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9 更なる追い討ち

 コントのようなことを続ける俺たちを見て、長原さんはただぼーっと佇むことしかできなかった。


 まずい。このままじゃ多分大学内に作業場があることが普通にバレる……。

 そう考えた俺は何とか長原さんを誤魔化すために行動に出た。


「あ、あの長原さん」

「はい、なんですか?」

「この大学では俺たちただ遊ぶ事しかしてないんで、俺たちがいたところで別にやめる必要もありませんからね」

「あ、は、はあ」


 んー。なんだか微妙な線をついてしまったようだ。もう少し良い言い方があったような気もするが……まあいいか。

 さて、このまま一人俺だけが誤魔化すのでは、説得力に欠けるのでお前ら二人もなんか言い訳を言えと目配せで伝えた。

 それをうまく受け取ってくれたのか、先に桜井が口を開いた。


「何を言っている。私はこの大学では遊ぶことはしていないぞ。私がしているのは開発とか研究とか、そのくらいだ」

「テメェー!」


 声にならないほど小さな声で桜井に向けて叫んだ。

 が、あまり伝わっていないようだ。そうこうしているうちに次は有野が口を開いた。


「ま、口で言ってたって何もわかんないよね。僕が案内してあげるよ」

「この馬鹿やろう!」


 有野に向けても声にならないほど小さな声で叫ぶものの、やはりあまり伝わっていないようだ。

 ため息しか出なかった。

 もうここまできてしまっては疑われていろいろ詮索されるよりも、先に晒してしまった方が後々厄介になりずらい──ということを信じて案内するしかないのだろうか。


「………長原さん……。こっちっす」


 泣きそうな脱力した声で俺は案内を始めた。

 そんな俺に戸惑いながらも長原さんはゆっくりと着いてきた。

 学食から歩くこと数分。遂に社会生活向上会の部屋が見えてきてしまった。

 くそっ。ここまできたら腹を括るしかない。


「どうぞ」


 そう言って俺は長原さんを部屋に通した。

 さて、長原さんが部屋に入って一番初めに目をつけたもの。それは誰もが予想できた。


「あの、このとても長い棒のような大きなものは?」

「あ、それレールガンっす」

「は、はあ」


 もうヤケクソだよこんちくしょう。

 何だって質問すればいいさ! どうにでもなっちまえ! テメェらが悪いんだからな有野、桜井。

 さて、それから次に目をつけたのは、


「あ、この機械、この前杉田さんが身につけていた──」

「そう! これこそが飛行装置さ!」


 急に有野のやつ声出すな。びっくりしそうになったぞ。


「多分機関らが狙ってるのはこの機械──だ」


 この機械の中にある謎の発電装置のような棒だ。と言おうと思ったのだが、流石にそこまで言って仕舞えばこっちが完全に不利になってしまう。だから最後の抵抗という意味も込めてそこだけは敢えて言わなかった。


 それから一通り紹介を終え、作業場が完全に敵に認知されたところで長原さんは深く頭を下げてきた。


「今日はありがとうございました。でも、よかったんですか? こんなに」

「なーに、別に良いんだよこのくらい」


 調子に乗った高らかな声で有野は言い放つ。

 良いわけあるか! 普通に考えて敵に自分の砦を自ら紹介するなどあり得ないんだぞ!

