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34 前日

「は? 何言ってるのさ」

「渡すだと? 何を馬鹿なことを言っている。頭がおかしくなったのか」

「杉田さん、疲れちゃったんですね。今日は早く寝てくださいね」


 三人がよってたかって俺を心配してきた。

 長原さんに心配されるのは別に悪い気はしないが、しかし俺は至って正常だ!


「なんでみんなそう俺の頭を心配する! 俺の頭はおかしくなったわけでも、寝不足なわけでもない!」

「じゃあ何だって言うのさ」

「ちゃんと聞け。渡すのは発電装置に似た別のものだ」

「……と、言うと?」


 有野が聞き返す。

 ここまで言って分からないか。

 俺は一度ため息をつき、ちゃんと説明することにした。


「まず、俺たちは降参したフリをするんだ。それで手持ちの武器を全部捨てる」

「は? お前本気か?!」

「落ち着け。あくまで捨てるのは手持ちの武器。飛行装置に着いたレールガンなんかは捨てない」


 と言うかあれは完全に固定されているから、そう簡単に取れるものではない。


「それで、飛行装置からあいつの要求通り、発電装置を取り出すフリをして、似た形をしたダミーを取り出して渡すんだ」

「しかし、奴を騙すとなると、今発電装置が付いている場所に偽物の発電装置が付いている必要があるぞ。それに、発電装置を偽物に変えると言うことは、飛行装置が使えないと言うこと。即ち、レールガンが使えないと言うことだぞ」


 櫻井の言う通りだ。

 こいつは飛行装置の生みの親ではないが、開発担当みたいなものだからな。全てを理解している。

 だが──。

 俺はニヤリと笑い、


「そう。最後のそれが肝だ。使えない。そう岩沼に思わせることが重要なんだよ」


 岩沼を騙すことは容易ではない。だから、これまで一度もやってこなかった案を実行する必要があるんだ。


「しかし、それなら本物の発電装置はどこにつけるつもりだ。見えていたら意味が無いぞ」

「大丈夫だ。本物の発電装置は──そうだな。下にでも目立たないようつけておけば良いだろう」

「一応聞いておくが、いつまでにだ?」


 いつまで──か。まあでも長引かせることにメリットはないからな。なるべく早めがいいに決まっている。


「……明日には決着をつけたいよな……」

「と言うことは、私にまた徹夜で改造しろと言うのだな?」


 桜井が笑顔を向けながら聞いてくる。

 これはきっと純粋な笑顔ではない! 裏に冷酷な何かが眠っている笑顔だ。


「嫌か?」

「いや、別に嫌ではないが、今日は家のベッドで寝れると思ってしまった分、落胆すると言うか……」


 まあ確かに、最近苦労をかけてばかりだからな。

 ほとんど全ての改造を桜井に任せているからな。何度も徹夜させているし、本気で嫌だと言うなら無理強いはできないか。


「……なら──」

「だが、まあいいだろう。私はそう言う人間だからな。ずっと」

「……そうか。なら頼む」


 呆れたようなため息を桜井は吐き、それから仕方ないなと言いながら引き受けてくれた。

 その時の桜井の顔は、どこか大人びて見えた。


「さ、そうと決まれば早速私は作業に取り掛からせてもらうぞ」

「ああ。頼んだ」


 桜井は飛行装置を持って杉田家を出て行った。

 すると残された俺、有野、長原さん、母親は、この後の予定など特に決まっていなかったので、桜井が出てからも少しの間ぼーっとしていた。


「っと。そういや有野は今晩どうするつもりなんだ?」

「どうするって?」

「寝床だよ」

「え? ここに泊めてくれるんじゃないの?」

「何言ってるんだ?」

「え?? 僕に氷点下の中野宿しろと!?」

「いや、桜井について行くんじゃないのか?」

「あ、ああ。そういうことか」


 何故ちょっと期待外れみたいな顔をしているのだろうか。こいつはもしかしたら氷点下の中野宿したかったのかもしれない。

 そうかそうか。期待を裏切ってすまんな。


「今から急いで追えば合流できるんじゃないか?」

「そうだね。僕行くよ」


 そう言って走って有野は家を出て行った。


「……えっと。それでは私はどこで一晩過ごせば良いの?」


 長原さんが困惑しながら訪ねてくる。

 おっと。忘れていた。


「──あ。いや、家にでも……」

「車もなく、電車も近辺にはなく、バスもないなか、タクシーで高いお金を払って帰れと言うんですか?」

「……か、母さん。車出してくれたり──」

「いやよ夜の運転なんて。怖いじゃない」


 まずい! このままでは長原さんを氷点下の中野宿させることになってしまう!

 俺は一体どうすれば良いんだ!!


