しそうな表情を浮かべていた。

 今の一発、単に援護のつもりじゃなく、本気で仕留めに行っていたみたいだな。


 今度は僕が、人(・)形(・)に対し接近戦を挑む。

 得物《えもの》は両断されているのだが、槍先および斧の部分と、石突きの部分、それぞれを、あたかも最初からそういう武器であるかのように巧みに扱い、なかなかつけ入る隙を与えてくれない。


 本当にこの人――オーティス氏は強い。

 叶《かな》うことなら、冒険者の先達として教えを乞いたかった、とすら思うほどだ。

 しかし今となっては、僕にできることは一時《いっとき》も早く滅ぼしてあげることのみ。


 左手に持った石突きの方で僕の剣を捌《さば》きつつ、右手の槍先を繰り出してくる。

 紙一重のところでそれを躱《かわ》し、やつの体に魔力が満ちていくのに最新の注意を払う。

 そして、人(・)形(・)が火炎弾《ファイヤーバレット》を放つのに対し、あえて魔法障壁《マジックシールド》は使わず、後ろに倒れ込みそうなほどに体を反らしてこれを躱《かわ》す。

 その際、ちらりとレニーの方を見て目くばせしたのだが、彼女はその意図を的確に汲んでくれた。


「降魔光槍《ホーリースピア》!」


 いくら詠唱も発動句《キーワード》もなしに魔法を使える化け物といえども、火炎弾《ファイヤーバレット》を放ったまさにその瞬間に攻撃を合わせられては、盾を展開するのも間に合わない。

 とっさに庇《かば》おうとした左手に、降魔光槍《ホーリースピア》が直撃した。


 腕は一瞬で灰と化し、さらには肩口にまで広がっていったが、そこでやつは躊躇いもなく、斧で自分の腕を切断した。

 そして、左腕があっさりと再生する。


「ちょっと! そんなのあり!?」


 思わず食って掛かるレニー。

 いや、本当に出鱈目にもほどがあるぞ。


 しかし、人(・)形(・)の方も、このまま僕たち三人を相手取っても勝ち目はないと判断したらしい。

 いきなり背後を振り返り、二階に向けて火炎弾《ファイヤーバレット》を連発する。

 おいおい! 二階にはまだ生存者がいるんだぞ!


 僕たちが慌てて消火に掛かる隙に、人(・)形(・)は玄関から逃亡を図る。

 くそっ、やり口が一々あくどいな。


 大急ぎで火を消し止め、僕たちは人(・)形(・)を追いかけた。

 月明かりの下、家々の屋根から屋根へと飛び移っていく姿が目に入る。


 レニーが呪文を唱え、石畳を隆起させてくれた。

 それを足場に、僕たちも屋根の上に上がる。


 アルバートさんはというと、自身の足元に魔方陣を発動させるや、次の瞬間には人(・)形(・)の前に立ちはだかっていた。

 転移魔法!?

 そうか、彼も使えるんだ。


 アルバートさんは魔力の糸を放ち、人(・)形(・)を絡め取った。

 ようし、今度こそとどめを刺してやる、と決意を固め、僕が駆け寄ろうとすると、不意に人(・)形(・)の足元が崩れた。

 魔法でわざと屋根に穴を開けたのか!?


「ぎゃあっ!!」


 階下から、男性のすさまじい悲鳴が上がり、さらには子供が泣き叫ぶ声も聞こえてくる。

 くそっ、住人が巻き込まれたのか?


「ええい、くそったれめ。救助は俺に任せて、お前たちはやつを追え!」


 アルバートさんはそう言い残して、屋根の穴から屋内へ飛び込んだ。

 最悪、死傷者が出ていたとしても、彼ならなんとかしてくれるだろう。


「わかりました。お願いします!」


 下を見下ろすと、人(・)形(・)が窓から飛び出して逃げていくのが見えた。

 その後を追いかけるが、なかなか追いつけない。


 と、不意に人(・)形(・)の前に、アルバートさんが立ちはだかった。

 また転移魔法を使ったのか。

 挟み撃ちに出来る、と思ったのも束の間、人(・)形(・)は狭い路地に入り込み、逃走を図る。


「くそっ、逃がすか!」


 僕たちも路地に入り、人(・)形(・)を追う。

 そこへ、場違いなほど明るい少女の声が響いた。


「おう、久しぶりじゃな、父よ!」


 人(・)形(・)の行く手を阻むように現れたのは、十四,五歳くらいの茶色い髪の少女だった。


「むっ、なんじゃこやつ。人間では無いようじゃな。ならば遠慮はせぬぞ」


 そう言い放つや、少女の体に闇の魔力が満ちていく。


「シュカ!? 馬《バ》ッ、よせ!!」


 アルバートさんが血相を変えて叫んだ次の瞬間、無数の黒い刃が人(・)形(・)を切り刻んだ。

 いくつもの肉片に分断された人(・)形(・)は、その一つ一つを再生させていく。


「ちぃっ! 何てことをしてくれる!」


 どうやらアルバートさんの娘さんらしいが、知らぬこととはいえ最悪なことをやってくれた。


 再生途中の人(・)形(・)を二体ほど、真気を込めた剣で斬り捨てて灰に変え、レニーも一体に降魔光槍《ホーリースピア》を叩き込んだが、再生を許してしまった個体は八体。


「「ひぃっ!」」


 全裸の男たちの出現に、レニーと少女の悲鳴が唱和する。


 人(・)形(・)どもは、一斉に魔力を漲らせた。

 まずい! 一斉に魔法を放たれたら、さすがに防ぎきれない!


 僕が絶望に捉《とら》われかけたその時、若い女性の呪文詠唱の声が響き渡った。

 とても涼やかなその声は、聞き馴染みのあるもののように思われた。

 いや、まさか。彼女がこんなところにいるはずは――。


「――悪しきもの、邪《よこしま》なるもの、災《わざわ》い為《な》すもの。斉《ひと》しく光の裁きに頭《こうべ》を垂れよ。最終《ファイナル》審判《ジャッジメント》」


 そして、地面にいくつもの魔方陣が描き出され、その一つ一つから光の柱が立ち上った。

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