 と、言いたいところを我慢して「気にするな」と苦し紛れに言った。


 と、その時。ピリリリリリッと長原さんの電話が鳴った。


「あ、すみません」


 何度も頭を下げながらすぐに電話に出た。


「はい、長原です。……………今は仕事が終わって休憩しているところです。……………はい。分かっています」


 今、一体誰と話しているのだろうか。まあ考えずともわかる。きっと同じ機関の仲間と言ったところか。


「はい。明々後日」


 明々後日? 何が明々後日なんだ? これは後で問い詰める必要があるかもしれないな。


「……………はい。分かりました。失礼します」

「なあ、誰からだったんだ?」

「同じ仲間からでした」


 そうか。というか普通に教えてくれるとは思わなかったな。いや、まだここからだ。


「なあ、さっき明々後日って言ってたよな。明々後日一体何があるんだ?」

「そ、それは……」


 どうやらいうのを躊躇っているらしい。重要なことのようだ。

 これは話してくれないかもしれないな──と考えていると、長原さんは口を開いた。


「明々後日もう一度あの家に突入することになっているんです」

「はぁ?!」

「マジかよ!」

「またか」


 三者三様。いろいろ反応が出たところで話はまだ続く。


「それで、突入作戦について私から一つ提案があるんです。その日、私たちを()めてくれませんか?」

「え? ハめる?」

「やめろっ」

「グヘッ」


 深くは問い詰めない。が、一応殴っておいた。

 女性に対して失礼にも程がある。この人結構純粋そうだしな。この手の話題には疎いのだろう。


「え? 何か言いました?」

「いえ、続けてください」

「その日、明朝五時00分。私たちはもう一度あの家に乗り込むことになっています。それに備えてあなたたちは先に対策を施し、私たちを無力化してほしいんです」


 本当にまた来るのか……。

 俺たちはただ口を開けて黙って聞いているしかできなかった。

 だが、よく考えればそれはものすごい情報ではないか。明々後日の計画が長原さんを通して全て筒抜けになる。

 これ以上にいい話はない。

 さて、二人も同じような考えに至ったのだろう。俺たちは顔を見合わせて一度頷いた。


「長原さん。その話、もう少し詳しく」

「はい」


 この日は夜中になるまで作戦会議が開かれ、それからまた明日も長原さんは来ることを約束して解散となった。



***



 それは雨が酷く降り続く昼間だった。

 外は厚い雨雲により薄暗くなっており、雨が酷くて薄く霧がかかっているように見える。

 ザーザーと降り続く雨を大学の会室の窓越しに見ながらため息をつき、そのまま視線を横にずらし、有野と桜井がテーザー銃を前に何かしら話し合いをしているのを目で捉えたその時だった。

 バン!! と大きな音を立てていきなり扉が勢いよく開られると、それに続いて何人もの顔を隠した黒服の人たちがズカズカと突入してきた。


「なんだ! 誰だお前ら!」

「おい、あれっ」


 いきなり入ってきた黒服の奴らにも驚いたが、それ以上に驚いたのが、そいつらが持っていたものだった。


「おいおい、マジかよ」


 そいつらが持っていたのは拳銃だった。

 俺たちはただ両手を上げて無抵抗になるほかなかった。

 やべぇ……。震えが止まらない……。だけど、こうしていれば命までは──。

 パンッ!

 普段聞きなれない軽い音が部屋に響き渡った。と、その時。

 バタン!

 有野が膝から崩れ落ち、そのまま地面に受け身も取らずに倒れた。


「は? 有野? お前──」


 パンッ!



