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4 機械と紙

 俺の視線の先には明らかにコンクリート製の階段があった。

 見間違えるはずがない。何故ならその奥に微かな日の光によって照らされている扉らしきものも見えるのだから。


「か、階段? そんな、家の主である僕だって知らないんだよそんなの。あるわけないって」

「ああ。きっと見間違えか何かだろ」


 二人はまったく俺の言葉を信じていないようだった。

 ちっ。そこまで言うのなら見せてやろうじゃねぇか。階段をな。

 ゆっくりと先に飛行装置の方が回収され、安全な場所まで運ばれたところで二人も俺の目撃した階段とやらを見に俺の横に降りてきた。


「な……っ」

「ほ、本当だったのか」


 な? 俺が見間違えるわけが無いだろ? こんな明らかなものを見間違えるほど俺はおかしくなってねぇよ。

 二人もとても気になるのだろう。特になんの警戒もなしにいそいそと下に飛び降りてきた。


「結構広いな……どうして僕は知らなかったんだ?」

「お前、本当にこの家の主か?」

「本当だよ! 僕とお父さんの二人暮らしだったからねっ」


 そういえばこいつの父さんは今いるんだろうか。少しだけ気になったものの、安易に触れてはいけない話題な気がしたのでそれ以上俺たちは踏み込まなかった。


「よし、じゃあ階段を降りてみるか」

「そうだな」

「何か金目のものがあるかもしれないしな」


 あわよくば売り払ってやろう。


「そうだな。財宝が出てきたら売り払って資金にしてやろう」


 珍しく俺と桜井は意気投合した。


「ここ……僕の家なんすけど」


 何やら有野がブツブツと呟いている間に俺と桜井は先に下に降って行く。


「何してんだ? 早く行こうぜ」

「早くしないと金目のものが出てきた時先に取られるぞ?」

「ここ僕の家なんすけど!」


 そう叫び有野も階段をダッシュで降りてきた。

 さて、大体四十段くらい降ったところで俺たちは扉の前についた。


「なあ有野。この扉鍵が必要みたいだが持ってるか?」

「え……そんなの知らないけど」

「使えねぇな……」

「そう言う杉田こそ使えないじゃないか!」

「いや、俺はこの場所を発見したというだけでなかなか大きな手柄だと思うぞ」

「下手したら機械も部屋も壊れてたかもしれないんだぞ!」


 まあ確かにかなり危険だったが、機械よりも実験をする人間の方を優先して心配してくれないか?


「あの機械は今の僕の全てさ! だから必然的に大事にしたくなるのさ」

「……次は壊してやろう」

「今なんて言った!」


 ぐっ。ボソッと言ったのに聞こえたのかよ。


「おいお前たち。こんなところで馬鹿な話をしていたところで一生鍵は見つからないぞ」

「あ、そうだった」


 今は地下の部屋に入るための鍵を見つけなければならないんだった。


「つったって俺この家のことはまったく詳しくないからな。唯一の希望が有野ってのは……頼りなさすぎるよな……」

「あんた失礼すぎるでしょ!」


 そんな事を言い合いながらとりあえず地上に戻ってきた。

 とりあえずどこか漁ってみた方がいいのかなと思い、部屋をキョロキョロと見渡したところで。

 ピピーピピーピピー。

 何やら音がした。


「な、なんだこの音」

「ただの炊飯器の音だよ。米が炊けたみたいだ」


 俺はこの音を聞いて、ある音を思い出していた。

 それはあの空中にいる時に聞いた──警報音。


「なあ、俺高度の限界まで行ってみようと思って、多分三千メートルくらいまで行ったところで、なんかピピピピピって警報音みたいのが鳴り出したんだ。あれって──限界高度を知らせる音だったのか?」


 普通に考えればそうとしか考えられない。もしそれ以外に可能性があるとすれば、機械の故障なんかが挙げられるが……。


「な……なんだって?!」


 どうやら有野はこの警報音について知らないみたいだ。


「ああ。その警報音は多分バッテリー残量が少なくなった時に鳴る音だ」

「え、でもそれが鳴った後、普通に何分も飛べたぞ?」


 実際、限界高度までいくまで多分一分もかからなかったと思う。そこでバッテリー残量が少ないと警告があり、そこから四分も飛べるのはおかしい。


「……三千メートルくらいまで飛んだんだろ?」


 少し間を置き、桜井は質問してきた。

 それに対し俺はうんと頷く。


「だったら一時的にバッテリーの持ちが悪くなっただけだろう」

「は?」

「いいか? それに用いられているのはリチウムイオン電池だ。だから温度が低くなると電解液の粘度が上がり、イオンが移行しにくくなりバッテリーの持ちが一時的に悪くなったと言うだけの話だ」

「………お、おう。わかった」


 詳しくはよく分からないが……まあ、その電池は寒いと持ちが悪くなるらしい。

 

「へっ。そんな話、知ってたし」

「有野。変な意地は張ってないで鍵を探したらどうだ?」

「あ、ああ。んー……多分これじゃないかな」


 そう言いながら取り出したのは、普通に壁に掛かっていた鍵が纏まったもの。

 いやしかしそんな簡単に見つかるものか? てかそんなところにあったら意味ないだろ。


「この鍵、ずっとなんの鍵なんだろーって疑問だったんだよね」


 そう言いながら数ある中の一つの鍵を持ち、地下に向かう。

 そして鍵穴に差し込んだ。


「あ。あれ?」


 その鍵穴はいとも簡単に回転した。


「あ、開いちゃった……」

「お前も驚いてんじゃねぇよ」

「いや、だってこんな簡単に開くなんて普通思わないでしょ!」

「お前が『多分これじゃないかな』って言ったんじゃないか! だったらもっと自分の言葉に自信を持てよ!」


 そんな風に二人で言い合っているのを呆れた顔で桜井は見ていた。

 それに気づいた俺たちはすぐに無言になり、すぐに真剣な顔にし、とりあえず扉を開けた。


「し、失礼しまーす……」


 その扉の先には──なんと!