「あの、お部屋とか余ってないんですか?」

「残念だけど無いわね。狭い家だもの」


 長原さんが問いかけるが、母親からは良い返事はもらえなかった。

 そう。この家には四人目を寝泊まりさせることのできる部屋は現在存在しない。

 拡張工事をすれば話は別だが、もはや論外である。

 くそっ! どうすれば良いんだ? うちにテントはあったか? シュラフはあったか? いや無いか。


「ならあんた、泊めてあげなさいよ」

「あ? そうだな──って、何をとめるって?」

「長原さんよ。あんたの部屋が一番広いし、あんた部屋にいる時ずっと暖房つけてるんだから、そこに泊めさせてあげなさいよ」

「は!? いや、それはまずいだろ! 長原さんだって無理だって言いますよね?」

「いえ、氷点下の中寝泊まりするよりかはマシです」


 完全に長原さんの中では二極化してしまっているじゃないか。

 この家で暖房をつけているのは実は俺だけだ。何故かって? 電気代が物凄いからな。

 だからきっと、母親は一番暖かい部屋で長原さんを寝かせてあげようとしているのだろう。

 成程。さすがは母親だ。が! しかしそこには俺の意思が反映されていない!

 俺の安眠はどうなる! 長原さんが同じ部屋にいて寝られるわけがない。

 け、けど長原さんは良いと言っているし、いいのか? いいのか!


 もちろんこの時長原さんは外で寝るか、中で寝るかを選んだだけなのだが、杉田は混乱していたため、それを理解できていなかった。


「まあ、長原さんが良いなら構わないか」


 そんな風に動揺を隠しながら接しているものの、実際はとても焦っていた。



***



 長原さんが泊まると言っても、特にいつもと何ら変わりはなく、普通に夕飯を食べ、普通に風呂に入って、あたかも冷静でいた。

 そんな中、その時はきた。


「さ、明日は多分早いしあんたもさっさと寝なさいよ」

「ああ」


 母親は軽くあくびをしながらそう言うと、そのまま自室に向かっていった。


「……さ、さて。俺も寝るかな」

「はい」


 そうだ。何も考えずにただいつも通り寝ればいいんだ。そうすれば何の問題もない!

 何も考えない。それを心がけながら自分の部屋に長原さんを招く。

 ん? なんか良い匂いが──ってばか! 無心だ!


「俺は床に敷いた布団で寝るから、長原さんがベッドで寝てくれ」

「ううん。私が布団で寝ますよ。気を遣ってもらわなくても大丈夫よ?」

「いや、そう言うわけにはいかないっすよ」

「……これじゃ余計寝れない……」


 俺の言葉に重なるように、長原さんが何かをつぶやいた。

 はて、俺の聞き間違いだろうか。俺の耳には『余計寝れない』と聞こえたぞ?


「今、何か言いました?」

「──いえ! 何もっ」


 長原さんはブンブンと頭を振って否定する。

 これはネガティブに捉えるべきなのか、ポジティブに受け取るべきなのか?

 俺から顔を背けるあたり──クソッ! どっちなんだ?!


「とりあえず、俺は布団で寝ますからね」

「ぁ──はい……。わかりました」


 何でそんな弱々しい声を出すんだ!

 全く眠れる気はしなかったが、とりあえず目を閉じてただひたすらに時間が経過するのを待っていると、いつの間にか俺は眠っていた。

 ただ一つ気になったのは、ベットの方から落ち着かずゴソゴソ動いたりする音が頻繁に聞こえたことだった。


 その日の夜。俺は夢を見た。

 それはきっと桜舞い散るある日のことだ。

 俺の前に長原さんが立っている。

 とても暖かい日の出来事で、不思議なことに、それは心温まる出来事だった気がする。

 ただ悲劇しか生まないと思っていた俺の夢だが、別に悲劇だけではなかったみたいだ。



***



 朝、普段通りに起きて朝食を食べ、覚悟を決めて玄関を開けると、ちょうど桜井が来ていた。


「遅いぞ。もうこっちは作業は終わった」

「そうか。なんか今にも倒れそうな奴が後ろにいるのは気のせいか?」


 俺が指差す先には頭をかくんかくんとさせ、今にも眠りに落ちそうな有野がいる。


「心配するな。こいつはほとんど役立たなかった」

「いや、ちょっと待てよ!」


 呆れた声で桜井が言うと、すかさず有野が話に割り込んできた。


「僕役に立ってましたよね!?」

「お前が何をした」

「お茶とってきたり、部品渡したり、エアコンの温度調節したりさ!」


 有野。それはただの雑用として、命令に従順に従っただけではないか?

 厳しい現実を教えてあげようとしたが、自分なりに役に立ったと思っているのなら教えてやるべきではないと考え、俺は黙った。


「おい、何だよその哀れなものを見る目は」

「いや、お前が納得してるなら別に良いんじゃないか?」

「形はどうあれ役立ったから良いでしょ!」


 まあ確かに役だったか役立ってないかと聞かれたら、間違いなく役立ってはいるな。


「さ、決戦に行くんでしょ! もう出発するよ!」


 有野はヤケクソ気味にちゃっちゃと準備を開始した。

 そうだった。今日が決戦の日だったな。気合いを引き締めていかなくては。

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