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馬鹿王子、巻き込まれる その五

「いきなり話しかけてごめん。怪しいものじゃないよ。タンベリー(ここ)で護衛屋をやってんだ。あたしはジェス。こっちの軽薄そうなのがブリッツ。こっちの愛想のないのがダニー」


 女性冒険者が自己紹介をしてくれた。

 おそらく彼女も魔道士だろう。かなり強力な――魔力を抑え込んだ今のレニーを大きく上回るほどの、魔力の持ち主だ。

 ただし、彼女は魔力を抑えている様子はないので、今感じ取れるのがおおよそ掛け値なしの実力と見ていいだろう。

 癖のある黒髪に、快活そうな大きな瞳。年の頃は僕らより少し上だろうか。


「そんな紹介の仕方があるかよ。相変わらず口がわりいな、おまえは」


 ブリッツと呼ばれた男が文句を言う。

 いや、確かに見た目は軽薄そうだが。

 麦わら色の髪に、深緑の瞳。やはり年の頃は僕らより少し上くらいだろう。

 ひょろりとして上背があり、腰に長剣、左腕に円盾という、僕と大体同じような装備だ。

 軽薄そうな雰囲気とは裏腹に、身ごなしには隙が無いが、きちんとした訓練を受けたわけではなく、どうやら実戦で身に着けた我流剣術のようだ。


 無言で僕らをじっと見ている三人目、ダニーと呼ばれた男は、坊主頭でがっしりとした体格。手にしているのは、長さ2mほどの棒の両端に紡錘形の鉄製打撃部がついた槌矛メイス。それと背中には、かなり張りの強そうな弓と矢も背負っている。

 こちらもおそらく、実戦で鍛えた口のようだ。

 年齢は他の二人よりも少し上だろうか。いや、老けて見えるだけで同じくらいかもしれないな。


 男性二人もそこそこの魔力の持ち主だ。武器だけでなく魔法も併用するのか、あるいはもっぱら身体強化に特化しているのか。


「ジェスさんにブリッツさんにダニーさんだね。あたしはレニー、こっちはマグ」


 レニーが愛想よく答える。

 このあたり、彼女は中々如才ないんだよな。


「レニーとマグか。見たところあんたたちも冒険者みたいだけど、ここで仕事をするつもりかい? それだったら……」


「ああ、違うんだ。王都から、あたしの郷里のシャロ―フォードに向かう途中でね」


「そっか。じゃあ護衛を……」


「せっかくだけど、路銀にそれほど余裕がないもんでね。また機会があればお世話になるよ」


 レニーはやんわりと断ったが、ブリッツが食い下がって来た。


「いやいや。ヒースリー越えを甘く見ちゃいけない。あんたら駆け出しなんだろ? 値段は安くしといてやるから、護衛を雇っておきな」


 そんなことを言いながら、視線はレニーの胸元あたりを彷徨っている。下心見え見えだぞ。


「それくらいにしておけ、ブリッツ。その男はお前よりずっと強い」


 ダニーがブリッツをたしなめた。

 うん。自慢するつもりはないが、実際のところ、実力は僕の方が上だろう。


「そちらの女は、ジェスほどではなさそうだが……」


 あー、武芸に関しては見る目があるようだけど、魔法は専門外なのかな。いや、魔道士だって、レニーが魔力を抑え込んでいることを見抜くのはそう簡単じゃないか。


「そうだねえ。恋人さんに比べたらちょっと残念、いやその、まあ何だ。魔力の大きさが即魔道士としての強さってわけでもないから……」


「え!? や、やだなぁ、恋人だなんて」


 レニーが妙に嬉しそうな声を上げる。

 今はまだ恋人じゃない……。いや、口付けしちゃったしな。どうなんだろう?

 どぎまぎしながらそんなことを考えていたら、ジェスはしげしげとレニーを見つめて言った。


「……レニーだっけ? あんた、もしかして猫被ねこかぶってる?」


 魔力を抑え込んでいることに気付いたのか? いや、大したものだな。こんな小さな町にも、それなりに出来る人間はいるようだ。


「えーっと、何のことかな? それじゃあ失礼するよ。マグ、行こう」


「ああ。すみません、失礼します」


 三人に別れを告げてギルドの建物を後にし、僕たちは宿屋に戻った。



 宿屋の一階の食堂兼酒場で、夕食を摂る。

 もちろん、刺客に狙われている状況で酒を口にするわけにはいかないので、食べるだけだ。

 ヒースリー山地で獲れるコブイノシシのロースソテーが、ここタンベリーの名物料理なのだとか。


 食事をしながらも、魔力を感知する練習は怠らない。

 もっとも、魔力を抑え込んでいるレニーも含め、ここにはそれほど高い魔力の持ち主は、ほとんどいない――と思っていたのだが。

 隅の方の席に座っている中年男。

 目立たない風貌だが、時折こちらを窺っている。刺客、あるいは監視役だろうか。

 まったく。落ち着いて食事をしてもいられないな。

 まあ、ソテーは美味だったが。


 部屋に戻り、レニーがプリコピーナの結界を確認したが、そちらに異常はなかった。こちらが用心していることを読んで、無駄に警戒されることを嫌ったのか。

 宿での襲撃はないと思いたいが……、油断はできない。

 よろしく頼むぞ、マドラ。

 僕も剣のつかを握りしめて眠りについた。



 結局、僕たちは何事も無く朝を迎えることができた。

 けど、これで油断していたら今夜の宿で襲撃を受ける可能性もあるわけで。

 気が休まるいとまがないのは中々(つら)いものがある。

 ともあれ、昨日のうちに買い込んでおいたパンを食べ、朝日を浴びながら出立する。

 日が暮れないうちにウィンザーに辿り着かないといけないからな。


 タンベリーを出て街道を行くうちに、山道に差し掛かった。

 マドラが鼻をひくつかせて周囲を警戒してくれている。

 時折、低い唸り声を上げるのは、刺客ではなく魔物に対する反応だった。

 人を襲って喰らう魔物も、自分より強いと判断した相手は避ける……ことが多いのだが、中には身の程知らずに襲い掛かってくるやつもいる。


「「――そはたけいかづち、矢となりて我が敵を穿うがて。雷光箭ライトニングアロー」」


 僕とレニーの詠唱が重なり、二本の光の矢が狼猿おおかみざるを打ち倒す。

 その名の通り、狼の頭部を持った猿のような姿の魔物は、黒焦げになって地に転がった。


「なるほど。これは、普通の旅人にとっては護衛が不可欠だろうね。そう言えば、レニーが帰省したり上京したりする時も、やっぱり護衛を雇ってたのかい?」


「はは。あたしの場合は、最高に信用出来て頼りになる護衛がいてくれるからさ」


「……ああ、そうか。ご両親に付き添ってもらってたのか」


 レニーの養父母は、第三等級の冒険者だ。

 街道に出没するような魔物くらいなら、敵ではないだろう。

 正直、お目にかかるのがちょっと楽しみではある。


「そろそろ、峠のてっぺんだね」


 レニーがそう言って、後ろを振り返った。

 僕も振り返って見てみると、中々の絶景が広がっていた。

 しかし――。言葉を変えれば、どちらの麓からも一番距離がある場所に来ているということで。

 敵が何か仕掛けてくる可能性は十分にある。

 マドラも何か気配を感じ取ったのか、威嚇の唸り声を上げている。


「何か来る!」


 僕がレニーに警告を発したのとほぼ同時に、周囲の茂みが一斉に揺れた。

 魔物? いや、一匹や二匹じゃないな。相当な数だ。

 そして、僕たちの右手側から、何匹もの魔物たちが出現した。

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