***



 「──ハッ!! はあっはあっ。はあっはあっ……今のは……」


 辺りを見渡す。場所は自分の部屋だ。良かった。夢だ。


「夢……だよな。夢だ。夢……なのか。これが……これから起きる……出来事なんだ………」


 夢であることを知り安心したのと同時に、俺は恐怖を覚えた。

 どうすりゃいいんだ……。


 その後、俺はいつものように大学に向かい、着いてからはじめに会室に訪れた。


「よう、お前ら」

「ん? 杉田か。お前今日は早いな」

「まあ、ちょっとな」


 部屋には既に桜井と有野が揃っていた。

 と言っても有野のやつは昨日からきっと帰っていないのだろう。近くにある椅子で爆睡していた。

 桜井は髪も整っているのを見るとちゃんと帰ったみたいだ。


「とりあえず、有野。起きろ」

「ぐへっ。ぁぁ?」


 椅子を倒して強制的に起きさせた。


「ちょっと話があるんだ。聞いてくれ」

「ちょっと待ってくれよ。あなた酷すぎませんかっ?」


 寝起きだというのによくそんなに声が出るものだ。と感心しながら有野の怒声を聞き流し、喋り終わったところで今度は俺が喋り始めた。


「実は今日、ある夢を見たんだ。それがこの会室に黒い服を着た奴らが突入してくるって夢だ」

「それ、本当なのかよ」

「こんな冗談言うわけないだろ」

「そう、だよな」


 信じたくない気持ちはよくわかる。俺だってこんな話は信じたくない。けれど、ほとんどの可能性でこれは予知夢なのだ。

 ならば、これは放っておくことはできない。


「杉田。詳しい説明を頼む」

「分かった」


 俺は今朝見た夢を何とか思い出しながら全てを話し終えた。

 それから初めに口を開いたのは桜井だった。


「まず重要なのは『いつ』なのかだ。これに関しては酷い雨がきっと答えを示してくれるはずだ」

「と、言うと?」

「明日、この辺の地域は土砂降りの雨になると言う予報がある。それを含めて考えると明日の可能性が高い」


 明日……だと? そんな、いくら何でも早すぎる。それに……それじゃあ、


「それだったらあの長原さんが裏切ったってことなの?」


 俺が言う前に有野が言った。

 そうだ。もしこの大学に明日襲撃に来ると言うのなら、それは長原さんが裏切ってここのことを言ったと言うことになる。


「さあな。わからない。けれどその可能性はゼロではない」


 桜井にだってそんなことはわからない。けれど、それはあまり信じたくはない。


「次の問題は武器だ」

「確か銃を持ってたんだっけ?」

「ああ。音は結構軽くて小さかった気がする。大きさも小さいし、俺たちが思い浮かべる銃ってのとは少し違った気がする」

「そうか……それならPSS拳銃だったのかもしれないな」

「「PSS拳銃?」」


 俺と有野が揃って同時に同じことを言った。


「PSS拳銃はソビエト連邦が開発した非常に音が小さい自動拳銃だ」


 えっと、確かソビエト連邦ってロシアだったな。


「音が小さいって言ってもどのくらい小さいのさ」

「その銃はそもそもカートリッジに消音機能が付いている特殊な銃なんだ。だから撃ったとしても小さな音しか出ない。ましてや大雨が降っているのであれば、殆ど周りには聞かれないだろうな」


 なるほど。奴らにとっては都合がいいと言うわけか。

 音が周りに聞こえなければ恐れることはないからな。気にせず撃てるんだ。

 だから迷わず有野、俺と撃ったんだ。


「厄介だな」

「ああ。その通りだ」


 正直相手が銃を持っていると言うのなら通常は一目散に逃げるべきだ。だが、逃げたところでなぜここが察知されたのか分からなければ意味がないだろう。


「そもそもなんでここがバレたかが問題だよな」

「それに関してはあの女が100%密告したんだろう」

「いや、ちょっと待ってくれ」


 まあ、普通に考えればそうなるんだが、俺はそうには思えなかった。

 初めて会った時、『少しだけ、今の仕事のことを考えていたらこのまま従っていていいのかと疑問に思えてきてしまって』と、苦しそうに言ったあの時の表情と言い方、態度は本当に辛そうにしていた。

 だから縁を切りたいと思っているのは本当のはずだ。

 まああれ自体演技だったら俺はお手上げだけどな。だがそうとは思えないから悩んでいた。


「なんだよ」

「俺が長原さんと初めて会った時、彼女は苦しんでいた。仕事について悩んでいたんだ。俺にはあの時の彼女の言葉が嘘だったとは思えないんだ……」

「ふーん……。そっか。あの夢に女の子は出てきたの?」


 あの夢では──どうだろうか。予知夢と言っても所詮は夢だ。細かいことなど覚えてはいないが……。


「多分がたいの良い人が多かったと思う。女性はいなかったんじゃないか?」

「なら長原さんはいないんじゃないかな」

「なんでだ?」

「だってあの人胸結構大きいじゃん! そんな人が紛れ込んでたら気づくでしょ!」


 言い方は悪いがまあ確かに一理あるか。

 ということは前回襲撃に来た人たちという線は低いということか?

 判断材料としては不十分だがほんの少しだけ疑いの目が減った。

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