「暗!」

「日差しが入ってこないからな。当然だ」


 真っ暗な暗闇が広がっていた。けれど、


「ん? なあ、なんか光ってるところないか?」


 俺は暗闇の中に存在する薄らとした光を見つけた。

 その光は今にも消えてしまいそうなほど小さい、というか、細長い青白い光だった。


「た、確かに……。今にも息絶えようとしてるね」

「お前、そんな言葉知ってたのか」

「当たり前だろ!? 昨日まで一緒に実験してた仲じゃないか! このくらい分かるって思わないか?」

「すまん。正直学校での成績は下の下なんだろうな、と思っていたところだ」

「まさか桜井まで敵になるなんて……」


 こいつら結構仲良くなってるな。今日までの数日間で一緒に何徹もした仲なだけあるな。

 と、そんなことを考えながら携帯を取り出し、ライトを点灯させた。

 すると、あの今にも息絶えそうな光がなんなのかすぐにわかった。


「光はこの箱の中から漏れてたのか……」

「だから死にそうな光だったんだね」


 だが、きっと何年、何十年も放置されていたであろう光源が未だに光り続けているというのは一体どう言う事なのだろうか。

 気になった俺たちはすぐにその箱を開けようとしたのだが、


「ちっ。頑丈な箱だ」

「丁度いいところにスパナあったし叩き壊そうぜ」

「お、いいねっ」


 見たところ箱の素材はあまり頑丈そうには見えなかったのできっと壊せるだろう。


「この箱重っ」


 俺はすぐそこにあったスパナを握りしめ、箱を持つ有野に向けて振りかぶった。


「ちょっ、その態勢怖すぎるんすけどっ!」

「だーいじょうぶだ。普段お前の作ったもので死にそうな目に遭ってる俺からすればこんなのは別に大した事じゃない」

「悪かったから! 今度からはもっと安全に配慮します!」


 と言うことはこれまではあまり安全に配慮されていなかったと言うことなのか。

 あまり知りたくなかった。


「ほら、箱置いたから」

「はいはい」


 桜井の早くしろと言う視線が怖いしな。早くやろう。

 俺は怯えながら箱に向かって一発打撃をくらわせた。が、

 ガキィーーーーン!


「うおっ!」

「き、金属音!?」

「素材は金属だったか」


 鈍い金属音が鳴った。


「これはちゃんと鍵を探した方がいいかもね……」

「そうだな」


 というか、初めにその発想が出ない方がおかしい気がする。

 そんな事を考えていると、桜井が床に置いた箱を持ち上げ──普通にパカっと蓋を開けた。


「え……?」

「……なっ」

「お前たち……二人とも原始人か」


 鍵なんて初めから掛かっていなかったが、何故か掛かっていると思い込んでいたようだ。

 どうやら俺たちは原始人みたいだ。言い訳のしようもないぜっ。


 さて、そんなことはさておき、桜井は箱の中から青白く光るガラスの筒のような物を取り出した。

 サイズ感で言えば丁度二〇〇mlのペットボトルより一回り小さいくらいの大きさだろうか。

 その中の中心にはピンク色の直径二、三センチ程度の物体が入っており、その物体は二本の棒によって固定、あるいは串刺しにされていた。


「この真ん中のピンクの……何?」

「知るか」

「………」


 珍しく桜井も黙り込んでしまった。

 あの桜井が黙るほどとは。それほどまでに謎なんだろう。


「……? これ、箱の中に紙が入ってないか?」


 俺が指差す箱の中には何度も折り返された紙が。

 それを有野は取り出し、ゆっくりと広げた。その一番上に、こう書かれていた。


「BIAD……について……? これが、これの名前なのか?」

「それ、なんの略だ?」

「……さぁ?」


 見たところ名称としてはそれしか載っていなく、意味はよく分からなかった。


「んで、続きは?」

「うん。わたしはこの機械をどうにかして処分しなければならない立場にあった。けれど、どうしても処分することができなかった。もし、これを処分してしまえばあの人たちを殺すことになってしまう」


 殺す? 一体この機械と『あの人』とやらはどんな関係なんだ。


「そんなことは私にはできない。けれど、これはこの世にあってはいけないことであることに変わりはない。だから、わたしはここに保管することにした──っ」


 有野は普段のふざけな口調とは正反対に真剣に読んでいた。けれど、ここで初めて同様が漏れた。


「……もう一つの研究は失敗に終わったらしいので心配はないだろうが……あ、有野。もしお前がこれを読んでいるのなら……不甲斐ないわたしに変わり、どうかこれを処分してほしい。わたしは弱く、それができなかった。だから…….どうか頼む……。有野──泰史(やすし)……」


 それはきっと、有野翔駒(しょうま)の、父親なのだろう。それは考えずともわかった。

 しかし、俺が疑問なのはこの紙に書いてあった中の一文、『もし、これを処分してしまえばあの人たちを殺すことになってしまう』という文だ。

 これは一体どういう事なんだ? 俺にはまったく意味が分からなかった。

 それは二人も同じようで、髪を何度も見返しながら唸っていた。

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